第41話 皆さん、感涙が止まらないんですか?
「勇者がどうかしましたか? 道端の石に躓きましたか?」
「そんなことなら、ここまで慌てないと思いますよ?」
「この前、仕掛けたいたずらに時間差で引っかかったかなって」
「師匠は暇なんですか?」
「で、勇者がどうかしましたか?」
「魔王軍が攻め寄せてくることを聞き、冒険者ギルドの前で演説を始めたようです」
「あの人はバカなんですか?」
「何でそうなるんですか、師匠? スタンピードの時はルカさんのおかげで士気が上がったんですよ?」
「ここをどこだと思ってるんですか? パダラですよ? フライパン教の総本山で星教会の宣伝部長がしゃしゃり出てきたらどうなるかなんて、考えなくても分かります」
「どうなるんですか?」
「戦争になりますよ。フライパン教徒の星教会への怒りは凄まじいものがあります」
「原因は師匠ですよ。他人事みたいに言わないでください」
「タフィ、狙撃部隊の用意はできてますか?」
「いつでも出撃可能です」
「いいですか。狙撃に失敗した時のために地上でナイフを構えた部隊も用意してください」
「暗殺しようとしないでください」
「千載一遇のチャンスですよ? フライパン教徒へ暴行したため、攻撃。こんな大義名分がある状態で事を運べるなんて最高じゃないですか」
「師匠の好感度が一緒にいるうちに下がり続けているんですけど。そろそろ下落を止めませんか?」
「私ほど、素晴らしい人間はいないと思いますけどね」
「師匠はジョークも言えたんですね」
「私はいつでもマジですよ? まあ、イラリアがそこまで言うのなら、仕方ないですね。タフィ、一応、鎮圧部隊を」
「承知いたしました」
タフィには教団本部に残ってもらい不測の事態に備えてもらった。
私たちが冒険者ギルドに到着するとピリついた空気が漂っていた。
「今こそ、我々の手で魔王を倒すのだ!」
「ふざけんな!」
「この星教会の犬め! どの面下げて来やがった!」
「聖教会に怒りの鉄槌を!」
勇者は罵声を浴びせられていた。
聖女は最初は怒りの表情だったが、だんだんと顔が青ざめている。
勇者も普段と異なる状況に困惑しているようだ。
勇者というネームバリューはここでは通用しないことを体で覚えていることだろう。
「もう少し眺めましょうか?」
「早く止めてください」
「仕方ありませんね」
私は声を張り上げる。
「皆さん!」
群衆が私を見る。
「教祖様!」
私が歩き始めると群衆が通り道を開けるように移動する。
気分がいい私はくねくねと勇者のお立ち台へ向かう。
「師匠、何でまっすぐ歩かないんですか?」
「勇者さん、どいてください」
「ああ」
私は勇者さんを追い落とし、台に乗る。
「師匠、どさくさに紛れて、手で押しませんでしたか?」
私は深呼吸をして、落ち着く。
私の落ち着き払った態度によって、周囲も静まり返る。
「魔王の手先により、この地は修羅の地となっておりました。先人たちは魔物に襲われ、日々を生き抜くことがやっと。せっかく育てた農作物は魔物に食い荒らされ、女子供は魔物により悲しき末路を辿る、そんな日々でした。しかし、私たちフライパン教の宗徒はこの困難を皆で乗り越え、この栄光の街パダラを築き上げました。この荒れ地がこのような素晴らしい都市になったことは、ひとえに信心深きあなた方の為した奇跡であります。しかしながら、今、この地に魔の手が迫っています。魔王は再びこの地を我が物にせんと邪心を抱いております。信者たちよ。今まさに信仰心を示す時です。我々はいかなる犠牲を払おうともこの街を信者を守ります。我々は決して屈しません。凶悪な敵を撃ち滅ぼし、栄光を勝ち取るのです」
私は息を整える。
「魔王の首を獲りたいかー!」
「「「オオオオ!!」」」
「何で最後の最後で台無しにするんですか?」
イラリアのつぶやきは闘志に火が着いた信者たちの声にかき消された。
街の主な街道ではデモ隊による行進が行われている。
曰く、魔王に死の鉄槌を。
曰く、悪魔に滅びを。
「我ながら、自分が恐ろしいです」
「あの演説でここまで火は着かないと思うんですけどね。最後はあんなんだし」
「このタフィ、感涙が止まりませぬ」
タフィは布で目を覆っている。
「泣く要素ありました?」
「タフィさん、床を濡らさないでくださいね。汚いので」
「最低ですね」
「でも、ここまで火をつけると、私が魔王討伐に行かないといけない流れになりませんか?」
「行かないんですか? あそこまで言って、魔王を討伐しないとかありえないと思います」
「問題ありません。信者たちには常に最新の言葉を信じるように伝えているので、矛盾する内容だった場合は、最も新しい発言が正しいことになります」
「いろんなものがグラグラですね」
「なので、聖典の販売収入が教団の資金の中核になっています」
「どうなってるんですか? 貸金とか犯罪に手を染めてるのに聖典の販売が最も稼いでるって、改訂版出しすぎなんじゃないですか?」
「フライパン教徒は常に時代の最先端を走ってますから、この程度のスピードでは物足りないと思いますよ?」
「私はお財布事情の方を心配してるんですけど」
「教団のですか?」
「いえ、信徒のです」
「まあ、どちらのお金にしても、私の物だからいいんですけどね」
「さらっと、危険な発言するのやめてもらっていいですか?」




