第28話 トラウマ
平原階層を踏破して、森林階層に到達した。
ここからは階層主がいる。
下の階層に行くには階層主が守る転移門をくぐる必要がある。
私はそんなことより、勇者と聖女をどうやって、トレントの群れに突っ込ませるかを考えている。
トレントをちらほらと見かけるが、残念なことに道から少し外れているので、誘導は厳しかった。
「オークの群れが近くにいますね」
「ジーナ様、あたいにお任せください」
盗賊さんは隠形スキルを使い気配を消し、オークの背後に近づき、一匹ずつ、紐で首を絞めている。
状況がつかめていないオークたちは逃げ惑うが、皆仲良くお縄に掛かった。
「パオラってあんな子だったけ?」
聖女がボソッとつぶやく。
「師匠とパオラさんとの間に何があったか知らないですけど、いつの間に上下関係を築いたんですか」
「私は何もしてません。彼女の変わりたい気持ちが変えたようですね」
盗賊さんが戻ってきた。
「ジーナ様、終わりました。いかがでしたか?」
「そうですね。キャラ付けの練習の成果は出ていますが、一瞬で始末し、処理できる量を増やすよう努力しましょう。殺しのプロフェッショナルにはまだまだですね」
「ありがとうございます。これからも精進します」
「師匠、殺し屋としてリクルートしようとしてませんか?」
「殺し屋としてリクルートって、この人ほんとに何してる人なの?」
「レラさん、師匠に関しては存在が意味不明なので、深く考えると頭が消化不良になりますよ。見てください、エドアルドさんは既にそのことを悟ってますよ」
「そうなの?」
「ジーナ殿の実力は私では測れないのですよ。これが意味することが分かりますか?」
「ここにいる誰よりも強いってこと?」
「おそらく。そんな規格外の人間を相手に常識で測ろうなど愚かでしかない」
「何の話をしてるんですか? 情報漏洩の匂いがするので記憶を奪いたいのですがよろしいですか?」
「それを良いと言うと思ってるの?」
「聖女さんからですね」
「ちょっと、そのフライパンを下ろしてよ!」
「え? 振り下ろせ? ご本人から望まれるなんて珍しいこともあるんですね。そんな変人はマッシモさんぐらいかと思いましたが、まさかここにもいるとは……」
「マッシモって誰? こっち来んな!!」
聖女がじゃれてくるので、思わぬ時間を食ってしまった。
周囲にいる魔物は私が索敵して盗賊さんが大方を仕留める。
厳しくなったら、剣聖が始末。
これの繰り返しで、実に快適な道だった。
「石壁ですね」
「ここの階層主は確か……」
勇者が思い出そうとしている。
「ジャイアントボアだな」
大賢者さんが答える。
「ジャイアントボア? でかいイノシシってことか?」
「ああ、大きいから仕留めるのはなかなか厳しいな」
「エドアルドさん、階層主の情報ってどこで手に入れたんですか?」
イラリアが驚いた様子で言う。
「階層主と戦ったことがある人たちから情報を買う。冒険者の基本だろ?」
イラリアが私に鋭い視線を向ける。
「師匠、情報収集のためのお金をケチりましたね?」
「何のことをおっしゃっているのか分かりません」
「イラリアちゃんはここの階層主と戦ったことあるの?」
聖女が驚いた様子を見せる。
「いや、私は逃げただけで、戦ったのは師匠です」
「え? あの人だけで?」
「何でもいいんで早く入りませんか?」
「ジーナの言う通りだな。スタンピードを一刻も早く止めるのが俺らの使命だ」
私は再び、巨大イノシシと遭遇することになった。
再び獣臭。
イノシシが私を見るなり後退る。
あのイノシシ失礼すぎる。
やはり、猪鍋にするべきだろうか。
「おい、ジャイアントボアが震えてないか?」
「ルカ、あれを見て」
聖女が勇者の肩を叩き、部屋にある巨大な穴を指さす。
「何だあれは?」
「階層の床が抜けてる? どういうことだ?」
大賢者が考え込んでいる。
イラリアが私を不安そうに見ている。
私は余計なことを言うなよという思いを込めて見つめ返す。
「イラリアちゃん。イラリアちゃんが来た時にはこの穴はあったの?」
聖女がイラリアに聞く。
「いやー、無かったと思います」
イラリアの動きがぎこちない。
まだまだね。
「思う?」
「いや、ありませんでした」
「それよりも、あのイノシシを倒すべきじゃないですか?」
私が穴から、イノシシにパーティーの注意をそらす。
「そうだな。穴のことは後で考えればいいしな。まずは目の前のモンスターに集中しよう」
勇者のこの一言で空気が変わった。
イノシシもやる気を出している
あれは私に攻撃をしようとしているの?
この私に攻撃の意思を?
おい、イノシシ、分かってんだろうな。
「何故だ? あのジャイアントボア、再び後退りを始めた? エドアルド、あれはどういうことか分かるか?」
「分からん。いったい何が起こってるんだ」
大賢者でも分からないことがあるのね。
イラリアが私を非難する目で見ている。
これ以上はバレてしまうかもしれない。
早く、そこの勇者を殺せ。
イノシシが勇者にロックオンした。
「ジャイアントボアが急にやる気を出したわ。ルカ、気を付けて」
「分かってる」
勇者が剣を構える。
「ルカ、正面からは受けるなよ。あの巨体だ。いくら勇者とは言えど、あの巨体から生み出される衝撃力はバカにできないぞ。可能な限り側面に回って、比較的防御力の低い内臓を狙うんだ」
大賢者が忠告する。
「こんな知的な戦い方があったんですね。師匠と一緒にいたせいで知りませんでした」
「ねえ? それどういう意味? 私もだいたい同じことしてたでしょ。それに、イラリアは戦ってないじゃない」
そんなことを言ってると勇者は既に戦闘を始めていた。
「くそっ、どこもかしこも堅い」
「ジーナ様、首が太すぎて縄の長さが!」
「離れろ、撃つぞ」
パーティーメンバーがイノシシから離れると、イノシシの背中が爆発した。
痛みからか、イノシシが絶叫する。
そして、私に突撃してきた。
「あ?」
イノシシが急停止する。
慌てて向きを変え、勇者の方に突撃した。
「あのイノシシ、師匠を完全に怖がってますよね? モンスターにトラウマを与えるってどういう仕組みですか?」
その後、勇者パーティーがちょこまかと攻撃して、削り切ったところで最後の一撃を私がした。
これで働いていないという文句は出ない。
我ながら、賢い働き方だ。




