第38話 愉快な仲間たち
翌朝、勇者さんと聖女さん、大賢者さんは朝食が要らないとのことなので、先にどこかへ出発していた。
「皆さん、着席してください」
「まさか、そんな手があったなんて、何でレラさんもルカさんも教えてくれなかったんだ。あ、師匠、私、お腹が痛いので、朝食要らないんです」
「調子が悪いのですね。食べないと体が持ちませんよ。そこの方、料理長に頼んで、イラリアの朝食の量を増やして差し上げて」
「かしこまりました」
給仕の人が一礼して、立ち去った。
「師匠、お願いです。勘弁してください」
「お静かに願います」
給仕の人がそれぞれ場所にパンとスクランブルエッグなどの料理を並べる。
「匂いは良いのに、味が怖いんですけど」
「頂きます」
私はパンをかじると、イラリアたちも渋々手をつける。
「あ、おいしい」
「勇者さんと聖女さんがいませんからね」
イラリア、剣聖さん、盗賊さんは涙しながら、おいしそうに朝食を食べていた。
朝食を食べ終わり、給仕に皿を下げてもらう。
「そう言えば、夜中にフライパンの殴打音みたいなものが聞こえたんですけど、師匠、何か知ってますか?」
イラリアが口元をぬぐいながら聞いてくる。
「それはフライパン教の聖職者見習いを起こすときの音ですね」
「起こす? 夜中ですよ?」
「少し時間があるので、彼らの生活を説明しましょうか。フライパン教の聖職者見習いの朝は早いです。彼らの起床時間は午前3時です。フライパンの殴打音で目覚めます」
「それは音じゃなくて、叩かれて起きてるんだと思います」
「彼らは起こされる一時間前から目を覚ましています。3時まで寝ていると叩き起こされるからです。余談ですが、フライパンで起こす人も人間です。しかも、早朝は判断力が鈍っているので、必要以上の力で叩いてしまいます。なので、まれに起こすつもりが永遠の眠りになることがあるそうです」
「ダメじゃないですか!」
「そのおかげもあってか、彼らのほとんどは2時には完全に戦闘モードになっています。3時30分からは7時まで工場で働きます。7時から30分間の朝食時間を与えられます。朝食時間が終わると労働時間が始まります。22時まで労働をします。22時から翌日の1時までは祈りの時間です。祈りの時間が終わり、1時から3時までは自由時間です」
「睡眠時間と昼食と夕食はどこに行きました?」
「24時間には入りきらなかったので、自由時間や合間時間に頑張ってもらっています。この厳しい修行を5年間続け、S値をキープしたまま、M値の上昇を防ぐことが出来れば、無事に聖職者となれます」
「今時、囚人ですら、そんなひどい扱いは受けてませんよ? 修行と嫌がらせを混同してませんか?」
「修行ですよ? ふざけてるんですか? 殴りますよ?」
「やめてください。話は変わりますけど、今日は何をするんですか?」
「剣聖さんと盗賊さんに礼拝所に来てもらおうかと」
「本格的に洗脳しようとしてませんか?」
「あと会わないといけない人もいますしね」
「裏社会のボスですか?」
「よく分かりましたね。少し違いますけど、だいたい合ってます」
「当ててしまった」
私とイラリアは大通りを外れ、薄暗い道に入る。
頑丈そうな塀に囲まれた建物の前に着いた。
こわもての男たちがぞろぞろと出てきて、私たちを囲む。
「お待ちしておりました。どうぞ、ボスは中でお待ちです」
「そうですか」
私は案内役の男についていった。
男は目的の部屋にたどり着くと扉を開け、中に入るように促す。
「お入りください」
「ありがとう」
部屋の中に入るとボスが直立の状態で待機していた。
「お待ちしておりました」
私はボスと対面になるように腰掛けに座る。
私が座るとボスも腰をゆっくりと下ろす。
「師匠、こちらの方は?」
イラリアが私に小声で話しかける。
「別に小声にする必要はありませんよ? 今回はイラリアに紹介する意味合いもありますから。こちらの方はヴィゴール・カーショさんです。闇ギルド、星教会信徒の集いの代表をなさっている方です」
「え? もう一度、ギルド名を聞いていいですか?」
「星教会信徒の集いですよ」
「犯罪組織ですよね?」
「はい」
「名前に悪意が籠り過ぎてませんか?」
「そうでしょうか? 星教会の悪行が犯罪並みであることを表現した良い名前だと思うんですけど……」
「師匠の悪意しか籠ってないじゃないですか。何ですか、その陰湿な嫌がらせ?」
「カーショさん、こちらはイラリア、私の一番弟子です」
「お弟子さんでしたか? よろしくお願いします」
カーショさんは温厚な笑みを浮かべ、手を差し出す。
「あ、よろしくお願いします」
絵面だけ見れば、優しそうなおじいちゃんと少女が握手しているように見える。
「あ、これは余談ですが、カーショさんはかつて優秀な暗殺者で成功件数は11653件です。そのうち握手の瞬間に暗殺した件数は8784件です」
「カーショさん、離してもらっていいですか?」
カーショさんは笑顔のまま、固まっている。
「お願いです。離してください」
「カーショさん、手に毒物を塗ってませんか?」
「よくわかりましたね、教祖様」
「放せ!」
イラリアは暴れ始めた。
だが、手は振りほどけていない。
「解毒薬を後でください」
「今すぐ、ください!」
イラリアには別室で待機してもらい、私たちは30分程、会談をしてここを後にした。




