第64話 生命の神秘
ドワーフが暗殺を戦略的に行うという情報を得てから、私たちは夜間の警戒を密にした。
とは言え、完璧な警備と言うのは難しい。
「師匠、尻に敷いているのは何ですか?」
「夜分遅くに人の部屋で騒ぐのをやめて頂けませんか? あと、この椅子のことでしたら、見て分かりませんか? ドワーフですよ」
「どういう状況ですか? 私は師匠が襲撃されたって話を聞いたんですけど」
「されましたよ。秒で返り討ちにしましたけど。このドワーフさん酒で頭がおかしくなっていたのでフライパンで少し軌道修正して差し上げました」
「中毒が洗脳に負けたってことですね」
私は椅子にしているドワーフの肩を叩き、立ち上がる。
ドワーフは地面に額を付け、額を地面にこすりつけるように部屋から出た。
「今のは何ですか?」
「暗殺者を送り返しました。彼はあちらで暴れてくれるでしょう」
「どこかで見た展開ですね」
「あとは彼の見事な死に様を人伝に聞くのを待つだけですね」
「死を前提にするのやめてもらえませんか?」
「でも、敵の幹部を暗殺して生きて帰れると思いますか? 無理ですよ。狙撃ならまだしも、アル中の中毒パワーが繰り出すステルス能力程度では不可能だと思いますよ」
「師匠が何を言ってるのか分かりません」
その後もドワーフ軍は暗殺者を送り込み続けたが、同じように送り返し続けたら、暗殺者の訪問は無くなった。
その代わり、5人から10人規模の小部隊が散発的に襲ってくるようになったが、優秀な聖戦士のおかげで目立った被害は出ていない。
「今度は何の報告書ですか?」
「ドワーフに流れるお酒の流通を完全に掌握できたという話です」
「今までできてなかったんですか?」
「完璧には。ドワーフの貴重な武器を得るために酒を密輸する不届き者が多少ですが、いるんですよね。彼らは冒険者に紛れてパダラから魔王領に侵入しようと試みていましたが、あちらはかなり監視が厳しく、密輸が難しいと知ると危険な海峡を渡って密輸するようになりました。まあ、ほとんどは水竜の消化液によってこの世から退場するのですが、一部の密輸業者は残念なことに取り締まりから逃れていました。しかし、海に放つ水竜の数を235パーセント増量した結果、魔王領に到達する前にすべての密輸業者を水竜のお腹へと消すことに成功しました。しかし、問題の解決には末端ではなく、根元の解決が必要です。なので、闇ギルド星教会信徒の集いの皆さんにお願いして密輸業者の元締めたちを夜道で背後から刺殺した結果、完全な撲滅に成功しました。余談ですが、パダラ周辺の治安が最近良くなっているそうですよ」
「フライパン教徒が珍しく社会に貢献した瞬間ですね」
「私たちは常に労働という形で社会に貢献し続けてますよ?」
「社会貢献を理由に幹部候補生に過酷な労働をさせるのはどうかと思います」
「話はそれましたが、つまり、ドワーフは完全に断酒を強いられることとなったというわけです」
ドワーフは勝ち筋を失ったうえに、酒まで絶たれたため、降伏した。
彼らの武器の売買の独占などを組み込んだ条約を結び、限りなく自治に近い寛大な処置で済ませた。
「師匠にしては珍しく寛大な処分ですね」
「はい。私の慈悲深さは世界に轟いていますからね」
「何言ってるんですか? 師匠、フライパン教徒が世界でなんて言われているか知っていますか?」
「清く正しく美しい正義の士ですか?」
「他人が持ってくる儲け話とフライパン教徒は信じるな、ですよ」
「それ、誰から聞きました?」
「聞いてどうするんですか?」
「噂の根元を断ちます」
「根を断っても、広まった噂はどうにもなりませんよ?」
「もちろん根にたどり着く頃には末端も始末していますよ。常識で考えてください」
「師匠は一般常識を先に学ぶべきですね。それで、あの師匠がこんな寛大な処置をするはずがありません。どんな裏があるんですか?」
「裏? 私の感知……」
「そう言うのはもういいです。この条約の貿易に関して規制する条項がありますよね?」
「ドワーフは今後、ワーレとのみ交易をするという部分ですね」
「ドワーフは酒だけは外部に頼ってるんですよね?」
「はい」
「酒を餌に武器を買い叩くつもりですか?」
「よく分かりましたね。まあ、裏とは言ってもこんなことは見れば誰でも分かることですけどね」
「それ、暗に見れば誰でも分かることを裏って言ってる私はバカだっていてませんか?」
「分かりやすく、直球で言ったつもりでしたが、理解できませんでしたか?」
「清く正しい人間はそんなこと言わないと思います。それで、見れば誰でも分かる子の悪意をドワーフの国王は受け入れたんですか?」
「お酒には代えられなかったんでしょうね。手足の震えが止まってませんでしたから、生物ってあそこまで小刻みに動けるんですね。生命の神秘でしょうか?」
「どこに神秘性を感じてるんですか?」




