第30話 いろんな意味ですごいですね
ワイバーンが索敵と迎撃を務めてくれるおかげで、私たちは平和な時間を享受している。
「剣聖さん。ドジっ子キャラはどうなったんですか?」
「師匠、あれ本気だったんですか?」
「私はいつもマジです」
「ジーナ様」
「あのアブドンさんもバオラさんも何で平然と師匠を様付けしてるんですか?」
「ジーナ様、戦闘中にドジを出すのは厳しいです。何とかなりませんか?」
「分かってないですね。最近、剣聖さんと盗賊さんが会話に全く入れていないという現実をご存じないのですか? 剣に関してはどれだけ努力しようとも、聖剣というビッグネームには勝てないんです。しかも、ワイバーンが入ったせいであなた方の魔物を先行して狩るという役割は奪われたんですよ?」
「ジーナ様、あたいも不安に思ってました。このままじゃ、空気になるんじゃないかって」
「その不安分かりますよ、盗賊さん」
「ワイバーン連れてきたのは師匠じゃないですか」
「いいですか? あなた方、勇者パーティーは星教会の広報をしているんですよ?」
「おい、違うぞ。俺らは魔王を討伐するために活動してるんだ」
「勇者さん。あなたは何も分かってない。何で、星教会が魔王討伐という何の利益もないことをすると思いますか?」
「魔王が人類を襲う危険を排除するためだ」
「違います。彼らは拝金主義者ですよ?」
「師匠、自分を省みてから言ってください」
「人類の敵を魔王にしておくことで、魔王を討伐できる希望の星、勇者を担ぎます。それを星教会が支援することにより、正義の味方星教会を演出します。演出の結果、勇者を応援するために人々が星教会をお金で支援する。そう言う構図です」
「それと剣聖さんが目立たないことは関係ないじゃないですか?」
「イラリア、考えてみなさい。グッズを作っても売れない剣聖さんと盗賊さんのどこに利用価値があると思うの?」
「グッ」
「うっ」
剣聖さんと盗賊さんがダメージを受けたようだ。
「いいですか。キャラが必要です。もっとキャラが。そうですね。ドジっ子が無理なら嫉妬のあまり勇者を殺した剣聖。勇者さん、聖女さん、盗賊さんの三角関係、精神を病んで聖女を刺殺。キャラ付けとしては最高じゃないですか?」
勇者と聖女の方がビクッとなった。
「アブドン、俺とお前の仲だろ? 暗殺とかやめてくれよな」
「ねえ? バオラ? 私たち友達でしょ? パーティーの中でそんな変な関係になるのはやめときましょうよ。というより、私を刺殺するために勇者を好きになるとか意味わかんないでしょ?」
「暗殺しようとしてますね、師匠? リクルートはやめてください。それに実行したら、2人が人類の敵になるじゃないですか! 何より、パーティーを崩壊させようとしないでください」
「仕方ありませんね。続きは夜に話します」
「やめてください」
パーティーの連帯意識に亀裂が入ったところで階層主がいる部屋の前にたどり着いた。
「エドアルド、次の階層主は何だ?」
勇者さんは大賢者さんを百科事典か何かだと思ってるんだろうか?
「アラクネだ」
「アラクネって下半身がクモで上半身が人間って奴だよな?」
「ああ、ここの階層主に関してはまともな情報が手に入らなかったから、詳しくは見てみるしかないな」
「じゃあ、入ってみるか」
私たちは門をくぐった。
この階層主は3メートルほどのアラクネ。
今までの階層主と比べ、しっかりと考えられている感は漂っている。
しかし……
「師匠、あれがアラクネですか?」
「思ってたイメージとは違いますね」
人間の足が胴体に6本だけ配置されていて、上半身は人間の女のようになっている。さらに特徴的なのは上半身が常に独創的な動きをしている。
起き上がりこぼしの動きに近いダンスをしている。
「蜘蛛の足って……」
勇者がアラクネの足の本数に関して疑問を持ったようだ。
「8本だ。上半身に二本腕があるから、計8本ということなのかもしれないな」
大賢者が優秀な頭脳を使う必要性が全くない推測を披露した。
アラクネが足を素早く動かしながら、上半身をくねくね動かしながら近づいて来た。
「うわっ、こっちに来た。気持ち悪いから逃げよ」
私はアラクネのあまりの気持ち悪さから、思わず距離をとってしまった。
「師匠、逃げないでください。せめて私を助けてから、逃げてください」
大賢者さんが火球をアラクネに放つ。
アラクネが上に飛び、回避した。
「うっ」
アラクネが着地時に残念な声を漏らす。
そして、足をプルプルさせている。
あのアラクネの足は6本あるが、人間の足と変わらない。
おそらく、自らの体重を耐えることが出来なかったのだろう。
何で飛んだんだろう。
大賢者が風魔法でアラクネを吹っ飛ばす。
アラクネは着地すると勇者目掛け突撃する。
勇者は突撃を避けながら、足を二本斬り落とした。
「いやああああ」
絶叫しながら、バランスが崩れたアラクネはそのまま倒れた。
「終わった?」
聖女はここにいる全員の気持ちを代弁してくれた。
「余りにもあっけなかった。確かに切った感覚はあったが、これが階層主?」
「勇者さん、まだ死んでませんよ」
私は声を張り出し、忠告する。
「ジーナ殿の言う通りだ。奴はまだ、生きてる。皆油断するな」
大賢者さんも見破ったようだ。
奴の魔力が活発に動いていることに。
アラクネが急速に再生した。
しかも、千切れた二本の足はそれぞれ別の個体として再生した。
つまり、アラクネは3体になったのだ。
「階層主にしてはあまりにも弱いと思ったが、再生能力が奴の強みか!」
勇者が悔しそうに言う。
「でも、アラクネにあんな能力あったかしら?」
「レラ、迷宮は時に常識を超えたことことをしでかすからな。覚えておいた方が良い」
大賢者の意見には強く同感する。
このデザイン性の無さと言い、階層主の残念さと言い、何か欠けたものを感じる。
「皆さんがなぜ指摘しないのか分かりませんが、アラクネの奇妙なダンスが3体もしていることに私の頭は強く拒否反応が出てます」
「イラリア、気持ち悪いのは分かるけど、皆言わないようにしたんですよ? 考えるだけ無駄だから」
「師匠もそんなことを感じることがあるんですね」
アラクネは縦横無尽に動き回り、手をつきだして、近くにいる人間を掴みかかろうとする。
剣聖がアラクネの腕を斬り落とした。
アラクネは再生し、斬り落とされた腕がそれぞれ新たなアラクネになる。
これでアラクネは計5体となった。
「不用意に斬るな!」
大賢者さんそう言いながら、はアラクネの一体を丸焦げにした。
「きゃあああああ」
アラクネが絶叫し倒れた。
しかし、魔力の反応がまだある。
アラクネの焦げた皮膚が剥がれ落ち、きれいな皮膚が出てきた。
「うふふふふ」
焦げたアラクネは再生し終わると、甲高い笑い声をだし、起き上がった。
別のアラクネが気持ち悪い脚運びをしながら私に近づいて来た。
私は無意識的に頭をフライパンで殴っていた。
アラクネの頭はフライパンの圧に耐えられず、破裂した。
頭部を失ったアラクネはしばらく直進すると失速して、首から血を噴き出しながら、倒れた。
「アラクネの頭って叩き甲斐がないですね」




