交戦
モニターに映った光景を見て、私は何が起きたのか理解するのに時間がかかった。
一瞬で、帝国のリンクスが15機。それが全部、《FK075》の翼部の武装によって周囲の瓦礫と共に一瞬で溶け、爆発したのだ。
《FK075》の正面はもはや炎に包まれていて、何があったのかすらわからなくなった。
少し遅れて、ビューともビィーとも聞こえる小さな射撃音と、それを大きく上回る爆発音が轟く。
『な、何? 今の?』
『ラファール00。何かあっ―――』
「……帝国軍のリンクス部隊が、全滅した……?」
見たままの事を、そのまま伝える。
たった一撃で?
たった一回の砲撃で?
どんな装備よ、と思っていた私に、警告音がコクピット内で鳴り響く。
こちらを向いた《バイター》が、頭部を上下に展開し、中にある四角い砲口を露出させる。
光が収束していき―――
「全機伏せなさい!」
無線にあらんかぎりの大声で叫んで、《プライング》のサイドブースターを全力で噴かせた。
咄嗟にして一瞬の機動。
二、三十メートルを文字通り一瞬で移動したのが、正解だった。
赤い火線が、軌跡だけを残して《プライング》がいた空間を切り裂いた。
僅かに遅れて、衝撃波が通過した付近の建物という建物を吹き飛ばし、機体を襲う。
視界に姿勢制御用のジャイロを投影して、それと見比べつつ懸命に、衝撃波で弾かれた機体を安定させる。
『《VSPC-04》可変速プラズマキャノンを確認。プラズマスフィア維持時間は約2秒。先程のは秒速6キロで発射と推定。回避を推奨します』
「おかしいわそんな装備!」
《ヒビキ》の説明に、思わずツッコんでしまう。
とりあえず、姿を隠さなければまた撃たれる。それがどれだけ効果があるかはわからないけど。
クイックブーストで、即座に建物の影に隠れる。
『何よ今の! 』
アルペジオからの通信が入ってきた。突然の衝撃波に、泡を喰った感じだ。
「さっき言った鳥のお化けからの攻撃! 当たればひとたまりもないわ!」
『今のが? 威力おかしいわよ!』
「こっちも言いたいですよ! ―――ラファール00より各機! どういう訳か《プライング》のデータベースに対象の情報があるから、データリンクで《FK075 バイター》のデータを転送します! 各自確認しなさい!」
『データリンク開始。情報を共有中―――完了』
《ヒビキ》のサポートもあり、すぐに情報が伝達された。
『なにこれ!』
『これ兵器なの?』
『か、勝てるわけ……』
データを見た人達は皆、驚きを隠せないようだ。
《FK075 バイター》。
対フレームウェポン(つまり対リンクス)用自律兵器。
頭部に可変速式プラズマキャノンが一門と100ミリ機関砲が二門。前者の射程は不明(代わりにプラズマスフィア崩壊時間が2.25秒)で各種射撃モードがある程度。後者は有効射程が千メートル――つまりは一キロ。
左右の翼にはパルスキャノンが18×2門―――つまりは計36門。有効射程は200メートル。
高周波ブレードでもあるクローアーム一対と、ナノマシン修復システム。
さらには自力で補給出来るよう各種作業アームと、補給口が存在する。
最大時速1200キロメートル。ここは《プライング》とそう変わらない。
注釈として、推進剤やプラズマキャノンの金属媒体は金属であればなんでもいいこと。
ナノマシンにより自己修復が可能で、装甲も修繕が可能。
おろか、鹵獲した装備を改造して自身へ装着するとのこと。
製造された機体全てが暴走しており、人間を敵として認識し、リンクスを優先的に攻撃する。
誰ですかこんな兵器作り上げたのは。
何が目的かわからないぐらいの内容である。
『ジリツ兵器って、なんですか?』
「簡単に説明すると人が操らない、プログラムにそって作戦行動を行う兵器。ある意味無人機ともいいます。―――多分、自分で判断して行動出来るAIを積んでるのではないでしょうか……。感情無いから、いくらでも殺せるかもしれません」
創作で、ロボットものでよくあるシチュエーション。
どうしてこう、面倒なものが相手になるのだろうか。少し頭を抱えたくなってくる。
『……ラファールリーダーより、各機へ! 至急後退するわよ! 姿は極力見せないで!』
声が割れているが、アルペジオから指示が飛ぶ。
部隊の全員から了解の一言で、建物に隠れつつ後退を始める。
そして。
『熱源急速接近。《バイター》と推測』
動体レーダーに熱源反応が感知され、急速に距離が縮まっていく。
リンクスの中でも速いはずの《マーチャーE2改》に、追い抜きそうな勢いで近づいてくる。
カタログスペックですら500キロ近く差があるのだから当然だが。
「ラファール00より各機! 散開!」
すぐさま無線に怒鳴る。
モニターには、回避する《マーチャー》と、かつて居ただろう空間に穴を穿つ100ミリの砲弾が映った。
この指示が功を制したのか、《バイター》頭部の100ミリ機関砲から全機が回避できた。
『……ラファール03、エンゲージ!』
カルメさんが《マーチャー》を転身させ、ライフルを《バイター》に向けて発砲した。
放たれた70ミリの砲弾は、《バイター》の頭部装甲に当たり、僅かながら傷をつける。
対して《バイター》は、翼部の装甲を展開し、パルスキャノンのレンズ、36門を露出させる。
「ラファール03! 下がりなさい!」
『―――!』
シールドを正面に構え、とっさに下がるカルメ機。
その正面―――建物全てが一瞬で溶融し、爆発した。
『ラファール03! 無事!?』
『なんとか! チハヤさんの警告が無かったら危なかった!』
「どういたしまして。―――あのパルスキャノンの射程は200メートルまで! 交戦するつもりならそれ以上は近づいてはダメよ!」
そう言って、《プライング》を建物より高く飛ばして、《バイター》を視界に入れる。
「《ヒビキ》。滑空砲を展開! 連続で撃ちます!」
『了解』
《プライング》の左背サブアームが稼働し、220ミリ滑空砲が展開される。弾種はHEET弾。
照準を《バイター》に合わせ、発砲。
《バイター》はその巨体をものともせずに、左へクイックブーストして回避。
つかさず次弾も撃つ。
「はい?」
二発目は、空中で爆発した。
《バイター》が、頭部の100ミリ機関砲で迎撃したのだ。
「どういうFCSしてるんですか」
飛んできたミサイルを撃ち落とせる《プライング》も大概ですけど。
そう思っていたら《バイター》の頭部が展開され、プラズマキャノンの砲口が露出した。
左へクイックブースト。
今度は先程ほどの衝撃波は無く、赤い火線が通りすぎるだけだった。
どうして? と思いつつも左右のライフルを撃って牽制し、建物に隠れる。
『チハヤ、さっきより威力無いように見えたけど?』
「可変速って言ってたし、短いチャージ時間だと威力が下がるのかしら? でも、当たったらまずそうね」
動体レーダーで味方の位置を確認。順調に後退しているようだ。
遅れないよう、私も続く。
適度に相手をするが、《バイター》は追いかけてくる。
『埒がない!』
「どうします? ラファールリーダー」
『攻撃は厄介だし、装甲は《ナースホルン》よりも柔らかそうだけど、《プライング》とそう変わらない機動力あるし……』
『撃破しない限り、ずっと追いかけてきそうでもありますわ。ラファール02は撃破を進言します』
『ラファール04、ラファール02を支持します』
その言葉を皮切りに、撃破を選択する声が部隊から上がってきた。
『こちらラファール01。条件付きで同意するわ。―――この数でやれる相手とは思えないから』
しばらくの沈黙。
恐らくは、《バイター》相手にどうするかを思案しているのでしょう。
『―――増援を呼んで、来るまで遅滞戦闘するわ』
「進言します。増援には待ち伏せてもらいましょう。こちら奴の気を惹き付けて、左右から増援に挟撃して貰えれば勝ち目はあるかと」
ようは釣りの伏せ。
『なるほど。でも囮を私達で?』
「ええ。―――進言した以上は私が殿をやります」
そう言って《プライング》を振り返らせて、UAVを飛ばす。
「《ヒビキ》。低く飛ばして、《バイター》の背後辺りから追いかけるように設定を」
『了解』
指示通りにUAVが飛んでいくのを見届けて、アルペジオに通信を繋ぐ。
「ラファールリーダー。基地に増援の連絡を」
『今したわ。団長が600はもたせろって。あと、ローテーション組んで対応すること。ラファール03と06と組みなさい』
「了解。それでは、参りましょうか」
そう言って、《バイター》へ突撃を開始した。




