第63話 非常識な戦い
山のふもとでは小競り合いが多発していた。
どれも小規模ながら、酒欲しさにアル中が襲撃してきたのだった。
経済封鎖により、酒が入手困難になっているようだ。
「経済封鎖は効いているようですね」
「攻めないんですか? もう包囲してだいぶ経ってますよね」
「ルーテリアさんにケメルさんが頑張っているおかげで、まだ時間をかけても問題なさそうなので」
「それだけじゃないですよね? 裏でこそこそと何をしているんですか?」
「裏? 私は感知能力は比類なき高さを誇っています。そのため、すべてが正面です。分かりますか? なので、裏と言うものは存在しません」
「そう言うのは良いんで、大量の人間と資材を動かして何をしているんですか?」
「バレてしまったら仕方ないですね。この近辺を統治するため、新都市ワーレを開発しています」
「それは、パダラからフライパン教の本部を移動させるってことですか?」
「いえ、しばらくはその予定はありません。まあ、そこのところは状況次第ですかね」
山の方から、怒号と怨嗟の声が聞こえる。
「戦闘ですか?」
「いえ、近くの森で捕獲したトレントを大量に山に放ってみたのですが、失敗だったようですね」
「何で失敗なんですか?」
「目を凝らして見ると、アル中たちの手により、トレントがへし折られています。これはマズそうですね。怒りと酒への欲求をこちらにぶつけてくるかもしれません」
どうやら、アルドも気づいたらしく、兵士たちに戦闘態勢に入るように命令したようだ。
「酒はどこだ!」
「酒をくれ! 飲みたくてしょうがないんだ」
「お酒、お酒はどこなの? 酒はどこ! 出せよ!」
「渇きが……アアアア!!」
私たちのドン引きをよそにドワーフの集団が突撃して来た。
聖戦士たちが突撃を受け止め、応戦している。
「教祖様に勝利を!!」
「アル中を押し返せ!」
「キモチイイ~」
「フヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「ねえ? 気持ちい? 気持ちいでしょ?」
イラリアは遠い目をしている。
「非常識と非常識のぶつかり合いですね。一部に病んでる人が入ってる気がするんですけど気のせいですか?」
「細部については知らないので、何とも言えませんね。それより、私はお腹が減りました。お菓子持ってませんか?」
「今、私は師匠と同じものを見てますよね? この状況でお腹が減りますか? 普通は食欲が減退してもいいのに」
「まったく、三下はこれだから困ります」
「違います」
「良いですか? 昔の偉人は敵の首を肴にお酒を飲んだそうですから、私がお菓子を食べたって何の問題もありません」
「どこの戦闘民族の話ですか?」
数時間後には戦闘が終了し、アル中の壊滅で終わった。
「師匠、何を読んでいるんですか?」
「人が重要な報告書を読んでいるのに話しかけるのは良くないと思いますよ? 聖女さんの下品さがうつりましたか?」
「この場にいない人の悪口はやめた方が良いと思います。それで何を読んでいるんですか?」
「報告書です。ドワーフの里の近辺で調査をしている密偵からの報告書なのですが、彼らは暗殺に手を染めようとしているそうです」
「暗殺? この状況で……ですか? 包囲されてるのにどうやって……」
「確かに私たちが包囲しているので、一見暗殺は不可能のように見えますが、包囲は常に完璧な警備ができるわけではありません。こちらも人間ですからね。報告によれば、極上の酒で天国を見せてから、1週間ほど強制的に断酒させ、天国を見たくば、このリストの人間を殺してこいと言うそうです」
「エグイですね。暗殺目標は誰なんですか?」
「私がリストの一番上にありました」
「師匠は、その状況でよく飄々としてますね」
「まあ、熱狂的なファンに付きまとわれるのは慣れてますから」
「暗殺とストーキングは同列にはならないと思います。あと、信者をファンって言わないでください」
「他人事のように言ってますけど、イラリアは私の次に暗殺するべき人物という扱いになってますよ?」
「え? 何でですか?」
「私の弟子だからじゃないですか?」
「やめれば、リストから消えますかね?」
「リストから消える時はこの世から消える時だと思いますよ?」
「ですよねー。守ってくださいね」
「また、この展開ですか? そろそろ、飽きたんですけど。賃金の交渉面倒なんですけど」
「暗殺されかかっている人の前でよく言いますね」
「一番危ないのは私ですよ?」
「……確かにそうですけど……、師匠は良いじゃないですか。暗殺されなさそうじゃないですか?」
「はい。私に死角はないですからね」




