第20話 攻撃開始
兵糧の準備、装備の用意、ハーピーの指導。
守るもん君を目標に的確に落とすということを学習させるのに一週間もかかってしまった。
偵察して見たことをそのまま報告する、この単純なことを覚えさせるのに三週間。
攻撃の計画から1カ月、状況としてはかなりギリギリだ。
ハーピーの低能さを甘く見ていた。
ムカつく変顔によって止まる指導など予期しない時間的ロスがここまで大きくなるなんて。
「ようやく、本番です。では、お願いします」
「出撃だ!」
隊長格のゴブリンがハーピーを蹴る。
「グフッ、グヘヘヘ」
「あの気持ち悪い笑い方何とかなりませんか?」
「それを覚えさせるのには一週間以上かかります。この大事な局面でそんなことには時間を使えません。本当は彼らにご飯の食べ方も教えたいんですけどね」
「どういうことですか?」
「彼らは餌をどこで食べてると思いますか?」
「そう言えば、食欲旺盛と聞いていましたけど、食べている所は見たことないですね」
「彼らは食べながら排泄をするため、彼らの食事場はほとんどの例外なく、汚れます。なので、拠点の外の森でひっそりと餌を与えています」
「ハーピーって、そこまで残念な生物なんですか?」
「ついでに言うなら、野生動物なのに胸から上は人間なので噛みつく力が大したことが無く、食べる際の咀嚼音が絶望的なのも残念ポイントですよ」
「魔物っていろんな生物がいるんですね」
「そのまとめ方で大丈夫ですか?」
私たちが雑談をしている間にハーピーの群れが敵の砦へと旅立った。
1分ほど待つと、閃光と爆発音が届いた。
その音を合図にゴブリン部隊とウルフの偵察隊が進撃を開始した。
爆撃により、大方の防御施設は破壊されていた。
また、アンデッドとの戦いが厳しいこと、さらに、同盟が結成されたばかりであることから、攻撃の可能性は薄いとオークたちは踏んでいたようで碌な戦力が配置されていなかった。
おかげで、踏みつぶすように占拠できた。
今は、コボルトによる砦の修復作業が進んでいる。
「修復にはどのぐらいかかりますか?」
私は工兵隊長に質問をする。
「完全な復旧には一カ月。最低限の機能は2週間ほどかかります」
「3日から一週間の間で最低限の機能は何とかしてください。人員や資材は自由に使って構いません」
「しかし……」
「足りなければ、手の空いているゴブリンでも使ってください。間に合わなければ粛清です」
「全力を尽くします!」
「師匠、暴君にでもなるつもりですか?」
「私は名君の才能があると今、ひしひしと感じていたところですよ?」
「暴君、名君、以前に感性の問題ですね。治療を受けた方がいいと思います」
「そう言えば、負傷兵はどうなりましたか?」
「衛生兵が治療をしてるそうです」
「回復したら、土木作業に回してください」
「鬼ですか?」
「彼らの骨までしゃぶりつくす。そう言うことです」
「鬼ですね」
「しかし、余裕がないのですよ。時間的にも戦力的にも」
「分かりますけど、大丈夫ですか? そのやり方」
「拠点からのピストン輸送もありますし、おそらく大丈夫とは思いますが、急いだ方が良さそうです」
「アンデッド連合ですか?」
「はい。こちらの動きを察知したのか、攻勢を強めているようです。場合によっては二勢力と同時に戦うということもあり得ます」
「勝ち目ありますか?」
「微妙でしょうね。空爆を活用しても、死体にどの程度効果があるか。陸上戦力はアンデッドが間違いなく強いです。死なない兵士は解体して動けないようにはできますが、完全には殺せません。私たちは生者です。刺されれば、動くことはおろか生存さえ危なくなります」
「確かに」
「そこで、守るもん君の大規模運用を開始します」
「というと?」
「ゴブリンに守るもん君を括り付けて……」
「最低ですね。戦力に余裕があるときに使う作戦ではありませんよ」
「では、ゴブリンメイジの活用をしましょうか」
「ゴブリンメイジですか?」
「ゴブリンの集落が大規模化したおかげなのか、魔法に目覚めるゴブリンがいまして、訓練して使えるようになれば、主力になります。まあ、すべてはオークを改宗してからの話ですけどね」
3日後、砦の方はまだ、修理が必要だが、最低限の設備は何とかなり、兵士の準備も整った。
作戦会議も詰めに入っている。
要塞の修理中も会議はしていたが、要塞の修理が完成していない状態で出陣することに反対が多く、説得と粛清に時間がかかってしまった。
「この要塞から3日後には敵の本拠地まで到達できます。到着後包囲し、敵の士気を低下させます」
「将軍、却下です。包囲はしません。そのまま、攻撃します」
「しかし、敵の本拠地は防衛も整っています。アンデッド連合すら、攻撃に失敗し、後退しています」
「問題ありません。先行させたウルフ部隊により、本拠地の周辺の兵士を襲撃し、伏兵の防止をします。その後、ハーピーによる空爆で敵門の破壊、破壊後、突入し、一気に決めます」
「そんなにうまくいくのでしょうか?」
「偵察部隊の話ではアンデッド連合が前線を再び突破したようではないですか。もたもたしてしまえば、オークの死体を吸収したアンデッド連合と決戦になります。それに勝つ自信がおありのようでしたら、任せます」
「……」
「将軍、行軍の準備は?」
「兵站に関しましては問題ありません。いつでも出撃可能です」
「では、号令してください」
「了解しました」
将軍に参謀など会議の参加メンバーが天幕から出る。
「師匠、ミリタリーにジョブチェンジするつもりですか?」
「最近、テンションの落差が激しいのは承知してます。酔わないように頑張ってください」
「無理だと思います」
ハーピーが飛び立つ。
しかし、前回のように簡単にはいかないようだ。
敵の戦力が整っていることもあり、ハーピーに魔法や矢が放たれている。
ハーピーは何とか守るもん君を投下して、門を壊したが、周辺の防衛設備までは壊しきれなかった。
笛と太鼓の音が鳴り響く。突撃の合図だ。
野生動物の雄叫びが双方から聞こえるという人間にとっては最悪な状況だ。
ゴブリンたちは何とか、道を開き、私が突入できるようにしてくれた。
「師匠、武運を祈ってます」
「大丈夫です。フライパン神の加護がありますから」
私はオークの本拠地に足を踏み入れた。




