第43話 満面の笑みで追い打ち
私たちは無事、魔王軍の潜伏していた部隊を殲滅できた。
しかし、魔王軍の本隊がまだ残っている。
一難去ってまた一難とはこのことだろう。
「次は魔王軍の本気編成部隊ですね」
「どうするんですか?」
「彼らが通りそうな道は割れています。奇襲します」
「大丈夫ですか?」
「まあ、失敗しても問題ありません。彼らがパダラを包囲している所を背後から攻めれば、挟撃できます」
「なるほど。抜かりないですね」
「私が悩んでいるのはそんなことではありません。どさくさに紛れて勇者と聖女をどうやって始末するか、それが問題です」
「もういいですよ。その冗談。だいたい、今勇者を殺害したら、犯人はフライパン教徒ってすぐにわかるじゃないですか」
「そうです。そこからの宗教戦争について、私は考えているんです」
「魔王討伐だけ考えて余計な事はしないでください。それで、魔王軍はいつ来るんですか?」
「24時間以内に来ますよ?」
「デーレスでこんなにのんびりとしていて大丈夫ですか?」
「大丈夫です。既に兵士の皆さんには配置についてもらってます」
「何が大丈夫なんですか? 一番戦力になる師匠がいないじゃないですか」
「それこそ問題ありません。敵は必ず奇襲を受ければ撤退します」
「なるほど、師匠の出番はないってことですね」
「違いますよ。撤退の時に後ろから笑いながら追撃する。それが私の仕事です」
「笑う必要ありますか?」
「魔王軍には大打撃を与えないといけませんからね」
「でも、何で魔王軍は奇襲を受けたら撤退するんですか?」
「奇襲を受ける時点で敵に情報が洩れていることは明確に分かります。潜伏していた味方部隊も攻撃されている恐れがあります。つまり合流できるかどうかは不明確です。もし、奇襲を突破して、ここに攻め寄せたとしても、奇襲により疲弊した軍隊に攻略されるほどパダラは優しくありません。まともな精神状態であれば、撤退するわけです」
「じゃあ、まともじゃなければ攻撃するんですか?」
「例えば、失敗したら処断されるなどですかね」
「十分にあり得そうじゃないですか?」
「魔王軍はパダラ攻略に何回失敗していると思いますか?」
「5回ぐらいですか?」
「数百回は失敗しています。その度に指揮官を失っていては魔王軍は勇者が滅ぼすまでもなく、自滅します。最初の数回はあり得ても、それ以降は処断するということはないと思いますよ。まあ、何にしても、奇襲部隊がどのような報告をするかで私の動きが変わります」
ドアがノックされる。
「どうぞ」
武官らしき男が入ってきた。
「ご報告します。奇襲に成功。魔王軍は撤退しているようです」
「では、追撃部隊に連絡してください。お仕事の時間だと」
私は馬に乗り、魔王軍を追っている。
イラリアは馬に乗れないので置いてきた。
今回の奇襲が私たちを誘い出して、パダラを手薄の状態にして、別動隊が攻める。
この線は無かったわけではないが、パダラには勇者パーティーを置いてきた。
おそらく、残存兵力と勇者パーティーがいれば、私たちが戻るまでの時間は稼げるはずだ。
ようやく見えてきた。
私はフライパンを抜き、すれ違う魔物をフライパンで殴る。
馬上でフライパンを殴る経験は無かったが、これもいいかもしれない。
連中は追撃を恐れて、森に侵入した。
森の手前で馬を置いてこればよかった。
私は魔物の悲鳴を背に駆け抜け、敵の総大将を探す。
魔物が多いうえに魔人が何人かいるため、どれが総大将なのかが分からない。
とりあえず、一番魔力量が大きそうなやつを狙おう。
私は上体を反らして、何かを避けた。
近くの木の幹がえぐれている。
私は何かをフライパンで弾いた。
魔力の反応はする。
でも、目視はできない。
巨大な魔力の塊が近くにいる。
魔人ね。
でも、魔力量的にはここの総大将ではなささそう。
ハズレか。
魔人らしき姿が近くに映し出されているけど、あれは幻。
巨大な魔力反応は幻影とは真逆の場所。
おそらく、私が幻影に飛びついたところを背後から狙撃するのだろう。
だが、その策に乗ってやろう。
私は馬から降り、幻影に向かって走る。
背後から魔力の塊が飛んできた。
私はその場で止まり、魔力の塊を撃ち返した。
「グッ」
魔人は迷彩の魔法が解け、出血するわき腹を手で押さえていた。
「何故分かった?」
私は地面を蹴って、魔人に接近する。
「なっ」
フライパンで頭を殴打した。
私は気絶した魔人を拾って、近くに兵士がいたので、あずかってもらった。
私は次の獲物を探す。
馬をぽんぽんと叩いて、帰っていいと合図する。
馬は元の道を引き返した。
魔物に襲われなければ、無事にパダラに着くことだろう。
魔人がいろんな場所に分散している。
追撃を恐れて、リスクを分散させたか。
私は追撃したが、これ以上は無理だった。
まさか、魔人を一人しか仕留められないなんて。
私は近くにあった木を何本かへし折って八つ当たりしながら帰還した。




