第68話 今夜のディナーは戦場で……
ピノさんに精神的負担が無い様にゆっくりと尋問した結果、やはり流した噂が効果的だったようだ。
既にほかの草食系獣人の間にはこの噂が流れていて、荷造りを急ぐ人が多いらしい。
この、有って無いような情報をもとに作戦会議をする。
「次はどこにしましょうか? 逃げている人が多い民族はどこでしょうか?」
グリッロさんは書類を見る。
「ウシ族、ブタ族、トリ族、イノシシ族、ウマ族、ヒツジ族ですかね?」
「牛肉、豚肉、ブロイラー、牡丹、桜肉、ジンギスカンですね」
「何で言い換えたんですか?」
「プラシドさんが全獣人から嫌われる理由のヒントです」
「そのヒントは無くても分かります。何で、獣人族を選んだのかが分からないんです」
「確か……プラシドさんの故郷で起こった飢餓が原因? でしたっけ?」
プラシドさんが懐かしさを顔に滲ませている。
「その通りですよ。私の故郷は戦乱と干ばつが影響して重度の食糧不足でしてね」
「なるほど。それでそんなことに……」
イラリアが暗いトーンで言う。
想像以上に重い理由で言葉が出なかったのだろう。
「あの追い詰められた状況で必死に獣人に刃物を入れたとき……、あの快感を思い出すと今でも刃物を振るいたくなりますな。ハハハハハ」
「私の同情を返してください」
「え? イラリア同情してたの? この中で一番、惨めなイラリアがよく他人を同情できますね。驚きです」
「師匠! それは失礼すぎでしょ! 師匠はこの中で一番、人間性に問題がありますよね」
「そうでしょうか? でも、人間性を疑われることって、年に2,3回ぐらいあって、普通じゃないですか?」
「普通の人はないと思います。まあ、師匠の場合は10分に1度ぐらいのペースで疑いを掛けられていると思いますけど」
「面白い冗談ですね」
「驚きの事実ですよ」
廊下から走ってくる兵士の足音がする。
扉がノックされる。
「どうぞ」
「お話のところ失礼いたします。オオカミ族の襲撃です」
「返り討ちにしてください」
「かしこまりました。失礼します」
「師匠、それは命令していないのと同じですよ」
「問題ありません。グリッロさんが何とかします。ね?」
「私は指揮をするために持ち場に戻ります」
「お待ちしてますよ、グリッロさん」
「では、失礼します」
グリッロさんも退出した。
「では、私たちのみである程度話をまとめておきましょう」
「オオカミ族の方は大丈夫なんですか?」
「突破されてもここに押しかけられるだけなので問題ありません」
「それが一番問題なんだと思いますよ。逆にそれが問題ないなら何が問題なんですか?」
「そんなことより、話し合いをしましょう。議題は……ウシ族とミノタウロスの見分け方でしたっけ?」
「何の話ですか?」
「教祖様、それは食べてみればわかりますよ」
「プラシドさん、さらっと怖いこと言わないでもらえますか?」
私たちは話し合いの結果、ウシ族を攻撃することにした。
そのことを防衛戦が終わったばかりのグリッロさんに伝え、了承を得た。
「何でウシ族を選んだんですか、師匠? 好みですか?」
「私はプラシドさんではないんですよ? もちろん真面目な理由です」
「師匠の口から真面目な話を聞いた記憶が一切ないんですけど」
「記憶喪失ですか? 新しい記憶をフライパンでねじ込んで差し上げましょうか?」
「洗脳されそうなので結構です」
「それで理由でしたか? 理由はですね。ウシ族の習性です」
「もう少し詳しく教えてください」
「ウシ族は平時は非常に大人しいのですが、一度怒ると手が付けられなくなります。余談ですが、戦闘力はミノタウロスにも引けを取らないとか」
「それ、本当に攻撃して大丈夫なんですか? ミノタウロスって迷宮の守護者ですよね?」
「はい。その強靭な肉体が繰り出す攻撃によって多くの冒険者があの世へと旅立っています」
「それ、大丈夫なんですか?」
「強力な打撃は聖戦士にとってご褒美ですよ?」
「それはそれで大丈夫なんですか?」
ウシ族の里は草原にある。
彼らは人のように二足歩行をするが牧草を食べることに関しては牛と変わらない。
私たちはウシ族の里を包囲した。
しかし、あまりのスピードにウシ族は何も対応できなかった。
私たちは天幕で攻撃の時を待っている。
「ウサギ族もそうでしたが、草食系獣人の里は肥沃な農業地帯なので占領した時の旨味が多くていいですね」
「はあ、そうですか……」
イラリアは微妙な返事をした。
「グリッロさん、包囲の方は大丈夫ですか?」
「はい。心配は要りません」
「あとはどのタイミングでプラシドさんを突撃させるかですね」
「本気ですか?」
「はい。私はいつでもマジですよ。プラシドさん、準備は良いですね」
両手に持つ刃物をこすり合わせて興奮を表現していた。
「ハハハハハ、いいですねぇ、いいですねぇ」
「素晴らしい金属音です。これは期待できそうですね」
「怖いので落ち着いてもらっていいですか?」
笛が鳴り響く。
攻撃の合図だ。
「今日の晩餐はステーキですな。では失礼。フハハハハハ!」
プラシドさんが嬉々としてウシ族の里へ突撃した。
「今日の夕飯、私要りません」
「イラリアは夕飯無しですね。グリッロさん、私は特別メニューでお願いします」
「了解しました。そのように伝えておきましょう」
「あ、師匠! ずるいです。私もそれで」
「イラリア風情が私と同じ等級のディナーにありつけると思っているのですか? 冗談も大概にしてください」
「私、弟子ですよ? 弟子には優しくするべきだと思います」




