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第60話 魔王の癖にやりますね

とうとう魔王のいる部屋の前にたどり着いた。

強大な魔力を感じる。


「準備は良いな?」


「勇者さん、早く開けてください」


勇者さんは扉を勢いよく開けた。

扉の向こう側には、扉があった。


「ここはマトリョーシカか何かですか?」


「師匠、それは違うと思います。ルカさん、次も開けましょう」


「そうだな、イラリア」


気を取り直して、勇者さんは再び扉に開ける。

今度は小柄な白衣を着た魔人がいた

白衣の魔人は扉を塞ぐように立っていた。


「ずいぶん貧相な魔王ですね」


「師匠、出会い頭に直球の悪口はどうかと思いますよ?」


「私は魔王陛下ではない。陛下の主治医だ。貴様が勇者だな? 陛下の病状はよろしくないのだ、引き返すがよい」


「この魔人は何言ってるんですか? 私たちは魔王の首を獲りに来てるんですよ? 力比べでもあるまいし、どかないとあなたの首から取りますよ?」


「ならん! ドクターストップと言うやつだ。陛下の精神状態は非常によろしくないのだ。お願いだから帰ってくれ」


「私の話、聞いてましたか? もういいです。勇者さん、この魔人の右手から斬り落としてください」


「もうよい。中に通せ」


魔王の言葉にかぶせるようにイラリアが喋る。


「何で、じわじわと痛めつけようとするんですか?」


「ねえ? イラリアちゃん? 魔王喋ってたよね? 雰囲気ぶち壊しだよ?」


聖女さんがイラリアを注意する。


「師匠、反省してください」


「怒られたのはイラリアですよね?」


白衣の魔人は私たちのやり取りを気にせず話を進める。


「陛下、本当によろしいのですか?」


「精神に異常をきたした魔王って、逆に怖くないですか?」


「師匠、うるさいです」


「くどいぞ」


魔王は私たちの会話を無いかのように振る舞う。


「……分かりました。お入りください」


白衣を着た魔人が扉を開ける。

扉の向こう側には跪いた魔王がいた。


「お待ちしておりました」


ルーテリアさんの時同様、緊迫の空気がぶち壊れ、別の意味で緊迫した空気が訪れた。


「また、師匠ですね?」


「何の茶番ですか? いくら私に敵わないからと言ってイメージ攻撃を仕掛けてくるなんて卑劣ですね。魔王軍は脳筋集団かと思いきや、高度なイメージ戦略を仕掛けてくるクズ野郎だったんですか?」


「卑劣、クズ、茶番。どれも師匠のことじゃないですか?」


「何言ってるんですか? 殴りますよ?」


「やめてください」


「魔王さん、分かってますか? 珍しく私が真面目に作戦を練り、しっかりと攻略したんですよ? あなたがやってることは私の労力を一瞬でパーにする行為です。実は直行直帰が出来ましたなんて話、認められると思いますか?」


「自分で珍しくとか言いますか? しっかり、真面目に? 真面目の定義を教えてください」


「エルフの制圧、四天王の2名を撃破。残りの二名は反乱の誘導により、機能不全。しっかりと攻略できていると思いませんか?」


「過程を見て欲しいです」


「ねえ? あんたの労力なんてどうでもいいわ。星教会がこの魔王討伐のためにどれほどのお金を投じてきたか分かる? 私はなんて報告すればいいの?」


聖女さんが頭を抱える。


「いい情報が聞けました。期せずして星教会にダメージを与えられていたんですね」


「師匠、そんなことで喜ばないでください」


「それでは、一応定番の流れなので聞きますけど、どこかでお会いしたことありますか?」


魔王がつらつらと私との出会いを語っていたが、ルーテリアの話とほとんど同じなので、聞き流した。

しかし、大きく違う点は彼が魔王で、魔王が勇者以外に倒されると魔王の位を禅譲しないといけないらしい。


「私が魔王に即位するってことですか?」


「はい」


「お断りします」


「しかし、これはルールで……ぐっ」


魔王の体が光る。

魔王が胸を押さえ、苦しんでいると光の球が魔王の胸から出てきた。

光の球はしばらく大人しく空中に漂っていたが、急に私の下に来たので、フライパンで打ち返した。


「あー! それ、魔王スキル!!」


魔王が叫んだ。

魔王スキルが無くなった魔王は少し強い魔人と言うぐらいで圧倒的な存在感が消失した。

光の球が再び迫ってきた。

そして、打ち返す。

めげずに光の球が再びこちらに向かってきた。


「私は一人テニスをしに魔王城まで来たのではないのですが……」


私はフライパンをラケットのように振り、光の球を打ち返し続ける。

光の球がいい場所に来た!

私は少し後ろに下がり、スマッシュを決める。

ガッツポーズをする。


「師匠、遊ばないでください」


「遊んでませんよ」


イラリアの頭上を通って、光の球が来た。

頭を傾け、避ける。


「しつこいですね」


光の球は学習機能がついているのか不規則な軌道を描いて動くようになった。

撃ち返そうとフライパンを構えたら、急降下し、低空飛行で足を狙ってきた。

軽快な足さばきで避ける。


「あのスキル破壊方法ないんですか?」


私は魔王に聞く。


「分かりません」


「使えない魔王ですね」


背後から光の球が来ている。


「危ない!」


勇者さんが私を突き飛ばす。

え?

光の球が急に角度を変え、私に向かって来た。

クソッ、勇者め。

余計なことをしなければ、避けられたのに、この状態で避けるのは不可能。

フライパンで防ぐには遅すぎる。

防ぐ構えが完成した時には光の球と衝突している。

光の球が胸に侵入する。

それと同時に地面からの衝撃が伝わる。

胸に入った光の球は私を侵食する。

勇者を殺せ!

憎き勇者を地獄の底へ

我らの悲願を

悪意や憎悪が頭の中に流れ込む。


「おのれ、勇者! やりおったな」


私は胸の痛みからもがき苦しみ、勇者に血走った目を向ける。


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