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「そそそ、それでは本日の授業はここまでとします。みなさんお気をつけてお帰りください」
初日の授業は履修登録の方法や必要な単位の説明などで、半日で終了となった。
今日はみんな私服で登校しているが、明日からは支給された制服を着ることになっている。
授業について、基本的には一年生である僕たちは必修科目を受講する。
授業は毎週月曜日から金曜日までで、1限目は必ず魔法実習だ。
そして座学の2限目があり、昼食を食べたら3限目はまた魔法実習で、座学の4限を終えると1日が終了となる。
これには理由があり、魔法学院に入学する生徒たちの魔力消費を促し、速やかに位階を上げる必要があるからだ。
1限目で魔力を消費し、2限目と昼食時間で魔力を回復させ、3限目でさらに魔力を消費しようというわけだ。
ちなみに魔法実習は全クラス合同で行われ、上級者と初級者で分かれて行う。
それぞれの生徒によって位階が異なるため、同じ内容の授業を受けさせるのは無理があるためだ。
自己紹介で判明したクラスメイト達の位階は、皆第一位階から第三位階程度であり、なんなら魔法を初めて使うような生徒も多い。
サイプレスも言っていたように魔法士は【固有魔法】の習得が最も肝心であるので、第六位階に到達して初めてスタートラインに立てる。
そのため、位階が低いうちはとにかく魔力を消費して、ガンガンと位階を上げるのが最も効率的だ。
一部の生徒は幼少期から魔法の鍛錬を積んでおり、すでに第六位階に到達している者もいるが、そんな生徒は稀である。
僕も初心に帰り、第一位階魔法からもう一度おさらいをするつもりで授業に臨もうと思う。
「ゼゼゼ、ゼルコバ君、ツバキさん、お二人はこの後、クラス代表会議に向かってください」
「はい、わかりました」
「どんなことを話し合うのでしょうか?」
「ククク、クラス代表会議ではクラスごとに調整が必要な内容について話し合います。今日は顔合わせと、来月の野外演習での注意事項などについて打ち合わせです」
クラス代表会議なるイベントがあるようだ。
他のクラス代表たちとの顔合わせもあるようだから、僕とツバキは指定された教室に移動することにした。
思えば、僕が入室した時にクラスの空気が重い感じがしたのは、誰もクラス代表になりたくなかったからかもしれない。
魔法学院一年生はAクラス、Bクラス、Cクラス、Fクラスから成り、Fクラス以外は漏れなく貴族の子女で構成されている。
DクラスとEクラスがどこに行ってしまったのかは、誰も知らない。
貴族だらけのABCクラス代表の中に、Fクラスの平民が加われば、肩身の狭い思いをするのは間違いない。
ここはFクラス代表の貴族として、職務を全くしなければならないだろう。
「お互い落ちこぼれのFクラスだから何か言われるかもしれないけど、一緒に頑張ろうね」
「ひゃ、ひゃい。ゼ、ゼルコバ様は落ちこぼれなんかじゃないです。同年代で第六位階の人なんて、初めて会いました」
「ははは、クラスメイトなんだから、敬語なんて使わないでよ。僕もツバキさんって呼んでいいかな?」
「わ、わかりました。ゼルコバ、君」
僕とツバキがそんな会話していると、指定された教室に到着した。
その教室はAクラスの隣にあり、クラス代表室、という表示がされている。
わざわざクラス代表会議のためだけに教室があるなんて、さすがは貴族が通う名門校だ。
「失礼します、Fクラスの代表です」
「あら、遅いじゃないの!平民のくせに貴族を待たせるとはどういうつもりなの?」
「シルベストリス、ゼルコバ君は貴族だぞ」
「あら、これは失礼。どうぞおかけになって、おほほほ」
クラス代表室は、応接室のような豪華さであった。
椅子は本革製の高級品で、中央に置かれた円卓を取り囲むように配置されている。
円卓は魔木の大木を組み合わせて作られたもので、Fクラスで僕らが使っている安物とは大違いだ。
さらに部屋には暖炉があり、魔石で動く冷房の魔道具もあるようだ。
しかも部屋の隅には魔道具の湯沸器が設置されており、自由にお茶を淹れて飲むことができる。
まさに貴族にふさわしい贅沢な空間であった。
「やあ、ゼルコバ君、久しぶり」
「ショウゲツ君、久しぶりだね!なんか疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
「ああ、俺は大丈夫。心配してくれてありがとう」
久しぶりに会ったショウゲツは、何故かやつれているようであった。
ショウゲツとは2年前にヤエ公爵邸の晩餐会で別れて以来だが、宣言どおり魔法学院への入学許可を得ることができたようだ。
ショウゲツの隣には、赤いドレスの女の子と黒いドレスの女の子が陣取っており、2人とも謎のオーラを発していた。
赤いドレスの女の子が、シルベストリスという名前のようだ。
「あら、ショウゲツ様のお友達でしたのね。私はシルベストリス・レッドパインと申します。どうぞよしなに」
シルベストリス・レッドパインは、絵に描いたようなお嬢様であった。
長い金髪は顔の両脇でドリルのように巻き整えられ、気が強そうな目をしている。
身につけている私服は、これからダンスパーティーにでも参加するのだろうかと言うほど華美なもので、とても学校に着ていく服装ではない。
「僕はゼルコバ・リョーマイケルです。どうぞよろしくお願いします」
「あら?リョーマイケル伯爵家のご子息でしたの?もしかすると私たちって、いとこ同士ですわね。カマツ伯母様はお父様の姉上だと聞いておりますわ。カマツ伯母様はお元気かしら」
「母は元気です。毎年美味しいリンゴを贈っていただきましてありがとうございます。リョーマイケル伯爵家一同、とても嬉しく思っております」
「それはよかったですわ。リンゴを送っているのはお祖父様とお祖母様だと思いますけど、代理として感謝の言葉を受け取っておきますわ」
僕の母カマツはレッドパイン侯爵家から嫁いできて、僕を産んだ。
そしてシルベストリスは母カマツの弟の娘、つまり僕の従姉妹にあたるようだ。
この年になるまで従姉妹の存在を知らなかった僕は、貴族失格である。
円卓にはそれぞれのクラス代表者が揃っており、僕たちは最後の到着だったようだ。
「さて、全員揃ったようだからクラス代表会議を始めよう。俺はショウゲツ・チェリーブロッサム。Aクラスの代表だ。ご存知の通り王家の人間だが、学校では普通に接してくれると嬉しい。どうぞよろしく」
ショウゲツが挨拶をし、クラス代表会議が始まった。
ショウゲツはAクラスの代表だし、王族なのでクラス代表の中でもリーダー的存在だ。
「それでは次に……」
「Aクラスの副代表を務めております、クロマ・ブラックパインですわ。どうぞよしなに」
「ちょっと、Aクラスの副代表はこのシルベストリス・レッドパインよ!クロマはおまけでしょ?」
「シルベストリスさん、はしたないですわよ。淑女の振る舞いを身につけたらいかがかしら?」
「にゃ、にゃにを〜、ぐぬぬ〜」
ショウゲツが疲れた顔をしている理由がわかった気がする。
本来クラス副代表は1人のはずだが、クロマとシルベストリスが張り合っているため、Aクラスの副代表が2人いるわけだ。
僕はショウゲツとシルベストリス以外のクラス代表にも目を向けた。
「Bクラス代表のイロハ・オータムリーブスです」
「Bクラス副代表のモミジ・オータムリーブスです」
「「私たちは、双子!」」
Bクラスの代表と副代表は双子の女子であった。
しかし僕の貴族知識が乏しすぎて、彼女らの家格がどれほどのものか判別できない。
まぁお互い同級生だし、普通に接すればいいか。
「Cクラス代表のアザレア・ロドデンドロンです」
「Cクラス副代表のドウダン・ペルラツスです」
Cクラスの代表は女子で、Cクラスの副代表は男子であった。
そのパターンもありなのね。
「Fクラス代表のゼルコバ・リョーマイケルです」
「Fクラス副代表のツバキ・マンティスアローです」
「よし、自己紹介がすんだな。それでは来月に予定されている野外演習について打ち合わせをしよう」
野外演習とは、その名の通り学外に出て行う授業のことだろう。
打ち合わせといっても、引率の先生の指示通りにしていればいいだけのような気がする。
「えっと、ショウゲツ君、野外演習についての打ち合わせって、具体的に何を話し合えばいいのかな?」
「ゼルコバ君、よくぞ質問してくれた。正直にいって俺もよくわかってないんだ。先生から野外演習の打ち合わせをしろと言われただけで、そもそも工程がわからないんだ」
「そうだったんだね。他のみんなは野外演習について何か情報を持ってないかな?」
「兄様から聞いた話によると」
「王都の外にある森で一泊する」
「「らしいよ」」
Bクラスのイロハとモミジが野外演習について教えてくれた。
王都の外にある森で一泊、つまりキャンプだ。
「も、森で一泊!?そんな、学院は私たちを見殺しにするつもりですの!?」
「ふふ、シルベストリスさん、怖気付いたのなら欠席すればよろしいのではないかしら?」
「なっ、なんですってぇ!?」
「ところでショウゲツ様、なんだか喉が渇きませんこと」
チラッ
「あっ、気がつきませんで、私がお茶を淹れてきます」
「ツバキさん、手伝うよ」
「なに!?ゼルコバ君にお茶を淹れさせるわけにはいかない、俺も手伝うぞ」
「ショウゲツ様には私がお茶を淹れて差し上げますわ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
ツバキがお茶を淹れようと立ち上がったところ、それを手伝おうと僕が立ち上がり、ショウゲツが続いて立ち上がり、クロマとシルベストリスもそれに続いて立ち上がった。
クロマなんか、さっきはツバキにお茶を淹れさせようとしたくせに、いつのまにか手のひらを返してショウゲツにお茶を淹れようとしている。
さらにそれを阻止しようとシルベストリスが張り合うので、お茶汲みだけで大騒ぎだ。
これは来月の野外演習が思いやられる。
頑張れショウゲツ君、キミのことは遠くから見守っているぞ!




