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第95話 あれ? お金足りなくないですか? では、ここにサインをお願いします

私は自室で紙をぺらぺらと捲りながら、書類に目を通す。


「師匠、何を読んでいるんですか?」


「貴族たちの裏帳簿……間違えました。帝国の財政報告書です」


「序盤で聞き捨てならない物があったのですが?」


「え? 何か気になるワードがありましたか?」


「裏帳簿が何で気にならないと思ったのかが私には分かりません」


「高額納税者や権力者は裏帳簿を持つことがステータスなんですよ? 知らないんですか?」


「知らないし、違うと思います」


「だから、私は常に449冊の裏帳簿を持ち歩いています」


「いったい何をしたら裏帳簿がその量になるんですか? と言うか、師匠は税金をとる側ですよね? 裏帳簿作ってどうするんですか?」


「私は搾り取る側でもあり、取られる側でもあるんですよ? 私は教祖をしながら、都市の運営、会社経営、投資、金融業をしています」


「最後のにはしっかりと闇を付けてください。他のまともな金融業の人が可哀そうです。話がそれましたけど、財政報告書を読んでどうしたんですか? また、横領する気ですか?」


「またって、何ですか? まだ、国庫には手をつけたことはないと思うんですけど?」


「でも、教団の資金は横領したことありますよね?」


「何言ってるんですか? 教団の資金は私の個人資産と同義です。なので横領には該当しません」


「自分が何を口走ってるか分かってますか?」


「それに、帝国の国庫には手を付けたくても、手をつけるほどのお金がありません。この前の宮殿の移転により、完全に赤字になりました。ちなみに、赤字分は私が補填しておきました」


「補填? 師匠がそんなことするわけがありません。だって、あの師匠ですよ? 財布のひもの硬さが、世界中のどの物質よりも硬いと言われている師匠ですよ?」


「酷い言い様ですね。根拠も無いのにそんなことを言うなんて、信じられません」


「師匠の場合は根拠がなくても、日頃の行いで誰しもが納得すると思うんですけど?」


「私は困っている人にお金を融通しただけです。これのどこが悪いんですか? むしろ褒められてしかるべきだと思うんですけど?」


「借金の利率はどのぐらいですか?」


「何で借金であることが確定しているのか、分かりません」


「そう言うの良いんで、利率を教えてください」


「十一です」


「バカなんですか? 帝国を借金で支配するつもりですか?」


「イラリアにバカと言われたらお終いですね」


「喧嘩売ってるんですか?」


「それに、支配だなんて、人聞きの悪いことを言わないでください。財布にするだけです」


「訂正で外聞がさらに悪くなってるのですが?」


「そう言えば、帝国は新体制の下でガダレッラ討伐の準備をしているそうです」


「話をスムーズに切り替えるってことをいい加減覚えた方が良いですよ? そう言えば、新体制には宰相は入ってないんですよね?」


「もちろんです。まだ、謹慎中ですからね」


「宰相がいなくても、問題ないんですか?」


「問題ありません。しかし、行政の取りまとめ役がいないと何かと不便なので宰相の代わりに行政長官と言う仮のポストを用意しました。そこにはヴァンニ宰相に対抗心を持ち、帝国で最も強欲であることで有名で出合い頭に賄賂を要求すると噂なロッサノ・オルドイーニ卿を任命しました」


「とうとう、まともな人間が消えてしまいましたね。でも、そんな人が師匠の支配下に入ったのですか?」


「宰相が失脚した今、彼にとっての最大の敵は私です。しかし、私が行政長官になるわけにはいきません」


「何でですか?」


「私が帝国の役人になるという事は私が皇帝の下になるという事です。あくまでも私が上、皇帝が下です」


「くだらないマウンティングをやめたらどうですか?」


「いえ、重要です。それに、私が行政長官になることで、現体制に不満を持つ貴族が怒りを爆発させる恐れがあります。彼らをなだめるという意味でも、貴族の代表格であるオルドイーニ卿を行政長官にした方が良いんです」


「でも、師匠を目の敵にしている人間をそんな重大なポストに就けていいんですか?」


「オルドイーニ卿は、私が彼の影響力を恐れて、このポストを譲ったと勘違いしていることでしょう。なので、彼は今回の結果に満足しているはずです。それに重要なポストを除けば、彼の子分に役職を与えたので、派閥的にも満足なはず。つまりは、しばらくは大人しくしてくれるでしょう。彼が大人しくしている間に、すべてを終えて、オルドイーニ卿と愉快な仲間たちを全員始末すれば、万事解決です」


「師匠の腹が真っ黒なのと、計画がうまくいくか分からないことだけは理解しました」


「当然です。私は支出に関しては人一倍、気を使っているんですから」


「ぜひとも、師匠には人格を治すと同時に会話のキャッチボールを覚えて欲しいですね」

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