第96話 進軍
ガダレッラ討伐のため、ガット家と帝国政府は同盟を結んだ。
同盟を締結すると、私たちはすぐにガダレッラ領へ侵攻を開始した。
「何で私たち馬車に乗ってるんですか、師匠?」
「記憶を失ったんですか? フライパンで記憶をねじ込んであげましょうか?」
「それは結構です。え? 待って? 展開が急すぎてついていけないのですが?」
「可哀そうですね。イラリアはまだ若いのに、もう時代についていけないなんて」
「私はそんな壮大なことは言ってません。純粋にこの急展開についていけないんですけど?」
「ガダレッラを攻撃することは決めていましたよね?」
「そうは言ってましたけど、本当にするんですか? この状況ですよ? まだ、帝都が不安な状況なんですよ?」
「逆にこの状況以外にないと思うんですけど?」
「何でですか? まだ、新体制の軌道が乗っていなじゃないですか」
「考えてみてください。新体制の軌道が乗り始めたら、せっかく平和が訪れたのに何で戦争をしないといけないんだ、となってしまいます。それでは天下統一の事業に大きな遅れが生じるでしょう。なので、体制が整う前に、天下統一事業を既定路線にして、逃げ道を塞ぎます」
「でも、ヴァンニ宰相がクーデターを起こすなら、師匠が帝都を離れた今ですよね?」
「イラリアが思い付く程度のことは私も分かっています」
「それ、失礼すぎませんか?」
「しかし、クーデターは不可能だと思いますよ?」
「何でそんなことが言い切れるんですか?」
「だって、帝都に流れる武器は愛を届けます商会を通じてしかできませんし、密輸業に関しても、私たちが牛耳っています。この状況で、どうやって宰相が私たちに知られないで事を起こすんですか?」
「抜け道ぐらい、いくらでもありそうですけどね」
「まあ、何かあっても、カーショさんがいるので、最悪の事態は回避できるでしょう。それよりも今はガダレッラ討伐に集中しましょう。この戦いの結果によっては今後の計画を大きく変更しなくてはならないことになります」
「そう言えば、師匠は皇帝にガット家と同盟を結ぶように対案してましたけど、何か理由があるんですか?」
「敵の敵は使い捨ての駒なんですよ? 流石のイラリアもこの有名な言葉ぐらいは知ってますよね?」
「知らないうえに有名でもない。そして、流石のって、失礼すぎる発言だと思います。師匠が言いたいのは敵の敵は味方ってことですよね?」
「味方? 使い捨ての駒は味方って言いませんよ? 考えてみてください、牛乳瓶ってありますよね? 牛乳瓶は牛乳が入っているから、手元に置いておくわけで、瓶から牛乳が無くなれば、用済みになります。用済みになった牛乳瓶を宝物って言いますか?」
「自分が何を言っているのかを理解してから言葉を発してください。とても、まともな人間の思考回路とは思えません」
「そうでしょうか? 最近、常識に囚われ過ぎているなと反省している所だったんですけど……」
「これ以上常識から外れたら、ただでさえ少ない信者が消滅しますよ?」
「何言ってるんですか? 私たち幹部の熱心な布教活動の結果、今現在は信者の増加のペースが加速している所なんですよ? この状況で信者が消滅するとか、ありえるわけないですよね? バカなんですか?」
「流れるように悪口を言うのやめてもらえませんか? 今更ですけど、師匠の言う天下統一事業って、普通は10年単位の時間が必要ですよね?」
「はい」
「え? どうするんですか?」
「確かに、本来はそのぐらいの時間が必要ですが、それは正面からぶつかった場合の話です。正面衝突ではなく、握手した隙に気付いたら死んでいた、もしくは致命傷を負わせる。それが私の作戦です」
「例えが飛躍しすぎて、分からないんですけど」
「おそらく、今回のような討伐は今回で最後になるでしょう。他の諸侯は計略で支配下に置き、魔王討伐後に完全に制圧します。それが、現実的かつ、理想に一番近い形になると思います」
「ガダレッラ討伐にかける時間はどのぐらいですか?」
「1か月ほどです」
「正気の沙汰とは思えないんですけど? 一つの都市を落とすだけでも、1カ月以上は必要だと思うんですけど?」
「そのためのガット家です。ガット家が境界線上付近で暴れているおかげで、ガダレッラの主力はガット家との境界線付近に集中しています」
「その隙にすべての都市をとるという事ですか?」
「違います。敵の主力をガット家と私たちでサンドイッチにして、殲滅します。主力を失った敵を後は捻り潰すように、攻略します。戦力や援軍無しの籠城戦は止まることの知らない親の説教みたいなものです」
「それは地獄ですね」
「つまり、今回の戦いで敵の戦力を消滅させる必要があります」




