第55話 え? 誰?
テプサとルグドの争いは一週間経った今なお続いている。
漁夫るチャンスではあるが、ここに割り込むとせっかくのつぶし合いの邪魔をして、魔族の結束を強めることになりかねない。
「どっちを選びますか?」
私はイラリアに両腕を突き出している。
「説明してもらえますか? 誰一人として理解が追いついていませんよ」
勇者パーティーの面々がポカンとした顔をしている。
「皆さん、おつむが足りていないようですね。勇者さんと聖女さん以外は問題ないと思っていたんですがね」
「足りていないのは師匠の説明ですよ」
「イラリア、俺の頭が足りていない部分も否定してくれ」
勇者さんが何やらぼやいているが、気にする必要はなさそうだ。
「左右の拳にはルーテリア、ナーボと書かれた紙が入っています。さあ、右ですか? 左ですか?」
「何で、その状況になったのか説明してください」
「テプサは私の想像を上回る雑魚さを誇っていまして、ルグドと接戦のようです。これで魔王になろうだなんて、面白い冗談ですよね? この2人が接戦のため、私たちは手を出そうにも出しづらい状況となりました。下手に手を出すと反乱軍が魔王と協力する恐れがあります。そこで、分裂の状態を維持して、魔王にダメージを与えるのであれば、ルーテリア、ナーボのどちらか、もしくは両方の討伐が必要です」
「その選び方は意味があるんですか?」
「ありません。正直、どっちでもいいので、運に任せることにしました」
「じゃあ、右で」
私は右手の紙を見る。
「ルーテリアですか」
「ルーテリアって魔人はどんな魔人ですか?」
「フッ、ルーテリアは……」
「今、鼻で笑いました?」
「この前説明したつもりだったんですけど、忘れてしまったのなら仕方ありませんよね? フッ、ルーテリアは相互不干渉を前面に出す魔人です。以前は魔王になることに積極性を出していたようですが、ある時を境にやる気を失ったようです」
「きっかけは何ですか?」
「それは分かりません。タンザさんによると……」
「タンザさん? タンザさんって、テプサの部下の……」
「はい。なんちゃって契約の人です」
「師匠が魔族の情報をどうやって、収集しているのかなって思っていましたけど、タンザさんからですか?」
「はい。魔王領に侵入した初期の頃に襲撃してきたので、人知れず紐で縛りフライパンを使ったら、お友達になってくれました。タンザさん関連で何人かの魔人と魔物はお友達です」
「師匠の友達の定義を疑います」
「フライパンは友好関係の構築に一役買ってくれますよ。お友達になりますか?」
「お断りします」
ルーテリアの里はかなり開けた場所にある。
前回のような奇襲は難しい。
情報の少ない相手に対して、正面からぶつかるのは避けたいところだけど、大賢者さんが魔法で偽装したところで、勇者パーティーの全員を完全に隠すことは難しい。
なら、あえて堂々と現れてみたのだが……
「来ませんね」
私は椅子に座りながら、お茶を楽しんでいる。
「師匠、私の分の椅子は?」
「あると思っているんですか? 図々しくないですか? 自分で座る椅子ぐらい自分で用意してほしいものですね」
「エドアルドさん、椅子ってアイテムボックスにある?」
聖女さんが聞く。
「椅子? そんなものをアイテムボックスに入れるわけないだろ?」
「だよね。聞いてみただけ」
「あら、皆さん疲れるでしょ? 座っては? 地べたに」
「チッ」
聖女さんは私の椅子を蹴ろうとしたので、フライパンで蹴りを受け止める。
「痛っ」
聖女さんはつま先を押さえてうずくまっている。
「どうかしましたか?」
「あんた武器を出すなんてひどいでしょ?」
「武器? 聖女さん、フライパンは武器ではありませんよ? 知ってますか?」
「師匠は認知症ですか? 過去を振り返ってから物を言ってください」
「私はフライパンを料理にも使いましたよ?」
「手入れの方法は何でしたっけ?」
「鍛冶屋さんに修理に出すことですか?」
「魔物の血液に含まれる鉄分と油分でメンテナンスって自分で言ってましたよね?」
「ジョークを本気にするなんて、イラリアもまだまだですね」
「じゃあ、その方法で手入れはしてないんですね?」
「してますよ? 常識で考えてください」
「師匠は多重人格者か何かですか? 少し前の発言ぐらいは責任を持ってくださいよ」
「ハハハ、それにしても反応が無いですね」
「笑ってごまかそうとしてませんか?」
「あれを見てください。魔人らしき何かが一人で歩いてきます」
魔力量的にはかなり大物。
流石に、椅子に座った状態では危ない。
アイテムボックスに椅子をしまい、いつでも戦えるようにする。
女魔人だ。
女とは言っても、魔人は単独で増えるので、何となくそう見えるというだけの話だ。
勇者が聖剣を抜く。
おかしい。
魔人に攻撃の意思があるのなら、攻撃していいはず。
「皆さん手を出さないでください」
「どうしてだ、ジーナ?」
「あの魔人から敵意が感じることが出来ないからです」
魔人は私たちの目の前まで歩いてきて跪いた。
「お待ちしておりました。教祖様」
「誰ですか? 面識はないと思うのですが……」




