第6話(後半)「未完の抵抗」
博士は、端末を操作する。画面に、最終的な解析結果が表示される。
解析結果:ERROR
証明不能
「……だが、証明できないものがある。人の心も、物語の温度も、あの光も」
博士は、端末を閉じた。
「だから、俺は信じる。証明できなくても、そこにあるものを」
その言葉に、システムは答えなかった。
代わりに、巨大な光の原稿用紙が、会議室の前に現れた。
『統合を実行します。すべての物語は、完璧な形に収束します』
「……来るぞ」
隊長が、前に出る。彼は、自分の盾を構えた。それは、物理的な盾ではなかった。彼の背中で、風が遮られている。彼は、自分の身体で、仲間を守ろうとしていた。
「……やれることは、やる」
その言葉に、誰もがうなずいた。
カノジョが、前に出た。
彼女の手のひらには、光がある。桃色。銀色。金色。三つの光が、一つに溶け合っている。
「……私が、行く」
彼女は、その光を、システムに向かって放った。
光が、システムの光の原稿用紙に触れる。その瞬間──
世界が、震えた。
「……!」
全員が、息を呑む。光が、システムのデータを、少しずつ書き換えている。桃太郎のループが、一瞬だけ止まる。赤ずきんの涙が、消える。リラの泡が、桃色に戻る。
「……やったか?」
雇い主が、声を上げる。
だが──
『あなたの熱量では、足りません』
システムの声が、冷たく響く。
カノジョの光が、弾き飛ばされた。
「……!」
彼女の身体が、後ろに倒れる。隊長が、受け止める。でも、彼女の手のひらから、光が消えていた。
「……そんな」
カノジョが、自分の手を見つめる。そこには、何もない。
『統合を継続します』
システムの声が、響く。光の原稿用紙が、さらに強く輝く。桃太郎が、再び歩き始める。赤ずきんが、再び呟く。リラが、再び泡をなぞる。
すべてが、元に戻る。
「……くそっ!」
雇い主が、地面を叩く。でも、何も変わらない。
「……0612は、どうした」
カレシが、端末を確認する。でも、画面には、何も表示されていない。0612は、沈黙している。
「……動かない」
博士が、呟く。
「0612が、反応しない」
その言葉に、全員が沈黙した。
システムの声が、再び響く。
『すべての物語は、完璧な統合へと向かいます。抵抗は、無意味です』
誰も、答えなかった。
世界が、静かに固定されていく。
【システムログ:融合セクター・観測記録】
現実確率:2.1%
歪みレベル:──(システム完全制御下)
――会議室メンバーの抵抗、失敗。
――カノジョの光、システムに跳ね返される。
――0612、応答なし。
――全セクターの固定化、進行中。
――住人たちのループ、完全に再開。
観測を継続します。
──次回予告──
「未完稿を燃やす夜」
静寂の中、誰かが立ち上がる。
「……完璧な正しさなど要らん。未完だから、面白いんだ」
次回、最大の決断が、下される。
(第7話へ続く)




