第78話 帝国歴史解説1
タフィさんには1週間の間で新体制に移れるようにお願いして、私は別のことに取り掛かる。
「今度はどんな悪事を始めるんですか?」
「どういう意味ですか? 何で私が悪事を始めることが前提になっているのかが分かりません」
「師匠の日頃の行いからです」
「……やはり、日頃の行いは良いので分かりませんね」
「冗談だったら傑作ですよ」
「まあ、こんなどうでもいいことは置いておいて、イラリアは帝国についてどの程度知っていますか?」
「北の魔王と争っている軍事大国ですよね?」
「……え? それだけですか?」
「存在は知っていますけど、帝国については師匠が教えてくれたこと以外はそれほど知りません。一応言っておきますけど、あまり一般的な知識ではないと思います」
「イラリアは無学なんですね」
「いや、私は村のインテリ集団の一人ですよ?」
「自分でそれを言いますか?」
「でも、私は村長の一族に連なる家柄なのでそれなりには教育を受けてますよ?」
「では、村全体の教育水準が低いんですね。仕方ありません。脳が半分融解した人でも分かるように解説しますね」
「まず、脳が融解って何ですか?」
「話の腰を折らないでください。ミンチにしますよ?」
「やめてください」
「まず、帝国、もしくは北の帝国は軍事国家として有名です。この帝国はもともと1つの国だったというわけではなく。3か国ほどあったのが魔王の南進に伴い、合併する形で生まれました」
「魔王が脅威で協力したってことですね」
「はい。しかし、これが帝国にとっての不幸の始まりとも言えます」
「不幸?」
「この3か国の王家には男子しかおらず、血統の統一と言う事が難しかったのです。そこでそれぞれの王がある答えを導き出しました。なら、技術の力で解決すればいいじゃない、と。というわけで、最新の魔法生命工学により、3人の王の遺伝子を足して割る3をした次世代の王を誕生させました」
「発想がぶっ飛びすぎてませんか? 何で技術の力で無理をしたんですか?」
「しかし、この目論見は失敗しました」
「何でですか?」
「割り算に失敗して、頭3つ、足6本、手が6本、胴体、首、そして顎の長さが3倍の生命体が生まれてしまいました」
「大惨事じゃないですか! 何で顎だけは限定的なんですか?」
「余談ですが、見た目は迷宮で出会ったアラクネと似た物ではないかと推測します。むしろ、アラクネの方がマシかもしれません」
「その子はどうなったんですか?」
「初代皇帝に即位しました」
「何でですか?」
「3人の王がキレて、研究者を皆殺しにしてしまい、技術が失われてしまったからです」
「まあ、誰でもキレますよね」
「しかし、キレて八つ当たりをした結果、再挑戦が不可能になり、アラクネもどきを皇帝にせざる負えない状況となりました。このことから帝国では冷静さを欠くとヤバいという教訓が生まれました」
「代償のわりに得たことがショボくないですか? そんなことよりも、初代皇帝はどうなったんですか?」
「何とか有力者の娘を皇后に貰い、子孫を繋げたそうです。皇后候補は皆、嫌がったそうですけどね」
「でしょうね。人間かどうかも怪しい生物と結婚しろって言うのは無理がありますからね」
「でも、3つの頭があるので皇帝としては優秀でした。一つの頭が16時間働き、常に二つの頭で考えて、政策を選定します」
「確かにそれは優秀そうですね」
「先ほど割り算に失敗したと言いましたが、これは正確ではありません。時間差で作用しました。初代皇帝の長男の知能が割る3され、超弩級のおバカが出来上がりました。ちなみに子供は普通の人間だったそうです。後世の歴史家曰く、初代皇帝の頭の一つでも譲ってもらえばこうには……だそうです」
「頭部が2つあっても困りませんか?」
「長男は皇太子になり、エスカレーター方式で2代皇帝に即位しました」
「何でその子を皇太子にしたんですか? 他にマシな人もいなかったんですか?」
「残念ながら皇帝には子供は一人しかいませんでした。夫婦仲がよくなかったようです。皇后の手記を見ると3つの頭のうち常に2つは起きているから、ずっと監視されているようで怖かったと書いてありました」
「見られて困ることでもしようとしたんですか?」
「どうやら他に好きな人がいたようですが、親に無理やり引き離され、皇帝と結婚させられたようなので、脱走を試みていたとか、いないとか。結局、皇后は最期まで脱出できませんでした。子供を産んで2年後に、好きな人と結ばれなかった悲しみと監視の恐怖により、病死します」
「可哀そうですね」
「高貴な身分の人は一般人のようには生きられませんからね。話は2代皇帝に移ります。こちらは知能が低く、ネームバリューがあったので、強欲な女性が皇后の座を狙い、我さきと結婚を申し込んだそうです」
「何と言うか、怖いですね」
「意外なことに、こちらはすぐに皇后が決まり、夫婦生活も順調だったそうです。皇帝は皇后を愛し、皇后は皇帝の金と権力を愛す。まさに、相思相愛だったそうです」
「私には一方通行に見えるんですが」
「2代皇帝は結婚後、多くの子宝にも恵まれたそうです」
「何人ですか?」
「男子36人女子14……だった気がします。子供の数は記録によって多少前後しますが、おそらく50人ぐらいでしょう」
「何で前後するんですか? そこら辺の子供じゃなくて、皇帝の子供なんですよね? あと、多すぎませんか?」
「はい。多すぎたことにより、問題になりました。ついでにですが、側室はいなかったそうですよ?」
「一人が産んだんですか? 一年に一人って考えても50年はかかるんですけど」
「金と権力への執着心が子宝につながったと言う事ですね。しかし、驚くべきとこはそこじゃありません。この子供が軒並み、おバカだったと言う事です」
「初代皇帝の血はどうなってるんですか? 何で優秀さは遺伝しなかったんですかね?」
「そのため、皇后の不貞の子なのでは? という噂もあったようですが、調査の結果、ちゃんと初代皇帝の子供だったそうです。2代皇帝が50歳の時、誰を皇帝にするべきか悩んでいました。男子が36人、一体誰にするべきか。足りない頭で考えてもいい答えは出てきません。そんなときにひらめいたそうです。そうだ! 36人の中で生き残ったやつを即位させればいいんじゃね? と」
「バカですか? 何でトラ族と同じ発想に至るんですか?」
「善は急げと言う事ですぐさま実行に移されました。その結果、帝国が36分割され、全土で紛争が発生しました」
「トラ族より酷かった。何で子供たちも乗ったんですか?」
「ついでに紛争の最中で2代皇帝は行方不明になりました」
「逃げたんですか?」
「混乱の中でひっそりと暗殺されたというのが定説です」
「自業自得と言うか、可哀そうと言うかって感じですね。帝国の話、まだ続くんですか?」
「はい。まだ続きますよ?」
「既にお腹いっぱいなのですが」




