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第89話 外がうるさいですね。お祭りですか?

帝国は数年以上も前から、紛争状態であった。

しかし、帝国政府の努力もあり、帝都周辺、正確には帝国政府の力が及ぶ範囲では一切の戦闘が発生していなかった。

長い戦乱の中で、唯一の非戦闘地帯が生まれ、いつの間にか帝国の人々の間で帝都での武力の行使はご法度であるという共通認識が生まれていた。

しかし、その神話はとある非常識な女の策略によって崩れ去ろうとしている。


月神殿も太陽神殿も朝方は礼拝しに多くの人が訪れる。

そのため、衛兵は朝方に多く配置される。


「何か騒がしくないか?」


俺は隣の奴に話しかける。


「確かに……おい! あれ!」


「あれ?」


男が指さす場所を見ると、全身武装した集団がこちらへ迫ってきている。


「あれは……太陽神殿の連中じゃないか?」


「敵襲だ!」


どこからか分からないが、叫び声が上がった、

俺は慌てて神殿の中に入り、礼拝場に向かって走る。

礼拝場にも衛兵が2人立っていた。


「おい! 今は礼拝の時間だ。立ち入りは……」


「太陽の連中が奇襲して来た。お前らも入り口に行け!」


「本当か?」


「こんな冗談を言って、どうする? 神官様は中にいるよな?」


「ああ、中で礼拝をなさっている」


「じゃあ、神官様には俺から伝える。お前らは早く入り口の封鎖に」


「分かった」


礼拝場の警備をしていた衛兵の2人は神殿の入り口に走っていった。

俺は礼拝場の扉を勢い良く開ける。

急に音が鳴ったことに驚いてか、礼拝していた信者や神官様が俺を驚いた顔で見る。


「何ですか? 今は礼拝の……」


「太陽神殿が攻撃を!」


「何だと!」


神官様が驚きの声を上げると、信者にも動揺が広がった。

しかし、神官様はすぐに冷静に戻り、指示を出し始めた。


「皆さん、裏口から避難を。あなたは今すぐに騎士たちを招集し、信者の保護に」


「はっ」


ほぼ同時に太陽神殿の帝都支部には月神殿の兵士とみられる武装集団が現れ、神殿や信者たちを襲撃した。

双方が非難する声明をだし、帝都での大規模な武力衝突に発展した。

これにより、停戦状態であった宗教戦争が再開し、主戦場は帝都やその周辺となった。




宗教勢力が武力衝突を始めて4日目、小規模な衝突を帝都の至る所で起こっている。

フライパン教の帝国支部には私の私兵を配置しているため、平和が維持されている。


「騒がしいですね。今日も市街地戦ですか?」


「何でそんなに落ち着いてるんですか? 早く避難しましょうよ」


「ここは私の私兵が警備しているため、絶対に安全です」


「絶対安全とか言ってますけど、昨日だってこの部屋に武装した大人が雪崩れ込んできたじゃないですか!」


「でも、カーショさんが全員を絞殺してくれましたよね?」


「あの人は素手で攻撃しないといけない病気か何かですか? あと、聖戦士を私兵って言うのやめてもらえませんか?」


「残念ながら、今回は聖戦士はいません。彼らは入国規制がかかっているので入れませんでした。なので、帝都周辺にたむろしていた盗賊を改宗して、私の私兵として働かせています」


「道理で。最近、すれ違った人からヤバさを感じなかったので、おかしいなと思ってたんですよ」


「何ですか、その特技? イラリアは変人センサーでもあるんですか? まあ、そんなことは良いとして、既に、太陽神殿や月神殿の手先に攻撃を受けましたが、迎撃に成功しています。このまま、戦闘を維持していれば、彼らは本物の聖戦士になれるかもしれませんね」


「ここまで侵入されてるんですよ? 限界まで良心的な解釈をしても、迎撃に成功したことにはならないと思います」


ドアがノックされる。


「どうぞ」


「失礼します」


カーショさんが入ってきた。


「どうかしましたか、カーショさん?」


「宰相からお手紙が」


「また、催促ですか?」


「師匠は催促する側だと思っていましたけど、されることもあるんですね」


「私が宰相相手に借金してると思ってるんですか? 金欠帝国の宰相に対し! この私が!」


「あの、テンションがウザいです」


「この際だからハッキリしておきましょう。なぜ私がお金を稼ぐのかを」


「何がこの際、何ですか? 絶対にタイミングを間違っていると思います」


「私がお金を稼ぐ理由……」


「え、無視?」


「それは、お金の流れを私で完全に止めるためです」


「意味分かんないんですけど」


「私の懐に流れ着いたお金はどうなるか知ってますか?」


「師匠の財布に入って、いつかは社会に出て行くんですよね?」


「違います。私の財布に入って……」


「入って、何ですか?」


「アイテムボックスの中で静かに眠ることになります。世間では私の財布はお金の墓場と言われているそうです」


「経済に何か恨みがあるんですか?」


「……、お金って人を不幸にすると思うんです」


「それ、今とっさに思い付いただけですよね? 師匠の発言はとっさの思い付きで正当化できるレベルを超えていますよ」


「それで話を本筋に戻しますと、早く、太陽神殿と月神殿を止めろ、だそうです」


「不都合になると無かったことにするのやめませんか? そう言えば、帝国には正規軍がいますよね? 自分たちで止めれば良いじゃないですか?」


「残念ながら、帝国の正規軍はこの規模の反乱に対応するだけの能力と装備、兵数がありません。今は武装勢力が宮殿に侵入しないように警備するので手一杯だそうです」


「ダメダメですね」


「帝国は金欠なので仕方ありません」


「師匠はどうするんですか?」


「どうする、とは?」


「いや、この状況になったら、帝国を掌握するとか不可能じゃないですか。だから、逃げるのかどうなのか知りたいな、と」


「何言ってるんですか? この状況を作ったのは私なのに何で逃げるって選択があるんですか?」


「え? この状況を作った?」


「はい。太陽神殿と月神殿のガチの殴り合いを始めたのは私が誘導したからですよ」


「師匠、何考えてるんですか?」


「まあ、すぐに分かりますよ。カーショさん、準備はできてますか?」


「はい。集結は完了していると報告を受けています」


「では、ヴァンニ宰相に許可をもらうだけですね。では、カーショさん、このお手紙をヴァンニ宰相に渡してください」


「かしこまりました」


カーショさんは私にお辞儀すると部屋を後にした。


「師匠、何て書いたんですか?」


「聖戦士の入国許可をくださいと書きました。ヴァンニ宰相は私たちが聖戦士を連れてくることに否定的でしたが、今の状況なら許可が貰えそうですね」


「このためにこんな状況にしたんですか?」


「はい。この機に太陽神殿と月神殿の帝都支部を更地にしようかと」


「何で負けるって発想がないのかが不思議なのですが?」

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