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006

ギルドで金貨を両替してもらった僕は、サイプレスを連れて市場に来ていた。


「ちなみに坊主、市場で買い物したことあんのか?」

「お恥ずかしながら、市場に来たのは生まれて初めてです」


市場には野菜や穀物、香辛料や塩の量り売り、生活雑貨などが売りに出されていた。

僕はふと気になったことをサイプレスに訊ねた。


「あれ、木の実とか果物って置いてないんですね?」

「ああ、樹木から採れる木の実や果物は魔力を含んでいるからな、市場では基本的には出回らないだろうぜ。値段も、庶民が買える金額ではないからな」

「そうだったんですね……」


今まで屋敷に置いてあったリンゴみたいな果物とかクルミみたいな木の実についてあまり深く考えたことはなかったが、どうやら高級品だったようだ。

今度からはもっと味わって食べるようにしよう。


「あっ、あそこに木板が売っていますよ。契約書を作るときに使うかもしれないので、値段を見ておきたいです」


サイプレスは無言でついてきた。

店のおじさんに声をかけて、値段を聞いてみることにした。


「こんにちはおじさん、契約書とかで使う木板が欲しいんだけど、1枚いくらかな?」

「いらっしゃい、お坊ちゃん。木板なら一枚10リンだよ。契約書用に枠線が書いてあるやつは一枚15リンだ」


この世界には賎貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の5種類の貨幣がある。

さらに賎貨は1リン、5リン、10リン、50リンでそれぞれ大きさが違う。

銅貨は、100リンの小銅貨、500リンの中銅貨、1000リンの大銅貨に分けられている。

銀貨も大きさごとに価値が決められており、1万リンの小銀貨、5万リンの中銀貨、10万リンの大銀貨となる。

金貨は1枚で100万リンで、白金貨は1枚を1000万リンとなるが、この辺の貨幣は日常生活で使う機会はほぼない。

両替の時の相場は国内では固定で、変動することは基本的にないが、国境を超えた場合には他国の貨幣がどのような価値になっているかは不明だ。

契約書用の木板は1枚15リンとのことなので、枠線有りと枠線無しをそれぞれ10枚ずつ購入することにした。

木板は厚みが3ミリメートル程度あり20枚ともなるもけっこうかさばる。

木板売りのおじさんは、木板を紐で縛って持ちやすいようにしてくれた。


「あいよ、毎度あり!」

「ところでおじさん、紙って売ってないの?」

「紙ってのは、あの薄くてペラペラした紙かい?」

「そうそう」


この世界に転生してから、紙というものを見たのはほんの数回程度だ。

まず思い出すのは教会に行った時、神父さんが大事そうに抱えていた本があった。おそらく聖書ではないかと思う。

次に、父の書斎にある本棚に収納されている本だ。

ほとんど木板で埋め尽くされているのだが、わずかに一列だけは紙で書かれた本が収納されている。

日常生活では紙はほとんど使われていない。


「うちでは取り扱ってないなぁ。魔物の皮から作られる魔皮紙か、樹木から作られる魔紙があるけど、許可を持ってる専門店じゃないと取り扱いできないから」

「そうなんですね。ちなみに許可を持ってるお店ってどこだか知ってますか?」

「城塞都市リョーマで紙を扱ってる大商会と言えば、イレックス商会しかないよ。ただしあそこは一見さんお断りだから、お坊ちゃんを相手にしてくれるかはわからないなぁ」

「おじさん色々教えてくれてありがとう!すごく参考になったよ」


灯台下暗し、まさかイレックス商会がこの街で唯一の紙の取り扱い店だとは知らなかった。そう言われてみれば、御用商人なんだから当たり前だよな。


「なんだ坊主、紙に興味があるのか?」

「いえ、木板て厚みがあるからかさばるじゃないですか。契約書とかも紙に書いた方がいいんじゃないかと思いまして」

「あー、そういうことな。紙で契約書を作っちまうと、効果が強すぎるんだ。魔物の皮から作られる魔皮紙であろうと、樹木から作られる魔紙であろうと、いずれにしても魔力を帯びている。そんなものにうっかり何か書き込むとだな、魔法が発動しちまうんだよ」

「えっ!?紙に書いただけで魔法が発動するんですか?」

「そうだ。例えばさっきギルドで俺たちの雇用契約の契約書を作ったが、これを魔紙で作った場合、雇用契約が完遂されなかった場合には、最悪、二人とも命を落とすことになる」

「そ、それはやむを得ず契約を解除したなどの場合を含む、ということですか?」

「そうだ。魔皮紙もしくは魔紙に記載された事項は、どんなことがあっても実行されなければならない。だから命をかけるほどでもない契約ってのは魔紙じゃなくて木板で交わすんだぜ」


なんと恐ろしい。

魔力を帯びた紙にうっかり適当な事を書くと、最悪の場合命まで失ってしまう可能性があるとは。

でも、いつも使っている木板ではそんなことは起きないはずだ。

どうしてなんだろう。


「木板てのはな、木って呼んでるがあれは草の仲間だ。一年でめちゃめちゃデカくなる草があってな、それをスライスして木板を作っているはずだぜ」


なんと、木板と呼んでいる板は、めちゃくちゃデカくなる草から作られていたとは、思いもよらなかった。


「ということは、草は魔力を帯びていないのでしょうか?」

「草でも魔力を帯びるものもある。俺は専門家じゃないから詳しくは知らないが、多年草とか球根で何年も生き延びた草は魔力を帯びるらしいな」


ということは、冬を越すと魔力を帯びるようになるのだろうか。

それとも芽吹いてから1年以上経過すると魔力を帯びるようになるのか。

この辺りの話は面白そうなので、後日イレックスさんにも聞いてみることにしよう。

紙についての情報を得た僕は、満足して屋敷に帰ることにした。






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