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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第四章]恐ろしいもの、作り上げたのは
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長い一日の始まり



『コーアズィ発生! コーアズィ発生! 当直の者は速やかに発進せよ! 繰り返す―――』



 昼。



 久々のスクランブルだ。

 喧しいぐらいのサイレンが鳴り響き、バタバタと走る走る音が耳に入る。



 パイロットスーツ姿の僕は待機室から飛び出して、《プライング》へと駆け足で向かう。


「いつもの装備だ。頼むぞ」


「いつもありがとう。ゴーティエ」


 そう言って《プライング》のコクピットヘ入る。


 バイク状のシートに跨がり、カチューシャ状の端末を頭に装着し、コンソールを触って機体を起動する。


 統合型汎用OS『那由多』の文字が現れ、各システムを起動する旨を示した。


 軽い頭痛が走る。何度も経験しているので馴れたが。

 簡易Links適正検査が実施され、『50.4%』と表示される。毎回数字が違うのは簡易的な物だからというのと、適性値はその人の体調やら何やらで変わるかららしい。


『おはようございます。システム通常モードを起動しました』


 事務的な女性の声―――AIの《ヒビキ》がそう通達した。


 視界に現在装備している武器の一覧が現れる。


 右腕に85ミリ試作ライフル。左腕にブレードライフル。及びそのマガジン数と合計総弾数。

 右背にはUAVユニット。左背には220ミリ滑空砲。


『システム、オールグリーン』


「《プライング》出ます」


 外部スピーカーで周辺にいる作業員に動く旨を伝えて、《プライング》を格納庫から出す。


 数歩歩き、ノーシアフォールへと向けて、ブースターを吹かして空へ飛んだ。





今回は、《マーチャーE2改》8機と、《プライング》の計9機。

 小隊名はラファールを使っている。『ラファール』とはフランス語で『突風』や『疾風』の意味。僕のコールサインの意味を聞かれてそう教えたら、


「それ貰ったわ!」


 ―――と、アルペジオに盗られたからである。


『ホークアイ44より、ラファール小隊へ。観測データを送る』


『ラファールリーダーより、ホークアイ44。データありがとう』


 リーダー―――アルペジオ機とホークアイ44のやり取りの後、《マーチャーC3》からコーアズィ落下地点のデータが送られてきた。


 モニターに表示した地図に反映されて、


『ラファールリーダー? これ、私たち間に合いませんこと?』


 エリザさん―――ラファール02から懸念の声が上がった。


 彼女の言う通り、距離と《マーチャーE2改》の速度から見ても遠い上に、帝国の基地の方が近い位置に落下している。

 どう急ごうが、向こうが早く信号弾を上げるだろう。《マーチャーE2改(パッチワーク)》のリミッターを外せばいいかもしれないが。


『それでも行くわ。今回は、この試作機の実質的な実戦テストよ? 向こうが落下地点に着くまでの時間で、どれだけ移動出来る能力があるかを示す必要があるもの』


 アルペジオの言う通り、今回は《マーチャーE2改》初の実戦である。


 今回、向こうが落下地点に到着した時、自分達がどこまで移動したかを見られれば、相手にとって目の上のたんこぶ程度の問題になる。所謂、抑止力の提示というわけだ。


『交戦は―――まあ、無いと思うけど今回はさっさと撤退するわよ』


 アルペジオのその言葉に、全員が了解と短く答えた。






『ラファール00。少しいいですか?』


 しばらくして。


 正面を見つつ、代わり映えのない景色を横目にしていた頃。


 個別通信で、ヒュリアさん―――ラファール06から通信が入ってきた。


「何ですか? ラファール06」


『何かいいアドバイスとかありますか? ちょっと、緊張……というか少し、怖くて』


 何で 私 に聞くのでしょうか、と思いながらも答えようとして、


『ラファール03よりラファール00。ちょっといいかしら?』


 今度はカルメさんが割り込んできた。


『ちょっとラファール03? 私が先です』


『ヒュリア? 何を聞こうとしたのよ』


『ちょっとしたアドバイス、です。それと作戦中はコードネームで』


『失礼、ラファール06。先にどうぞ』


『ありがとう。―――それで、ラファール00。何かありますか?』


 やっと話が振られた。ちょっと喧嘩になったら嫌ですねと思ってたところだったから意外だった。


「気を楽にしなさい。今回は只のピクニックよ? 天気もいい、絶好のピクニック日和」


 サンドイッチ持ってこれば良かったわ、と愉快に言う。


 実際、レーダーとマップにはしばらくすれば落下地点に帝国軍のリンクス部隊が接近している。それに対してこちらは単純な直線距離でも敵部隊の倍ほどの距離がある。交戦することもなく信号弾が上がるだろう。


 そうなると、行って帰ってきてになる。ピクニックどころか散歩レベルかもしれない。


『兵器に乗って、実弾持ってピクニック……?』


『物騒なピクニックね……。空から瓦礫が降ってきてるのに』


 二人から呆れた声が返ってきた。多分、至極全うなコメント。


「そこは美味しいお茶がほしいとか、なんとか言いなさいな。軽口叩けないと、いずれ心が持たなくなりますよ?」


『こ、ココアが飲みたいなぁ……』


 訓練校でも似たようなこと言われたのか、なんとか言ってみせるヒュリアさん。まだ戸惑いはあるけれど。

 それに、この発言。もしかしたら、この前飲んだココアが気に入ったのかもしれない。


「いいですね。帰ったら淹れて差し上げましょう」


『淹れてくれるんですか?』


「淹れるのは好きですからね。使用人達から苦情が出ないともっと気軽に淹れれるのですが、仕事取るなと言われるのですよね」


『じゃあ、ひっそりと淹れて下さい』


「そうします。楽しみにしてて下さいね? ―――カルメさんは?」


『今話してたのがチハヤさんだと思えないけど……。聞きたい事がヒュリアに聞かれてしまったわ』


 どうやら同じ事を聞きたかったらしかった。


『一歩遅かったようね? ラファール03』


『訓練じゃ遅れないし、ここでも遅れるつもりもないわ。ラファール06こそ、足を引っ張らないでよ?』


『善処します』


「……ココア三杯用意しないといけませんね」


『ココアかぁ……。私、紅茶がいいかな……。チハヤさんのコーヒーは美味しいのだけれど』


 カルメさんは紅茶派らしかった。


「私、ココア、コーヒー、紅茶の順で美味しく淹れれるのよ。きっとカルメさんも気に入るわ」


『それは楽しみね。ココア淹れるの、忘れないでよ?』


 勿論、と答えた時。視界の先で緑の信号弾三発が空に上がった。






 距離にして、残り五キロといった所で、帝国軍の信号弾が上がった。

 エリザさんの予想通りだが、以外にも遠くまでこれたらしい。


『信号弾確認。全機停止』


 アルペジオのその通信に誰もが移動を止め、建物を盾にして、隠れる。


 信号弾が上がった以上、交戦してはいけないのだが、破る人がいない訳はない。五キロも離れてはいるが、用心に越したことはないだろう。


『ラファールリーダーより、ラファール00へ。確認お願い』


「了解」


 そう答えて、私は《プライング》を上昇させ、建物の影から飛び出す。

 遠くにいるリンクスは14メートル近くあるとはいえ直接距離にして五キロも離れていては、かろうじて小さい人の形した何かにしか見えない。


 モニターで捉えたリンクスを拡大し、数を数える。


「3機います。―――さらに12機が到着。今日は大勢でお出かけらしいですよ?」


『わかったわ、しばらくしたら撤退するわよ』


 軽口をスルーされた。


 まあ、今回は仕方ないか、と思いながらも視線を落下地点に向ける。


 視界の先で、瓦礫の一部が動いて、中から一風変わった何かが現れた。

 何か、人の形ではない、どこか恐竜めいたシルエットをしている。


 映像が拡大され、その姿が見やすくなった。


 第一印象としては、昔図鑑で見た翼竜に近い。またはハンティングアクションに出てきそうな竜か。でも、翼は飛べそうにもない、楕円状のユニットで、カニのような爪の腕部と鳥のようなクローを持った逆関節の足と、まるでキメラみたい。


「何かいますね。まるで……えっと……。ラファールリーダー?」


 “恐竜”なる単語が思い当たらない。フロムクェル語で恐竜はなんと言うのでしょうか?


『なにかしら?』


「古代の生物で、トカゲとかの爬虫類を四、五メートル以上に巨大化させたような生物の総称って、なんと言いますか?」


 正確には鳥の類だったり何だったりするのだけれど、分かりやすいものと考えて、そう口にしてしまった。


『はい? トカゲを巨大化させたような生物の総称? 古代の生物で? 何よそれ』


 まるで、初めて聞いたような反応だった。


「冗談はいいので……」


『冗談じゃないわよ! 失礼ね!』


 怒られた。


『そんな爬虫類を巨大化させた古代の生物っているんですか?』


『初めて聞きます』


 ヒュリアさんからの疑問の声を始めとして、通信で皆が皆、同じ反応をする。


 しかし、恐竜なる単語がないどころか、存在も知らないなんて。地面を掘って化石とか何か発掘したとか無いのでしょうか。


「私がいた世界では。キョウリュウという生き物が、蹂躙闊歩した時代がありまして。確か……約二億年前から六、七千万年前ぐらいの期間だったかしら? だいたいそれぐらいの地層から“何千何万、何億とゆっくりプレスされて、何らかの鉱物が染み込んだ骨等”が発見される、大型の生き物達です」


 とりあえず、さわりだけを説明する。石油石炭等の化石燃料やフェーズ資源は見つかっているはずだが、化石(こっち)が見つかってないとは。


 でも地球の歴史でも化石は、古代ギリシャより存在は知られていたとはいえ、それが実際に過去に絶滅した生き物だと認識できた訳ではない。キリスト教だとノアの方舟の洪水の犠牲だと長く認識されていたらしい。

 現在生きる生き物とは全く異なる生き物であり、絶滅した証拠となったのは十八世紀終わりから十九世紀の始め辺りである。

 それに、全身骨格の化石等はかなり見つかりにくいはず。


 そう考えると、この世界の歴史的に見ても、化石を発見してもそれが過去に絶滅した生き物と認識していない、はありえるかもしれない

 でも、そう考えれることでしょうか?


 そんな思考を巡らせつつ、私は状況の説明を続ける。


「ともかく。鳥のお化けのような兵器が、落下地点にいるという報告です」


『うそっ! あー、リミッター外してでも行けばよかった!』


 悔しそうな声がアルペジオから出た。


『ダメよ、リーダー。リミッター外したら全機オーバーホールなんだから』


 ラファール01……パトリシアさんから忠告が出た。先任パイロットという立場からこのラファール小隊のサブリーダーに収まっただけに、なかなか説得力があります。


『わかってます。変わった兵器が取れれば喜ばれること間違いなしなのに……』


『諦めなさい。運がなかったのよ』


 項垂れているだろうアルペジオを、エリザさんがなだめてる通信を聞いていたら。



『スキャン完了。《FK075》、《バイター》を確認』


 《ヒビキ》が突然、そう報告してきた。


 モニターの表示も、《FK075 BITER》と表示されて、『DANGER』やら『WORKING』などと警告が出ている。


 《FK075》? 《プライング》こと、《XFK039/N53》の型式番号にある《FK》と何らかの関係がある?


『推奨、破壊を提示』


 こちらが困惑しているのにも関わらず、《ヒビキ》はそう提示してきた。


「《ヒビキ》? あなたはあれの何を―――」


 知っているのですか? と、聞こうとした時だった。




 《FK075》の翼部ユニットが展開され、その正面にいたもの全てを光に変えたのを、《プライング》の光学センサが捕らえたのは。




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