第61話 茶番のその後
「お、俺は……何てことを……」
うろたえる勇者さんに聖女さんは心配そうに声をかける。
「ルカ! 大丈夫?」
もがき苦しむ私以上に勇者はダメージを受けている。
「師匠、演技はやめたらどうですか?」
「え? あんた、ルカの苦しむ様子を見て楽しんでいたのね」
私は演技をやめ、立ち上がる。
「よく気付きましたね」
「師匠の茶番にどれほど付き合わされたと思っているんですか?」
「そんなに数多くないと思うんですけどね」
「バカも休み休み言ってください」
「まあ、そんなことはさておき。この魔王スキルは強力ですね」
「何が強力なんですか?」
「歴代魔王の勇者への殺意が感じ取れます。この程度の殺意では私の勇者さんに対する悪意と殺意には勝てませんね」
「何言ってるんですか?」
「フライパン教徒の星教会への憎悪と殺意は本物です。つまりはそういうことです」
「何言っているのか分かりません」
「このスキルは強力です。魔王が勇者を殺害する理由がよくわかります」
魔王スキルは有用だ。
このスキルは私を支配しようとしているが、その点を除けば多くの情報を私にくれる。
「理由は何ですか?」
「まだ、説明できるほどは理解できていません。整理できてその時が来たら、話をしてあげます。では、そろそろ軌道修正して真面目な話をしましょう」
私は魔王が座っていたであろう玉座に座る。
元魔王が跪く。
「魔王さん、このスキルが無くても生きていけるんですか?」
「魔王スキルを奪われた魔王は新たな魔王により殺されるのが通例です」
「それよりも師匠が平然とその椅子に座ることの方が変だと思いますよ? それで、この元魔王さんは処刑ですか?」
「いえ、ただ死んだだけでは利益にならないので、馬車馬のように働いてもらいます。フライパン教の聖職者見習いと同じ生活スタイルを強います。まあ、多少の変更はしますけどね」
「どう変更するんですか?」
「魔族は空気中の魔力を摂取していれば生存が可能です。つまり呼吸だけで生きていけます。食事時間は不要ですよね?」
「何で下方修正するんですか? 改善してくださいよ」
「まあ、そう言うこともありますよ」
「ちゃんと会話のキャッチボールをしてください」
「では、魔王の討伐は成功したので、契約により魔王領は私の物ですね。ですよね? 勇者さん」
「……ああ、そうだな」
勇者さんが急に話を振られたことにびっくりしている。
部屋の扉が急に開けられた。
「あら、ボロボロですね。剣聖さん、盗賊さん」
「これはいったいどういう状況……」
「ルカとあそこで跪いてるのは……魔王?」
「お二人とも混乱しているようですね。説明が面倒ですね。話を先に進めましょう」
「進めたら、二人がさらに混乱しますよ?」
「じゃあ、イラリアが説明してください。私は面倒なのでパスします。それにモブに時間を使っていたら、いくらあっても時間が足りません」
「師匠、何でこの状況で二人にとどめを刺そうとするんですか?」
イラリアが一連の流れを心に深刻なダメージを負った剣聖さんと盗賊さんに説明した。
二人は話を聞き終わるとげんなりとしていた。
自分たちは何のために怪我をしたのだろう。
そして本当にモブになってしまったのだろうかと。
それを顔と空気で表現できる人間はそれほど多くはないと思う。
世界一華やかな肩書を持つモブの二人は迫りくるクランクアップに恐怖を感じているようだった。
勇者さんとイラリアと私以外は仕事が終わったということで帰りの支度をしている。
「統治をどうするかですね。ひとまず、魔王さんに代官をしてもらっていいですか?」
「かしこまりました」
「師匠、もうこの人、魔王じゃないんで名前呼びにしたらどうですか?」
「そうですね。名前なんですか?」
「ケメルです」
「そうですか? では、ケメルさんは魔王領の統括をお願いします。上納金の上げ方は後で教えますね。ルーテリアさん、褒めて欲しいのは分かりますけど、ナーボの首を手に持つのやめてくれませんか? 床が汚れます」
ルーテリアさんは聖女さんたちと入れ替わりで入ってきた。
ナーボの首を携えて。
「師匠、怒る理由がおかしいです」
イラリアのツッコミを気にせず、ルーテリアさんが喋り始めた。
「では、褒めてください」
「ケメルさんは現状、魔王領がどのようになっているのかご存じですか?」
「あー! 良い。この感じ、ぞくぞくするぅ!!」
ルーテリアさんは完全な無視に興奮しているようだ。
「ご満足いただけたようですね」
「はい。最高です」
「それは良かった」
「そろそろ真面目にやってもらっていいですか?」
「イラリアは何もわかってませんね。これだから、最底辺って言われるんですよ」
「言われてません。と言うより、だんだんひどくするのやめてくれませんか?」
「良いですか? 下々の求めることを満たすことは上に立つ人間にとって、重要なことの一つです」
「下々ってやめた方が良いと思いますよ。反感を買いますよ」
「でも、見てください。ルーテリアさん喜んでいますよ?」
「下々……、甘美な響き」
「何言ってるんですか?」
「蔑みの視線……良い!」
ルーテリアさんは喜びを床で転がることで表現している。
「やりますね、イラリアの評価が微々たるものですが上がりました」
「これほどうれしくない評価は久しぶりです。師匠の弟子になった理由と同じぐらい嬉しくないです」
「とてもうれしいってことですか?」
「……はい。そうなので、フライパンを下ろしてください」
「思い出しました!」
粘着式クリーナーのように床を転がっていたルーテリアさんが急に体上がる。
「どうしましたか? 興奮しすぎて頭がおかしくなりましたか?」
「人にそんなことが言える師匠も大概だと思いますけどね」
「教祖様、獣人族が四天王を倒して、独立を宣言したそうです」
「……ルーテリアさん、何でそれを先に言わないんですか? バカなんですか?」
私の罵声にルーテリアさんは衝撃を受けているようだった。
「バカ!」
ルーテリアさんが床に倒れ、嬉しさのあまり再び転がり始めた。
縦横無尽に動き回るため、ケメルさんやイラリアに何回か衝突している。
「ルーテリアさん! こっち来ないで! 師匠、何とかしてください!」
再び粘着クリーナと化したルーテリアさんに私は蔑みの視線を向ける。




