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【物語紀行】――Season 2公開:赤ずきん編「真実は、観測された瞬間に嘘になる。」  作者: Taku
第1章 Season 1【桃太郎編】「英雄やめたい桃太郎と、落ちてきた会議室」

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第1話「会議室、桃の木に落ちる」

中継セクターの御前会議室が、時空の狭間を真っ逆さまに突き落とされ、どこかへ激突した。


がたん!!


強烈な衝撃に、円卓の上のコーヒーカップがいくつか宙を舞って床に転がる。


「……たたた。皆さん、大丈夫ですかー!?」

雇い主が、頭を押さえながら声を張り上げた。


「こっちは問題ない。長老、しっかり掴まっててください!」

隊長が長老の椅子の背もたれをがっしりと掴む。


長老は乱れた白髭を気にも留めず、窓の外を見つめた。

「ここは何処だ。見慣れぬ、ずいぶんと緑豊かな景色だな……」


雇い主は慌てて手元の端末を叩く。

「それが……時空座標が特定できないんです! でも、GPSがなぜか『おばあさんが川で洗濯をしていた上流300メートル』っていう、わけのわからない位置情報を指し示していて……!」


「未来? 過去? 過去はちょっと勘弁っす」

青年が髪を掻きながら周囲を見渡す。


読者むこうには繋がるのかね」

博士がメガネを押し上げ、冷ややかに呟いた。


カレシが即座に端末を操作する。

「中継セクターとの通信は生きています。記録の継続は可能なようです」


「まずはコーヒーでも淹れて落ち着きましょう。混乱した時は、それに限りますわ」

女将が割れなかったカップを愛おしそうに拾い上げ、おっとりと微笑んだ。


そんな大人たちの困惑をよそに、外を偵察していたカノジョとスターが、勢いよくドアを開けて戻ってきた。


「外、お散歩してきたよー! なんか不思議な景色!」

カノジョが両手を広げてはしゃぐ。


「あー。ちょっと気になったのは、観客の歓声……いや、人の気配がまったく無いのが気掛かりだな」

スターがロングジャケットの襟をスマートに正しながら、不満げに首を傾げた。


その時、窓の外から、ドスンドスンと、巨大な何かが動くような地響きが響いてきた。


「長老、後ろに! ここは私が食い止めます!」

隊長がファイティングポーズを取って最前線へ躍り出る。


会議室に緊迫した空気が走った。


だが、カノジョは隊長の脇をすり抜け、無邪気に窓を開けた。


一瞬の沈黙。


「ねえ、君だーれ? ……あれ? どこかで会ったことある?」


全員の視線が窓の外へと注がれる。


そこに立っていたのは、桃の刺繍が入った陣羽織を羽織り、腰に日本刀を差した十代半ばの少年だった。


しかし、その少年――誰もが知る『桃太郎』は、死んだような目をしていた。


「……はあ」


桃太郎は盛大に溜め息をつき、巨大な桃の木が突き刺さった会議室に近づいてきた。


「なんだお前ら。俺は今から鬼ヶ島に行かなきゃいけないのに、進路妨害すんなよ……。っていうか、何そのヘンテコな部屋。新手の鬼の罠?」


カノジョは窓から身を乗り出し、ポッキーを差し出した。


「はい! ポッキー!」


桃太郎は一瞬だけ目を輝かせた。


「……くれるの?」


「うん!」


一本。ポリ。二本。ポリポリ。


そして三本目をくわえたまま、ぽつりと言った。


「……俺さ。鬼ヶ島、行きたくない」


「「え?」」


桃太郎は肩を落とした。


「だってさぁ……完全歩合制。しかも出張手当もなければ交通費も自腹」


「……は?」


「倒した鬼の数が評価基準だよ」


隊長が思わず聞き返す。


「評価?」


「しかも装備、自前。命がけ。タイパなんてもんじゃない。ライパ極悪」


「え?」


「労災なし。死亡保険なし」


「えぇぇぇぇぇ!? ブラック企業じゃないか!」

雇い主が頭を抱えた。


桃太郎は、ようやく理解者を見つけたような顔になった。


「でしょ!?」


勢いがつく。


「おじいさんもおばあさんもさぁ。

『村の英雄になれ』、『みんな期待してる』

とか、ほんとうざいんだよ!」


長老が机を叩く。


「英雄とはそういうものだ!」


桃太郎は即答した。

「昭和なの? まあ、こっちはもっと昔だけど」


「ぐっ……!」


長老、絶句。


その隣で青年が吹き出す。


「長老、完全論破されてる……」


桃太郎はまだ止まらない。


「しかも、犬。猿。雉。きびだんご一個だよ」


カレシが端末を叩く。


「……最低賃金法違反の可能性があります」


博士もうなずいた。


「労務管理にも問題があるな」


桃太郎は両手を広げた。


「でしょ!? コンプラどうなってんの、この世界!」


その時、会議室のホワイトボードに、バチバチと火花を散らしながら文字が浮かび上がった。


『ミッション:桃太郎の【真実のドキュメンタリー】を完成させよ。さもなくば、この世界からログアウト不可』


「な、なんだってー!?」

雇い主が頭を抱える。


カレシが即座に端末を叩く。

「この世界は、彼が鬼を退治して英雄にならないと話が先に進まず、私たちも次の世界へ行けないようです」


「『真実』とは何か。単なる記録か、それとも……彼の『本当の声』か」

博士が腕を組んで眉をひそめる。


その時、キラーンと眩しい効果音を背負うようにして、スターが円卓から立ち上がった。


「主役。いいじゃなーい」


スターはドレッシーなジャケットを翻し、窓からひらりと外へ飛び降りると、桃太郎の前に着地した。


「やあ、君が噂の主役かい? いやぁ、衣装の桃のエンブレム、じつにポップだ!」

桃太郎の手を引き寄せ、両手で力強く握りしめる。


「えっ、何この人……芸能人?」

スターの放つ圧倒的なオーラに、桃太郎は完全に気圧されている。


「君の気持ちはよく分かるよ。僕だって若い頃は、他人のバイクで走りだし、この支配からの逃避を夢みたものだよ。僕たちと一緒に、『真実のドキュメンタリー』を撮って、仕組まれた物語から解放しようや!」

スターがニカッと輝く笑みを向け、桃太郎の肩をポンと叩いた。


「尾崎、入り込んでます……監査役に著作権とコンプラの確認が必要です」

カレシは中継セクターへの通信を始めた。


「ド、ドキュメンタリー……? 俺が主役?」

桃太郎の死んでいた目に、ほんの少しだけミーハーな光が灯る。


「おもしろそー! 鬼ヶ島いこー! 鬼さんにもポッキーあげる!」

カノジョも窓から飛び降りて、桃太郎の腕を引っ張った。


「おい、待ちなさい二人とも! まだプロットの構成が――!」

慌てる雇い主の声を置き去りに、やる気ゼロの英雄を巻き込んだ、会議室メンバーの理不尽なハッキング旅が幕を開けた。


【システムログ:桃太郎セクター・観測エラー】

現実確率:98.4%

歪みレベル:小

――物語の外側より、未確認オブジェクト(会議室)の不法占拠を確認。

――なお、周辺の村境にて、名前を持たない村人Aが、本来存在しないはずの『0612』の文字を地面に刻んでいるのを検知。

村人A「……まだ、早いか」


観測を継続します。


──次回予告──

「鬼ヶ島取材班、結成!」

鬼さんにもポッキーあげるんだ!

…………え、怒られる?

―――作品関連情報―――

・Season1『桃太郎編』は全8話。その後も物語紀行の旅、そして登場人物の物語は続きます。

・登場人物は本作品のあらすじと下記画像の掲載をしています。

画像イメージはこちら↓※スター誕生前

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3034788/blogkey/3665957/

・また、本作品が生まれたきっかけや登場人物のキャラクター像は下記作品で確認できます。

作品名:短編A-①『御前会議 ―物語創生記録―』~「彼女の時空」が繋がるまで~

第一話

https://ncode.syosetu.com/n4662ml/1/

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