第67話 精神衛生を維持するには?
翌朝未明、プラシドさんの部屋からはさみで何かを刻む音とドタドタと言う大きな足音が聞こえるという苦情が出たらしい。
この日の朝に再度、点呼したところ誰一人として、欠けることはなかったようだ。
「師匠、プラシドさんに何をしたんですか?」
「何で私が何かをしたと思うのですか? 心外です」
「師匠の手元に守るもん君があるのに誤魔化せると思いますか?」
「違うんです。これは守るもん君が久しぶりに外に出たいという声が聞こえたから」
「人形はしゃべりませんよ」
「でも、これは動きますよ」
「その呪いのアイテムまだ、持ってたんですか? いい加減捨ててください」
「今の発言、命取りになりますよ。この子は物を大切にしない人を呪殺するんですよ?」
「早くしまってください」
「仕方ありませんね」
私は守るもん君をアイテムボックスにしまう。
「納得できないんですけど」
「何がですか?」
「物を粗末に扱う人間の代表格である師匠は狙われないのに、善良な私がなぜ狙われるんですか?」
「私は物も丁寧に扱ってますよ。信者たちの希望に沿って信者の扱いが雑なだけで」
「扱いの雑さに関しては信者だけじゃないと思います」
「そんなことは良いので、早く馬車に乗りましょう。私たちの準備が整わないと皆さん出発できませんからね」
私とイラリアは乗り心地が素晴らしい馬車に乗り快適な旅をしている。
「いいですね」
「馬車の乗り心地のことですか?」
「違います。私は快適な馬車に乗っているのに雑兵の皆さんは必死に歩いています。この優越感がいいですねと私は言ったんです」
「何で共感してもらえると思ったんですか? 共感できる要素ゼロだと思うのですが」
私は窓を開ける。
「師匠! 何してるんですか!」
私は馬車の周りで歩いている聖戦士に話をかける。
「どうですか? この人生の敗北感は?」
「最高です!」
聖戦士はさわやかな笑顔で答えてくれた。
私は満足して窓を閉める。
「何でどや顔なんですか?」
私たちはウサギ族の里の手前に布陣した。
しかし、何の動きもないため、斥侯を放ち調査すると、既にもぬけの殻だった。
とりあえず、罠が無いことを確認して、里に入り、里の要塞化に勤しむのだった。
とは言え、先のことも決めないといけない。
私、イラリア、グリッロさん、プラシドさんで再び今後の方針を話し合う。
「グリッロさん、要塞化の方はどうですか?」
「1週間ほどあれば、とりあえずの機能は問題ありません」
「資材が足りなければ、魔王城の方から持ってきてください」
「かしこまりました」
「師匠、いくらストレスに弱いウサギ族でも私たちが来る前に逃げるってことがあり得ますか?」
「あり得ると思いますよ。私が事前にプラシドさんが手勢を率いて攻撃するという噂を流しておいたので、十分に考えられます」
「プラシドさんこちらでも有名人なんですね」
「当然じゃないですか。あれだけのことをして、顔を覚えらていないなんてことはあり得ないと思いますよ」
「プラシドさん何をしたんですか?」
「若気の至りでした」
「何したんですか?」
「しかし、実際のところなぜウサギ族が逃げ出したかは分かりません。なので、捕獲したウサギ族の獣人を尋問しようと思います」
私が立ち上がると、プラシドさんも立ち上がる。
「プラシドさんは遠慮してください。捕虜がショック死します」
「本当に何をしたんですか?」
尋問部屋とは思えない程、綺麗な内装。
精神的な負担を和らげるように優しい色味を使われている。
「ここ、本当に尋問部屋なんですか? この前の地下室のワクワクルームみたいなホラーなイメージがあるんですけど」
イラリアはきょろきょろと周囲を見ている。
「この部屋は尋問される人に精神的な負担が無い様に設計されています。あちらに座っている方がピノさんです。ついでに、獣人族には苗字という概念はないそうです」
「よろしく頼むな」
ウサギ族の獣人は背もたれを極限まで使いこなしリラックスしている。
「何で尋問をこれから受けようとしているのにこんなに態度がデカいんですか?」
イラリアを気にせず話を進める。
「ピノさんの隣の方は医師をされています」
「何で医者ですか?」
「有事の時のためのサポート要員です」
「普段からこのぐらい気を使ってほしいですね」
「では、尋問を始めます。ウサギ族の皆さんはなぜ避難したのですか?」
「おいおい、嬢ちゃん、俺が故郷を売るように見えるかい」
こいつ、調子に乗ったな?
「答えないとひき肉にしますよ?」
私がフライパンを構えると、ピノさんは胸を押さえて苦しみ始めた。
「うっ、ぜぇ、ぜぇ」
「尋問を中止してください」
待機していた医師がそう言うと、ピノさんの下に駆け寄り、耳元で話しかける。
「ピノさん? 聞こえますか?」
ピノさんは軽くうなずく。
「深呼吸をしてください。吸ってー、吐いて―」
「スー、ハー」
「大丈夫ですよ。ゆっくり深呼吸してくださいね」
「尋問って何でしょう」




