知っているもの、並行側
『ヒュリアぁぁぁぁああ!』
コクピットでカルメの叫び声が響いた。
モニターには、片足無くした《マーチャー》と、鉄屑へとなった《マーチャー》らしきものが写っている。
彼女の死は確定ね、と思いながらもチハヤはAIの《ヒビキ》に告げる。
「《ヒビキ》! ブースターの出力はまだ上がる?」
『現在、最大出力です』
時速1200キロで限界らしかった。
距離は縮まるが、ライフルを撃とうにも射線上にカルメ機がいて撃てそうにもない。
『お前……! お前がヒュリアを!』
カルメは怒りに任せてライフルを手に取り、《バイター》に向けて放つ。
《バイター》は頭部を下げて砲弾を受け止める。装甲が厚い所のようで、砲弾が弾かれていく。
「カルメ! 早く下がりなさい!」
その警告も聞こえていないようで、下がる素振りも見せずライフルを撃ちまくる。
マガジン内の全ての砲弾が吐き出され、ライフルは動作を停止した。
もう撃ってこないとおもったのか、《バイター》はカバーを開いてプラズマキャノンを露出させようとして、すぐ後ろへ跳躍した。
僅かに遅れてライフルの砲声が鳴り響き、砲弾が地面を穿っていく。
『ラファール00! 十秒足止めさせなさい!』
「……了解!」
アルペジオと数機の《マーチャーE2改》がカルメ機の近くに来て、牽制射撃。
この隙に二機がカルメ機の両肩を持って、全速で離脱を開始する。
それを見た《バイター》はプラズマキャノンを展開し、射撃態勢を採るが、《プライング》が一歩早かった。
「させない!」
その側面に全速力で叩き込まれる、《プライング》の膝蹴り。
寸での所で、プラズマキャノンが空へと発射される。
『危ないわね! もう少し早くしなさいよ!』
「こっちだって全速力なんですよ! これ以上は勘弁して下さい!」
チハヤはそう言いながらも、左背部の滑空砲を展開し、連続で砲撃する。
三発が撃ち込まれ、最後の一発が右翼部に被弾した。
「……おっと!」
《バイター》がパルスキャノンを展開したのを見てチハヤは《プライング》を後ろにクイックブーストで下がらせる。
どうやらパルスキャノンに当たっていなかったようで、短距離のパルスレーザーが放たれた。
「ラファール00より各機! 全速で後退しなさい! 殿は私が担当します!」
建物を蹴って下がりつつ、残弾が無くなった滑空砲をパージする。
ライフル二丁じゃ殺りきれないし押さえれないかもしれない、と思っていた時だった。
『ホークイ33よりラファール小隊へ! コーアズィ発生だ! 真上!』
遥か後方で飛んでいる《マーチャーC3型》からの通信が入った。
言われた通り見上げて、その光景を見る。
瓦礫が降ってくる―――なんてことはなく。
「飛行船? ……に、しては装甲に囲まれてる……?」
分かりやすいものを挙げるなら三胴船、といった構造のそれである。
中央に長い船体に、全長の半分から後ろの左右に小さめの船体二つを付けたような艦が一隻、宙に浮かんでいた。
艦橋のような構造物は見えないが、こちらが艦底なのだろうか?
鈍い銀色のボディを持った船で、遠未来宇宙SF物に出てきそうな船だとチハヤは思った。
宙に浮いているあたり、これまた不思議技術の産物だろうと思っていたら。
『照準警報』
「――――!」
《ヒビキ》の警告と同時に《プライング》をクイックブーストさせる。
先程までいた空間を100ミリ機関砲の砲弾が通りすぎた。
また下がりつつ応射する。
「全く、今日は忙しいわ」
正面には暴走自律兵器。上空には正体不明の浮遊物。
まずは正面かしら、と思っていたその時だった。
『《XFK039》へ通達。援護します。退避を』
無線から抑揚のない、機械の合成音声の日本語で通告された。
『暗号通信に介入されています。セキュリティレベルの更新、もしくはアドレス変更を推奨』
《ヒビキ》が今の通信がオープンチャンネルではないことを伝えた。相手は。それなりに暗号化された通信に対して簡単に割り込んだのだろうか。
それに、チハヤにとっては懐かしい日本語で語りかけられたことに驚く。
「えっ? 誰ですか今の?」
思ったことがそのまま、日本語で口に出る。
『チハヤユウキ。当艦 《ウォースパイト》は貴方を援護します』
次の一言は、衝撃的だった。
自分の名前を、誰なのかわからない人物から発せられたのである。
「確かにそうだけれど―――誰かと勘違いしていませんか?」
肯定しつつ、あり得ることを言う。
『声紋パターンから私の知るチハヤユウキと限りなく近い同一人物であると判断しました。名前が違うと言われたら謝罪しましたが、どうやら名前まで同姓同名のようで、こちらとしては認識が容易であり助かります。―――現在、私の置かれた状況は所謂、異世界転移といわれるフィクションではありふれた状況と酷似しています。私の記録上では、『チハヤユウキ』という人物は既に亡くなられており、この事から貴方は平行世界の人物であると結論付けしています』
長々と説明された。
『先程から無線を傍受していましたが話されていた言語は私の記録にはない未知の言語です。貴方が私を知らなくて当然ですが、現状として言葉の通じる貴方しか頼る術がありません』
「まあ、そうですけど」
『貴方達から見て私は未知の存在であるため、信頼を得る為にも、今後の活動の為にも暴走自律兵器、《FK075 バイター》の破壊を協力を申し出ます』
いい意味で素直な人のようだ。実に自分の利益を優先してそうだとも。
『チハヤ! さっきから誰と、何を話しているの?』
アルペジオから通信が入った。フロムクェル語しかないこの世界では日本語は通じなくて当然で、話した内容もわからない。
「とりあえず、《バイター》の破壊を手伝ってくれるって。全機そのまま下がらせてください」
まず、フロムクェル語で話して、
「えっと……。貴方のお名前は?」
日本語で、《ウォースパイト》に乗っているだろう誰かに話す。
『私はHALといいます。よろしくお願いします、チハヤユウキ。今からトマホークを三発発射します。退避を』
相手はハルと名乗り、空の艦から三発のミサイルが打ち上げられた。
僅かに上昇し、弾頭を《バイター》に向けて落下。
《バイター》は後ろに下がるが、ミサイルが先に地面に着弾した。
―――が、それだけである。
ほどよく壊れ、バラバラになっただけである。
「ハル、ミサイルが爆発してないわ。全部」
『使用期限をとうに過ぎているものです。動作保証はありません。信管は作動しているようですが、爆薬がどうやら長い年月を経て湿気っているようです。―――牽制にもなりませんね』
《バイター》も意外だったのか、不発のミサイルを見つめて、《ウォースパイト》を見る。
まずい、とチハヤは瞬時に判断。《プライング》はライフルを正面に構え、突撃する。
頭部カバーが開き、プラズマキャノンの砲口を《ウォースパイト》に向ける。
『プラズマキャノンを止めて下さい。一発なら持ちますが、同じ所に撃たれては当艦の装甲でも貫かれてしまいます』
「わかってます!」
ハルの嘆願に返答しつつ、ライフルの照準を定め―――。
《バイター》がこちらに気付き、目標を変更。プラズマキャノンをこちらへ最大出力で発射する。
右へクイックブースト。
直撃を避けたものの、衝撃波が《プライング》を襲う。
ブースターを緻密に制御して、なんとか堪える。
頭部カバーが閉じ始め、しかし。
「それだけは、置いてきなさい……!」
左のブレードライフルを突き出し、閉じる前に左腕ごとライフルをカバー内に入れ込む。
フルオート射撃。
HE弾が、プラズマキャノンの砲身を穿った。
爆発がプラズマ媒体に触れ、小さいながら爆発する。
『左腕破損』
視界の片隅にある現在の機体の状態の表示に、左腕が赤く発光する。
なんとか離れようとするが、左腕を挟んでいるカバーの閉じる力が強いのかびくともしない。
《バイター》のクローが《プライング》を掴もうと動く。
「左腕パージ!」
『上腕部から先をパージします』
とっさに命令を下す。
《ヒビキ》のアナウンスと共に爆砕ボルトが弾けて上腕部を切り離した。
自由を得た《プライング》は寸前でクローを回避。
『離れて下さい。速射砲、及び機銃を掃射します』
HALの言葉を聞いてわき目を振らずに下がる。
《バイター》の正面を《ウォースパイト》からの砲弾が耕していく。
『左腕喪失。肩部は健在の為、機動力は保持しています。戦闘は避けることを推奨』
《ヒビキ》のいう通り、《プライング》の状況は悪い。
武装は右手のライフル一丁のみ。残弾もマガジン一つ残っている程度だ。
「そうしたい所だけど……」
まだ、《バイター》は撃破していない。
HALから支援砲撃が行われているが、それも時間の問題だろう。
どうするかアルペジオに通信を繋ごうとして、状況が動いた。
『……! そっちは!』
アルペジオの通信。
《バイター》は南へと進路をとり、ブースター全開で逃走を始めたのだ。
『味方の第五騎士団が駐屯してる、レドニカ第四基地の方角よ! チハヤ、止めれない?!』
「残念ですが、無理です。弾もないし、損傷も軽くないわ。それに相手は思ったより速い。追いつけれない」
状況的に、諦めるしか無かった。
上空に浮かぶ艦、《ウォースパイト》からミサイルが飛んでいるが、ほとんどは避けられるだろうし、不発のものばかりだろう。
『第四基地に連絡急いで! 死んだ二人は……、回収班に任せます』
アルペジオから指示が飛ぶ。その声はどこか、無念とかやりきれない気持ちがあるかのようだ。
初の隊長としての仕事が、こんなことになるとは思わないだろう。
『基地に一旦帰投して、すぐ追跡出来ませんか? 補給しないと、これ以上の戦闘は困難ですわ』
エリザさんから進言。確かに、これまでの交戦で弾がかなり減っているだろう。
推進剤や、ジェネレーターのフェーズ資源は高効率のお陰でまだまだ余裕だが、砲弾回りはどうしても消費が早いのだ。
『……そうね。一旦帰投するわ。チハヤ、空の船、ついて来てもらって』
「わかりました。―――HAL、補給の為に一旦基地に帰投します。ついてきて下さい」
アルペジオの言った言葉を、日本語に訳して伝える。
『了解しました。こちらからの提案ですが、当艦に物資を積んで、追撃で接敵する前に艦内で補給するのはどうでしょうか? 当艦はフレームウェポン運用艦としての能力があり、そちらの野戦設備を持ち込めば最低限の整備補給出来るかと』
「物資積んで、《バイター》に追いつけるのですか?」
『当艦の巡行速度は時速980キロメートルです。当艦が基地に到着する前に物資を用意。到着後すぐに物資を積み、友軍が持ちこたえてくれれば追いつける望みはあります。そうでなくとも、私はあの機体の思考ルーチンは知っています。追いつくことも先回りすることも可能です。希望的ではありますが』
HALの言ったことに少し納得する。確かにそれなら追いつけれなくもない。
今言ったことを翻訳し、納得してもらわないと。
チハヤはそう思い、口を開いた。




