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落ちこぼれ魔法士は【樹木魔法】で世界を救う!?  作者: はりまぐろ
第一章 勇者の旅立ち〜アジュガローマ、モンテ・アジュガ防衛戦〜
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「「若様、起きてください、敵襲です」」


馬車の中で眠っていた僕は、ウィロウとアロウの言葉で目を覚ました。

サイプレスは微動だにしない。

まさか熟練の魔法士である彼が、眠りこけているわけではないだろう。


「寝とけ、坊主。お前にできることは馬車の中でじっとしていることだ。夜のうちは大人しくしているんだな」


サイプレスは目を閉じたまま、僕にそう言った。

馬車の中は確かに安全だし、外に出ても僕にできることはないだろう。


「しかし勉強の機会としてはチャンスだ。夜襲を受けた場合の対処方法を実戦で勉強することにしよう」


サイプレスはそういうと、にやりと笑った。


「坊主も目を閉じろ。そして馬車の周囲を【鑑定】で探れ」


僕は言われた通りに目を瞑った。

【鑑定】を発動して周囲を探ろうと気を配るが、密室となっている馬車から外部の様子を感じ取るのは至難の業だ。


「サイプレスさん、難しいです。コツを教えてください」

「ふむ、【鑑定】の範囲を拡大して周囲の状況を探る技術は探知と呼ばれている。これは魔法士にとって必須と呼んでいい技術として知られている。なぜなら、敵や魔物から不意打ちを受ける可能性を減らすことができるし、強そうな相手だと思えば遭遇する前に逃げることができるからだ」


サイプレスはそういうと、閉めていた窓をほんの少しだけ開けた。


「より高度な魔法を使う時は、複数の魔法を同時に発動させることを考えろ。例えば、【鑑定】と【性質変化】と【念動】を同時に発動して、風を動かして【鑑定】するという方法がある」


それを聞いた僕は、窓の隙間から【性質変化】させた風を外に出した。

さらに【念動】で風を動かして馬車の周囲に纏わせて、【鑑定】する。

3つの魔法の同時発動により、僕は魔力を消費した感覚を覚えた。

減った魔力は馬車から補っておく。

1万も溜めてあるから、多少使ってしまっても良いだろう。

【鑑定】の結果、ウィロウとアロウが武器を構えて周囲を警戒しているのが感じ取れた。

敵とやらはどこだろう。

僕はさらに【鑑定】範囲を広げた。

すると、太った人型の魔物が10体ほど、野営地に接近しているのが感じ取れた。

待ち受けているのはデーツ率いるリョーマイケル伯爵家騎士団だ。

屈強な騎士たちは大きな盾を構えて、魔力を練っているのがわかる。


「大きさや移動速度から、敵はオークと見た。猪人間みたいなイメージの魔物だな。食い物の匂いに釣られて襲ってきたのかもしれない」


野営地に旅人が集合するのは、市場として賑わっているからだけではない。

みんなで寄り集まって、お互いに安全を確保しようとしているのだ。

今回なら、戦闘のプロである騎士団がたまたま野営地にいたことは幸運であった。

他にも、イレックスが率いる商隊にも、護衛はいることだろう。


「ほら、激突するぞ」


オーク10体と騎士10人の戦闘が始まった。

オークは騎士達の存在に気がつくと、勢いをつけてタックルを仕掛けた。

デーツ達騎士団は、魔力を込めた盾でオークの突進を受け止める。


「坊主、よく感じ取れ。騎士たちは盾に【強化】の魔法を使ってオークの突進を受け止めている」


第五位階魔法【強化】

効果は、指定した対象や自分の肉体を強化すること。

騎士や戦士など、近接型の戦いを得意とするものが、最もよく使う魔法だ。


「【強化】ってのはな、魔力の節約と出力の調整が最も重要となる。オークの突進を受け止める瞬間に魔力を強めて、それ以外の時はなるべく魔力を温存しているのがわかるだろう」


サイプレスには騎士団とオーク達の戦いが、手に取るようにわかっているようだ。


「さらに言えば、突進を受け止めるときには必ず両足を【強化】して、吹き飛ばされないように踏ん張りを効かせる。お前が狼人間と戦った時に、これができていれば吹き飛ばされずに済んでいたことだろう」


魔導書から出てきた狼人間の激しい攻撃によって、僕はユリネシールドで防御したにも関らず、吹き飛ばされてケガを追ってしまった。

実戦では、そういった技術の差が生死を分けることになるのだろう。

【鑑定】を風に乗せることにだんだん慣れてきた僕は、さらに魔法を応用してみることにした。

これまで僕は魔法を使ってから、消費した分の魔力を馬車から回収していた。

しかし僕の固有魔法【樹木魔法】は、樹木に関することについて、かなり応用が効く。

僕はあらかじめ魔力を蓄えておいた馬車の木材に魔力を流し、馬車から直接魔法を発動させてみた。

すると、先ほどまではぼんやりとしかわからなかった周囲の状況がかなり鮮明に理解できるようになり、索敵範囲もかなり広くなった。


「サイプレスさん、これはマズイですね」

「おう、コツを掴んだようだな、坊主」


なんと、騎士団が抑えている方向とは反対側から、さらに10体のオークが迫ってきているのがわかった。

オークは物音を立てないように静かに動いており、奇襲を仕掛けようとしているらしい。


「しかし状況はよろしくないな。バカなオークがこういう作戦を取ってくるってことは、上位個体が混ざってる可能性が高い。オークジェネラルだとすると、野営地が壊滅するかもしれないな」

「壊滅!?ど、ど、ど、どうしましょう!?」

「慌てるな、助かるための作戦がある。デーツ達騎士団を援護しつつ、さっさと逃げるぞ」


サイプレスの作戦は一見すると良いように思われた。

しかし、僕たちが騎士団を連れてこの場から逃げるということは、野営している他の旅人達を見捨てるということになる。

リョーマイケル伯爵家の人間として、道義に反する行いではないだろうか。


「サイプレスさん、リョーマイケル伯爵家の人間として、その作戦は受け入れることはできない。なんとかしてオークジェネラルを倒す方法はないでしょうか?」

「そんなこと言われてもなぁ、俺が出ていって戦うっていうことになると勝率は低い。俺は多数の敵を薙ぎ払うような大威力の派手な魔法は得意じゃないんだ」


サイプレスの固有魔法【隠密】は超強力な能力だが、タフなオークを多数相手にすると相性が悪い。

オークの防御を貫通できるほどの威力がある攻撃手段があるといいんだけど……

その瞬間、僕は閃いた。


「そうだ、この馬車にはバリスタが積んである。これを撃ちまくれば勝てるのではないでしょうか?」

「バリスタだと?しかしそれはオークを一撃で倒すほどの威力はないと思うぜ」

「それはほら、僕の【樹木魔法】でバリスタを【強化】すればいけるのではないかと」

「ふーむ、確かに、バリスタは木製で、矢も木材で作られている。これに坊主の魔力を乗せて放つと、とてつもない威力が出るかもしれねぇな」

「試しにやってみましょう!ウィロウ、アロウ、お願いがあるんだけど」


「いよっ、民草のために命をかける貴族の鑑!」

「若様のご決断に感動いたしました」


二人ともやる気満々だ。

僕としては嬉しい限りだけど、そんな大それたことではないような気もする。


「詳しくは説明できないんだけど、僕の魔法で馬車とバリスタを【強化】するから、試しに反対側から接近してくるオーク達に向けて撃ってみて欲しいんだ。まぁこの距離だと致命傷にはならないだろうけど」


オークの奇襲部隊はまだ1キロメートル以上離れている。

この距離からでは流石に矢は届かないだろう。

だけど、魔法で【強化】した矢の威力は、反動や矢の速度で推しはかれるはずだ。

馬車を見晴らしの良い場所に移動させ、さっそく馬車を通して【強化】魔法を発動する。


「うぉぉ、若様!馬車が輝いてます!すごいっ!」

「かつてない手応えを感じる……撃ちます!」



射手のアロウがオークに向けて矢を放った。

僕は馬車を通してバリスタに【強化】の魔法をかけ、矢にも【強化】の魔法をかけた。

当たれ!

矢が放たれる瞬間、気合を込めて念じる。

風にのせた【鑑定】によってオークの位置は補足出来ている。

あとは矢が命中するように誘導してやればいい。


バシュッッッ!


ものすごい初速で打ち出されたバリスタの矢は、速度を落とすことなく1キロメートル以上離れた距離のオークの頭部に命中した。

矢が当たったオークの頭は爆散して、首から上が吹き飛んでいる。


「おいおい、攻城兵器かよ……」

「えっ?えっ?倒した!?」

「矢が曲がった……これは若様の魔法なのですか?」


思った以上にバリスタが強力だったため、みんな唖然としてしまっている。

これはもしかして、オーク奇襲部隊を完封できるかも!?

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