003
「ところでイレックスさん、僕に護衛を紹介してくれないだろうか」
「ほう、護衛ですか」
僕はイレックスに、護衛の仲介をお願いすることにした。
実は僕にとっては、この用事こそが本当の狙いだったりする。
「もちろん紹介することは可能ですが、必ず費用が発生しますよ」
「大丈夫だよ、高貴な血筋の僕が護衛もつけずに街中をうろつくわけにもいかないでしょ?」
「それはもちろんそうですが……」
イレックスはちらりとアスペラの様子を伺った。
「護衛は伯爵家の者をつけようと考えていたが、イレックスの紹介した者をゼルコバが雇いたいというのであれば安心して任せられる」
「しかし……」
「良い、何か考えがあってのことだろう。ゼルコバの言う通りにしてやってくれないか」
「承知しました。もしよければこれから護衛となる人物を探しに行きましょう」
「やった!ぜひお願いします。僕のためにお時間を割いてくれてありがとうございます」
「そうおっしゃっていただいて光栄に思います」
イレックスは満更でも無い様子で、僕に護衛を紹介してくれることになった。
「それでは父上、行ってまいります」
「うむ、良き護衛と出会えることを期待しているぞ」
「はっ。お任せください」
僕はイレックスが用意した馬車に同乗させてもらい、ギルドに向かった。
ギルドは護衛や冒険者など、腕っぷしを必要とする仕事を斡旋する団体で、リョーマイケル伯爵家のお膝元である城壁都市リョーマの西門に近い場所にあった。
ギルドにつくとイレックスと僕は顔パスでVIPルームに通されて、ギルドマスターがわざわざ出てきて交渉することとなった。
さっそく、イレックスを連れてきた効果が出ている。
「これはイレックス様、いつもお世話になっております」
「やぁギルドマスター。今日はこちらの若様の護衛を手配してもらいたいと思って来たんだが、良い人材はいるかな」
ギルドマスターは意外と細身で、真面目そうな中年男性だった。
僕は勝手に、ギルドマスターと言えば腕っぷしが強いイメージを持っていたから、拍子抜けした。
「若様、といいますと……」
「はじめまして、ゼルコバ・リョーマイケルと言います、伯爵家の三男です。どうぞよろしくお願いします」
僕が自己紹介すると、ギルドマスターは驚いた様子で冷や汗を流した。
「これは、申し遅れました。私、当ギルドのギルドマスターを務めさせていただいております、スズキと申します。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
ギルドマスターはスズキさんと言うのか。なんとなく日本人のような名前だなと僕は思った。
「それでスズキさん、僕は今度商会を立ち上げることにしたんですが、商売をする時の護衛を雇いたいと思ってイレックスさんに紹介をお願いしたんです。どなたか僕の護衛を引き受けてくれる人物はいらっしゃらないでしょうか?」
「護衛依頼ですね、かしこまりました調べさせますので少々お待ちを」
そう言うとスズキさんは部屋を出て、何枚かの木板を持って来た。
「護衛を得意とするもののリストでございます。いずれも腕利で真面目な性格の者を選びましたので、若様の護衛にはぴったりかと」
木板には、名前や経歴、得意とする武器や依頼と、似顔絵が描かれていた。
いずれの似顔絵も写真のように精巧に描かれており、僕は感心した。
「ありがとうございます。できれば魔法士の方に護衛をお願いしたいと考えているのですが、いらっしゃらないでしょうか?」
「えっと……少々お待ちください」
護衛として魔法士を雇う。
そして雇った魔法士に魔法を教えてもらう。
これが僕の作戦の全てであった。
正直に言って真面目に商会を経営するつもりは、全く無い。
父に対して言い訳する必要があるので、形だけの商会を立ち上げて何か取り引きしようかなとは思っているが、あくまでメインは魔法の修行だ。
だから、護衛は魔法士、これだけは絶対に譲れない部分であった。
「えっと、その、魔法士は一名だけ紹介できるのですが……」
戻ってきたらスズキさんはなんとも歯切れの悪い言い方をした。
紹介できる魔法士が1人しかいないならその人で決定だ。
僕の中ではすでに結論が出ていた。
「魔法士の方であれば大歓迎です。ぜひご紹介ください」
「いえ、あの〜、少し素行に問題があると言うか、ご期待に添えない可能性もあるかなと思いまして……」
「多少素行が悪くても全く構いません。ぜひぜひご紹介ください」
僕がぐいぐい押しまくったところ、スズキ氏はようやく折れて、僕に魔法士を紹介してくれることになった。
「どうしてもというなら、どうぞこちらへ……」
イレックスと僕は顔を見合わせてスズキ氏の態度を不審に思ったが、口には出さずにとりあえずついていくことにした。
ギルド内に併設された食堂の一角に、その魔法士はいた。
どうやら昼間から酒を飲んでいるらしい。
スズキ氏が声をかけると、男は面倒くさそうに返事をした。
「サイプレス殿、こんにちは」
「あん?」
男は酔った目でこちらを睨みつけた。彼の名はサイプレスというようだ。
「こちらのお方が貴殿に護衛の依頼をしたいとおっしゃっていますので、お話だけでも聞いていただけないでしょうか……」
なんとも及び腰な物言いである。
ギルドマスタースズキ氏の微妙な紹介もあり、サイプレスは眉間に皺を寄せた。
「護衛の依頼?魔法士の俺にか?ふん、断る」
「すみませんがちょっと待ってください」
スズキ氏に任せておかないと判断した僕は、サイプレスと直接交渉することにした。
「僕の名前はゼルコバ・リョーマイケル、伯爵家の三男です。護衛の依頼をお願いしたいのは僕です」
「おう、俺は魔法士のサイプレスだ。護衛の依頼なら断るぜ、じゃあな」
サイプレスは全く興味を持っていないようで、取りつく島もない。
「と言うのは建前でして、実は僕に魔法を教えてほしいのです」
思い切って僕は打ち明けることにした。
イレックスとスズキ氏は驚いて、顔を見合わせた。
「魔法を教えて欲しいだと?貴族のぼっちゃんなら家庭教師にでも教わればいいだろうが」
「いえ、それがですね、少し事情がありまして……」
僕は自分の魔力総量が【極めて低い】ために魔法士には向いていないと鑑定されたことや、それでも魔法を諦めきれずにいることをサイプレスに話した。
そして、貴族学院に行かなければならない2年後までの期間で、なんとかして魔法を身につけたいと伝えた。
「ふーん、じゃあ坊主は魔法士から魔法を教わる口実として、商会を立ち上げて護衛の魔法士を雇いたいっていうことなんだな?」
「正直に言ってそうなります。どうか僕に魔法を教えていただけないでしょうか。」
サイプレスは酒臭い息をふぅーっと吐き出すと、おもむろに立ち上がってこう言った。
「話はわかった。そういうことなら引き受けてやってもいいぜ。ただしテストを受けてもらう必要がある。場所を変えるぜ」
「もちろんです」
こうして僕は魔法士サイプレスから、魔法を教わるための試験を受けることになった。




