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011

ジッペリアナが連れて行かれたあと、父が僕に声をかけた。


「そう言えば調書の中で気になったのだが、ユリネ殿とやらは一体何者なのだ?そんな御仁はどこにも見当たらなかったのだが」


そう言えばユリネがいない。

僕はユリネがしがみついていたはずの右腕を見たが、ユリネの姿はどこにもなかった。


「サイプレスさん、僕が意識を失ってしまったあと、魔球根のユリネがどこにいったかご存知ではないでしょうか?」

「ほぅ、ユリネという名前をつけたのか。たぶんあの魔球根なら噴水の近くにまだいるだろうと思うぜ」

「魔球根?一体なんの話をしているのやら……」

「父上、魔球根のユリネを探しに行かせてください。ユリネは庭園に植えられていたユリ根が年月を経て魔力を帯びたもので、僕の友達なんです。昨晩は狼人間の攻撃からユリネが守ってくれたこともありました。ユリネがいなかったら、僕はもっと重傷をおっていたか、下手をすると死んでいたかも知らない」


魔球根のユリネを探すため、僕らは書斎を出て庭園に向かった。

ユリネを一目見たいといって、カマツやキエノも一緒に、みんなでぞろぞろと歩いていく。

噴水に到着したところ、噴水近くの花壇に一際立派な百合の花が咲いているのが見えた。

草丈はおよそ5メートルに達しており、白く大輪の花と強い香りが特徴的だ。

花弁は反り返って、オレンジ色の大きな花粉が見られる。

かつて日本で見たオリエンタル・ハイブリッドの品種であるカサブランカによく似ていたが、草丈がはるかに高いためにより一層美しく見える。


「こんな巨大な百合の花は見たことがない。たぶんこの下にユリネが埋まっているのだと思います。それを証明したいけど、どうしたらいいのか……引っこ抜くか?」

「でもゼルお兄様、こんな見事な百合の花を引き抜いてしまうのはもったいないですわ」

「そうですね、私もこんな美しい花を見たのは生まれて初めてです。朝からリンゴしか食べていないし、お茶を飲みながらお菓子を食べて、花を鑑賞することにしましょう」


カマツがそう宣言すると、メイド部隊が一斉にティータイムの準備をし始めた。

噴水の周囲は広場となっており、何かイベントがある時には立食パーティー会場としても使用することがある。

人数分のおしゃれなガーデンチェアが運ばれてきたので着席すると、テーブル、日傘、茶器、お菓子などが次々に運ばれてきて、あっという間にティーパーティの始まりだ。

僕もお腹が空いていたので、クロテッドクリームを塗ったスコーンを頬張る。

濃厚なクリームにスコーンのサクふわ食感のマリアージュが、とっても美味しい。


「本日の茶葉はマンティスアロー男爵領より取り寄せたボス茶のシルバーティップスです。フルーティーで繊細な香りが特徴で、魔力を回復させる効果もあります」


ラムズホーンが解説するうちに、それぞれのティーカップにメイド達がお茶を注いでいく。


「お茶を飲むと魔力が回復するの?」

「ええ、そうです。茶の木は古くなると魔力を帯びて魔木となります。マンティスアロー男爵領には樹齢350年を超える大きなチャノキが植えられており、茶畑のボスとして君臨しているとか。ボスから採取した茶葉はボス茶と呼ばれていて、飲むと寿命が100日のびるとも言われております」


ラムズホーンが茶の木について詳しく解説してくれた。


「茶畑のボスか……いつか見に行ってみたいな」

「キュウ!」


「「「「「えっ!?」」」」」


謎の鳴き声が聞こえたため、みんな一斉に注目する。

いつのまにかユリネはティーパーティに参加しており、美味しそうにスコーンを食べていた。

見事な百合の花は依然として美しい花を咲かせている。


「あれ、てっきり僕はあの百合の花の下にユリネが埋まっているものだと思ったんだけど……」

「キュウキュウ!」

「えーっと、花だけ咲かせて自分は分裂して出てきたんだって、ユリネはそんなこともできるんだね」

「キュウ」


ユリネは「キュウ」としか言わないが、僕にはユリネの言っていることが完璧に理解できた。

ユリネの言いたいことが、頭に直接伝わってくる。


「ゼルコバよ、もしかしてその球根がユリネ殿なのかな?」

「はい、父上、みんな、紹介します。魔球根のユリネです。昨晩、噴水でユリネと遭遇したところ、僕らは友達になったのです」

「キュウ」


僕がユリネをみんなに紹介すると、ユリネは口の周りにスコーンの食べカスをつけたまま、なんとなく偉そうな表情をした。

なんとも言えない愛くるしさを感じる。


「父上、ユリネを飼いたいと思うので、許可をいただけないでしょうか?」

「よかろう、そもそも元から我が屋敷にいたわけだし、ゼルコバの命を救ってくれたのだとしたら恩人、いや、恩球根でもある」

「やった!よろしくね、ユリネ」

「キュウ!」


ユリネは嬉しそうに体を揺らして、僕の右腕に密着した。


「坊主、たぶん坊主は魔球根をテイムした状態になっているぜ」

「テイムですか?」

「そうだ。見たところ、言葉を操るわけではないが魔球根には知能があるようだ。魔球根が坊主が名前をつけてそれを受け入れたってんなら、テイム完了ってわけだ」

「テイムするとどうなるんですか?」

「そうだな、俺も詳しくないが、テイム対象と意思疎通ができるようになったり、指示を出したりできるようになるぜ。慣れると魔法を使わせることもできる」

「キュウ!」


ユリネはやる気満々のようだ。


「父上、見ていてください。ユリネはこのようにして僕を守ってくれたのです」


僕は昨夜の感覚を思い出しながら、ユリネに魔力を注いでいく。

今は太陽が出ているので魔力切れの心配はないが、流す魔力の量に注意しながらユリネに指示を出す。


「ユリネ、頼む!」

「キュウ!」


狼人間の攻撃を防いだ時のように、ユリネは鱗茎を傘のように広げた。

命名、ユリネシールドだ。


「ほぉーう、こいつは便利そうだな」

「わぁ、すごーい!」

「すごい、魔球根にこんな能力があるとは……」

「可愛い上に役にも立つなんて、わたくしも欲しくなってきましたわ」


みんなユリネの凄さを褒め称える。

ユリネからは誇らしいという感情が伝わってきた。


「父上、僕はサイプレスさんに魔法の使い方を教えてもらおうと思うのです。昨晩私は危うく命を落としかけました。サイプレスさんは優秀な護衛ですが、護衛対象である僕がそれなりに強くなれば、さらに安全になると思うのです」

「うむ、ゼルコバもリョーマイケル伯爵家の男子として、大切な人を守ることができるように強くなるのだ。サイプレス殿、どうぞ息子への指導をよろしくお願いします」

「かしこまりました。お坊主様の護衛とあわせて、お引き受けさせていただく、ます」


サイプレスが変な敬語で了承し、僕は正式に魔法の訓練を受けられることになった。

やる気がみなぎってきたぞ!


「それで、サイプレス殿。魔法の指導料は月に金貨30枚ほどでお願いできないかと思うのですが、いかがでしょうかな?」

「あー、いや、えーっと、ギルドを通して振り込んでいただけると嬉しいかなー、なんて」


サイプレスは苦笑いしながらそう答えた。

僕が払っている年俸の30倍もの金額が父からあっさり提示されてしまい、僕は甲斐性のなさを痛感したのであった。

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