第85話 宮殿のお茶
私は宮殿の応接室に案内され、そこでそれなりのお茶を飲んでいる。
「何と言うか、時化た建物ですね。衰退の匂いがします」
「どういう鼻してるんですか? 私は普通に豪華だと思ったんですけど。それより、師匠。宮殿でそんなこと言ったら衛兵に殺されますよ?」
「このお茶だって、私がそこら辺で摘んだ茶葉をフライパンでいろいろすれば出せそうな味ですし」
「そこら辺の茶葉って何ですか? 師匠が言うほど悪くないと思います。むしろ、立派な宮殿だと思います」
「まあ、私の期待値が高すぎたせいで、現実のギャップがすごくなっているだけかもしれませんね」
「私たち、正装しなくて良いんですか?」
「何言ってるんですか? この格好が私たちフライパン教の正装じゃないですか」
「でも、明らかに華やかな場所向けじゃないですよね? かなり貧乏くさい格好ですし」
「私たちフライパン教徒は清貧を第一に考えてるんですよ? なので、この格好はその部分を前面に出せていると思います」
「拝金主義者が面白い冗談を言いますね」
「ふざけてるんですか? 私は本気で言てるんです」
「何で真面目な顔でそんな舐めた発言ができるのか甚だ疑問なんですが? 私たちはこれからヴァンニ宰相に会うんですよね?」
「そうですよ」
「ヴァンニ宰相ってどんな人ですか?」
「裏皇帝と言われている人物で、前宰相である皇帝の弟の側近です。ちなみに、事の始まりである宗教戦争は彼が原因だと言われています」
「え? どういうことですか?」
「前宰相が存命だった頃、皇族の一人が太陽神殿と結託して、クーデターを起こすという噂が流れました。前宰相は噂の検討の結果、真実だと断定しました。しかし、大規模に軍隊を動かして太陽神殿や皇族を攻撃すれば、面倒事は避けられません。悩んだ前宰相はヴァンニ宰相に相談をします。ヴァンニ宰相は太陽神殿を月神殿に抑えてもらう事を提案します。そして、宗教戦争が勃発します」
「何でそんな人が宰相をしてるんですか? 完全に戦犯じゃないですか?」
「確かに、最終結果だけ見れば、そう言えますが、初期の頃は十分に成功したと言える状況でした。帝国政府の支援を受けた月神殿は太陽神殿を攻撃、用意が不十分だった太陽神殿はあえなく敗北。そこで停戦となります。例の皇族は月神殿とのいざこざでしれっと消されています。おそらくヴァンニ宰相が上からの命令で手配したのでしょう。ここまでは前宰相が望んだことがすべて実行されています」
「じゃあ、何が原因で計画が失敗したんですか?」
「ヴァンニ宰相の人間に対する理解不足が原因です。やられたら、やり返したくなるのが人間の性質です。自分たちの拠り所である太陽神殿を攻撃された信徒は月神殿に憎悪を燃やします。その結果、太陽神殿の指示を無視して、月神殿を攻撃。そして、まさかの勝利をします。そうなると、復讐心に燃えるのは月神殿の信徒たちです。こうして際限のないデススパイラルが生まれてしまいました。ちなみに、現在は何が何だか分からず、武器を持っているから、ひと暴れしようぜ、と言う状況だそうです」
「やっぱり戦犯じゃないですか?」
「でも、下手に逆らうと裏皇帝なので消されますよ? それに彼の政治力はなかなかの物だそうです」
「あの、裏ボスみたいに言わないでくれますか?」
「でも、ヴァンニ宰相が実質的な皇帝ですよ?」
「今更ですけど、私たちが話している内容って聞かれたら完全にアウトですよね?」
「はい。なので、仕掛けてあった盗聴器にはダミーを流してあります」
「え? 盗聴器、仕掛けてあったんですか?」
「普通、部屋入った瞬間に分かるじゃないですか」
「いや、分からないと思います。ダミーを流してるって言ってましたけど、どんな内容ですか?」
「内容ですか? 確か……ぼそぼそと神への賛辞を無限リピート……だった気がします」
「盗聴している人を洗脳しようとしてませんか?」
部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
侍女が入ってきた。
「失礼します。閣下がお呼びです」
「いざ、対面ですね」
「師匠が権力者と会うって、嫌な予感しかしないんですけど」
「何言ってるんですか? 私たちフライパン教はすべての強者とお友達なんですよ?」
「清貧はどこに消えてしまったんですか?」




