005
サイプレスに詳しく調べてもらったところ、僕の魔力は【ぶっ壊れレベルで極めて多い】ということが判明した。
ということは、僕には魔法士の才能があるということだ!
「サイプレスさん、その、テスト結果は……」
「文句なしの合格だ。俺がお前を一流の魔法士として育ててやるぜ」
「やった!よろしくお願いします、師匠」
師匠と呼ばれたサイプレスは恥ずかしそうにしていたが、なんとなくまんざらでも無いような感じだった。
「師匠ってのはその通りなんだがな、坊主。人前では俺のことは呼び捨てにした方がいいぜ。建前としては、俺はお前に雇われてる護衛って扱いになってるからな」
サイプレスの言う通り、一応僕は商会長であって魔法士の弟子になったわけでは無い。サイプレスは護衛として雇っているだけなのだから、人前では呼び方に注意したほうがいいだろう。
「それでも呼び捨てにすることはできないので、サイプレスさん、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「好きに呼びな」
サイプレスは顎ひげをいじりながらそう言った。
「それとな、坊主。坊主の総魔力量が実は【ぶっ壊れレベルで極めて多い】ことは今のところは伏せておいた方がいいと思うぜ」
「それは悪目立ちするからでしょうか?」
「それもあるが、一番大切なのは相手に情報を与えないことだ。坊主は貴族だからこの街から一歩外に出たら敵だらけだと思った方がいい。その場合には、坊主は魔法が使えないザコだと思わせておいた方が相手はこっちの対策を取りづらくなるってわけだ」
「さっそく素晴らしい教えをいただきありがとうございます!サイプレスさんにお願いして本当によかった!」
「(ったく、これで10歳だったんだから末恐ろしいよな)」
場が温まったところで、僕はコホンと咳払いした。
「ところで、肝心なところを先に決めさせていただきたいのですが、謝金はどの程度お支払いすればよろしいでしょうか」
「俺は魔法士の仕事で蓄えがあるから別に金なんていらないんだがな……」
「そうはいきません。建前でも護衛として扱うように言ったのはサイプレスさんじゃないですか」
「なるほど、良い弟子だ。それじゃあ単刀直入に聞くが、坊主の払える金額はいくらなんだ?」
僕は手持ちの金額を正直に伝えることにした。
その方がきっとうまく行くような気がする。
「僕の全財産は金貨30枚です。僕自身を担保にすればあと金貨100枚はご用意できますが、それで足りるでしょうか?」
「いらん借金なぞするな。月に金貨1枚、2年間で金貨24枚でどうだ?」
「魔法士の相場がわからないのですが、それってかなり破格の安さだったりしないでしょうか?」
「かっかっかっ。安すぎるってことはないぜ。それで引き受けてくれるやつがいるかどうかが問題だけど、今回は俺自身がその金額でいいって納得してるから全く問題ねぇな」
サイプレスは笑いながらそう言い放った。たぶん本当はもっと高いんだろうと思うが、今回はご厚意に甘えておくとしよう。
「それじゃあ坊主、とっととギルドに戻って契約を交わそうぜ。それで、2年分の金額をギルドに前払いしちまえ。そうすれば、後から俺に指名依頼が来たとしても、先約を理由に断れるようになるからな」
なるほどと思った僕はさっそくサイプレスと共にギルドに向かい、スズキ氏の立会いのもとで2年間の雇用契約を結ぶこととした。
その旨をスズキ氏に説明したところ、驚きのあまり冷や汗を書いていた。
「それで、これが護衛の依頼料の金貨24枚です。お確かめください」
「承知しました。確認させていただきます」
そう言ってスズキ氏は僕から金貨を受け取った。
基本的に依頼人は必ずギルドを通して料金を支払う。
ギルドに所属している人間と依頼者が直接金銭のやり取りをすると、必ず問題が発生するからだ。
悪質な依頼者は料金を値切ろうとしたり、支払いを拒否したりする場合もあるらしい。また、ギルドに所属している人間が約束した依頼を達成できなかった場合には返金の対応をする必要があり、これもまたギルドの役割である。
依頼を達成できなかった人間の評価は下がり、真面目に依頼をこなす人間の評価は上がる。このようにして評価が積み重なると、実績に応じてギルドランクが与えられるようになる。最低評価はFランクで、最高評価はAランクだ。
ただしこれはあくまでギルドの依頼を真面目にこなしたことに対する評価なので、必ずしも本人の実力とは一致しない場合があるという。
ちなみにサイプレスはCランクだ。
本人曰く、これ以上ランクを上げるためにはやりたくない仕事もやる必要があるため、Cランクで充分なのだと言う。
スズキ氏がその点についてサイプレスにやんわり注意をした。
「サイプレス殿は熟練の魔法士と聞いております。それであれば今回のゼルコバ様からの護衛依頼達成をもってBランクに推薦することもできるのですが……」
「いい、いい、いらんことすな。俺はCランクが気に入ってんの」
「あの、本人もこう言っていますので……」
僕とスズキ氏は諦めの眼差しでサイプレスを眺めたが、本人はどこ吹く風であった。
こうして僕はギルドに金貨24枚を支払い、残りの6枚分の金貨を両替してもらってから帰路についたのであった。




