第29話 トラウマ2
私たちは大きな問題に直面している。
「この穴を使えば、一気に何層か降下できそうだな」
勇者は穴を覗き込みながら言う。
「でも、ルカ、ここから落ちたら死ぬわよ?」
「それこそレラの回復魔法で何とかならないのか?」
「ダメージは回復できても、即死はどうにもなんないわよ」
「じゃあ、落下ダメージを軽減する方法を見つけないといけないな」
「そんな魔法があるの?」
「俺は知らないが、エドアルドなら……」
「飛行魔法はないことはないが、他人に施すのは無理だぞ? そんなことよりもどうやって迷宮に穴を……」
大賢者は穴をあける手段の方に集中していて、使い物にならなかった。
「それだとエドアルド以外が大変なことになるな」
迷宮の修復速度があまりにも遅くてびっくりだ。
まさか、まだ、こんな大きな状態で残っているとは。
「というより、転移門あるんだから、それ使えばいいですよね?」
私がそう言うとパーティーメンバーがはっとした表情をする。
「そうか! この大穴が気になって忘れていたが、転移門があったな」
「そうね。私も忘れてたわ」
勇者と聖女は頭がかなり弱っているのかもしれない。
「しかし、この穴一体誰がどうやって……」
大賢者の声を無視して私は足早に転移門をくぐった。
私たちは第七階層へと足を踏み入れた。
第六階層との違いは出現する魔物のレベルが少し高いというぐらいだ。
早速門から出ると、熱烈な歓迎が待っていた。
10体ほどのワイバーンの群れだった。
「師匠、あの群れのボス、何か見覚えないですか?」
「確かに、爆破したくなるような見た目をしてるわね」
「おい、ワイバーンの一体が距離を取ってないか?」
ボスが咆哮を上げるとワイバーンが攻撃してきた。
「ワイバーンの爪には気を付けろ、捕まれたら一環の終わりだ」
大賢者が忠告する。
ワイバーンは鋭い爪で獲物の内臓や急所にダメージを与えて、そのまま捕食する。
場合によっては高所からの落下ダメージも用いるようだ。
ワイバーンたちを大賢者が石を撃ちだして迎撃するが、早すぎて捕らえられてないようだ。
しかし、牽制のおかげもあって、こちらに近づけないでいる。
ワイバーンが先頭の勇者の上空を通り、私を狙ってきた。
私は迫る爪を躱し、ワイバーンの脚部にフライパンを叩きつける。
「グギャッ」
ワイバーンは無様な悲鳴を上げ、陸地を転がった。
ボスワイバーンが再び咆哮を上げる。
「何か、ワイバーンの視線を集めてる感じがするんですけど」
「師匠、狙い撃ちにされてませんか?」
「エドアルド、ジーナを援護してあげてくれ」
「分かってる」
「いえ、結構です。剣聖さん、出番ですよ」
「承知しました。ジーナ様」
剣聖は私に迫るワイバーンを剣で次々と斬り伏せる。
時々、迎撃に失敗して、私に攻撃が来たが、避けたので問題ない。
実に見事な剣捌きだ。
盗賊さんが弓で援護をしている。
ボスワイバーンを除いてすべてが討伐された。
「残りは一体ですね」
ボスワイバーンが逃げようとする。
私が殺気を向けると恐怖のあまりか硬直して、地面に落ちた。
剣聖は止めを刺そうとするが、私は制止した。
「生け捕りでお願いします」
「ジーナ? 何するつもりだ?」
「大丈夫です。勇者さんには関係のないことですから」
ワイバーンが剣聖さんに引きずられて、私の下まで来る。
「しかし……このワイバーン、尋常じゃない震え方をしてるぞ」
「確かに、こんなに魔物って小刻みに震えることが出来るのね」
「レラ、問題はそこじゃないと思うぞ」
「すみません。少し、尋問してくるんで、そこで待っててください」
「尋問? おい、ジーナ何するつもりだ!!」
私はワイバーンを掴み、少し離れた場所へ移動する。
「あなた、私を狙い撃ちするように群れの子たちに命令しましたね?」
ワイバーンが勢いよく首を横に振る。
腹をフライパンで殴る。
「ギャッ」
「嘘はダメですよ」
ワイバーンが姿勢を低くして、地面に頭をこすりつけている。
「土下座ですか? そんなんで許されてると思ってるんですか? 誠意を見せてほしいですね。そうだ。いい方法がありますよ」
私はワイバーンの尋問を終了して、パーティーの下へ戻った。
「ワイバーンが傷だらけじゃない!」
聖女が憐みの目をワイバーンに向ける。
「聖女さん。今更、聖女アピールをしても遅いですよ? しかも、これは先ほどの戦闘の傷じゃないですか? 私たちは先ほど友情を再確認したばかりですから。ね?」
ワイバーンが勢いよく首を縦に振る。
「師匠の友情って歪んでるんですね」
「イラリアも友情の再確認しますか?」
「ごめんなさい。謝るんで尋問はやめてください」
聖女さんはワイバーンに回復魔法をかけている。
「ジーナ、そのワイバーンはどうするんだ?」
「勇者さん、お友達なんですよ? 連れてくに決まってるじゃないですか? それに私から離れすぎるとこのワイバーン自爆しますし」
「師匠! 何したんですか? そのワイバーンに」
「友情の確認ですよね? ね?」
治療が完了したワイバーンが勢いよく首を縦に振る。
「まあ、止めはしないが……」
「勇者さん、何か不満でもあるんですか?」
「いや、少し可哀そうに見えてきてな」
「魔物に憐れみを感じてるんですか? 魔物の虐殺こそ勇者の仕事だと思うのですけど」
「いや、言い方! 結果としてそうなってるが、別に無意味に命を奪うことはしてないぞ」
「まあ、仕方ないですね。そう言うことにしといてあげます」
私はワイバーンに先行するように命令する。
もちろん言葉で言うと、私とワイバーンの友情を誤解されかねないので、顎をくいっと動かして命令をした。
もし、私たちが次の階層主と戦うまでに魔物と遭遇したら、あのワイバーンを爆破する。




