第105話 新たな戦力
私の目の前でイラリアが震えてうずくまっている。
「毛布は要りませんよね?」
「何で要らない前提なんですか? 要るに決まってるじゃないですか。早く、ください」
「私が毛布を持っているように見えますか?」
「じゃあ、何で聞いたんですか!」
「まあ、あるんですけどね」
私はアイテムボックスから毛布を取り出し、イラリアに投げつける。
毛布の勢いが強かったのか、イラリアは毛布と衝突して後ろに転倒した。
「ちょっと! もう少しスピードを考えてください!」
「何でそんなに震えているんですか?」
「師匠が私を氷が敷き詰められた箱に入れたからでしょ! 何で学習してくれないんですか? と言うか、ここどこ?」
帝国に入国するときと同じようにイラリアを生鮮食品として箱に詰めて輸送した。
そして今に至っている。
「ここは西の魔王領のエルフの里、通称引きこもりの墓場の入り口です」
「そんな通称は聞いたことありません。何でエルフの里に?」
「ここに反撃の秘密があるからです。では、この事務所に入りましょうか」
私は事務の人に声をかける。
「入場料はこちらに……」
「森ではなく地下です」
「少しお待ちください」
事務の人が窓口の椅子から立ち上がり、裏口の扉を開ける。
「裏口からどうぞ」
「え? 師匠? 入場料って何ですか?」
「エルフの森は観光資源として有用だと思ったので、観光施設として入場料を取ることにしたんです」
「それで、観光客は来たんですか?」
「物珍しさから多くの観光客が訪れましたが、森にかけられた魔術により、誰一人帰ってくることは無かったようです。まあ、土には還ってますけどね」
「その冗談は笑えませんよ?」
「では地下に行きましょう」
「ワクワクルームですか?」
「そんなわけないですよね? だいたい、ワクワクルームは教団本部の地下30階に素晴らしいのを整備してあります。この地下には生命魔法研究所と言う物があります」
「生命魔法研究所?」
「覚えてませんか? 勇者さんの毛髪を買い取った白衣の集団」
「あ! あの時の!」
「その人たちの研究内容に興味があったので買収して、こちらにお招きしました。ひとまず研究所に入りましょう」
私は事務所に裏口から入り、階段を降り、小さい地下室にたどり着いた。
地下室には物がほとんどなく、巨大な格子状の扉があるだけだった。
私はその扉の前に立つ。
「師匠、扉の向こう側が巨大な穴になってるんですけど?」
「研究所は地下の深い場所にあります。そんな場所へ階段を使って行くのは嫌なので、一部の宮殿で整備されていると言うエレベーターを導入しました」
エレベーターが来た。
扉が開いたので、私は中に入った。
イラリアは入ろうとしない。
「入らないんですか?」
イラリアは意を決して中に入ろうとしたので、私はボタンを押して、ドアを閉める
「ちょっと!」
イラリアはドアの隙間をすり抜けるようにエレベーターに飛び乗った。
「チッ」
「おい! それは酷過ぎませんか?」
「すみません。この狭い空間で2人きりって言うのはちょっと……」
私はモジモジしながら、イラリアをチラチラと見る。
「師匠、これ以上変なキャラは要らないでしょ?」
エレベーターが止まったようだ。
ドアが開く。
すると目の前に、白衣を着たおじさんがいた。
「ようこそ、おいで下さいました」
「師匠、この人は誰ですか?」
「この方はこの研究所で主席マッド研究員をされているリガウドさんです」
「正式名所にマッドが付いている人、初めて見ました」
「裏でこそこそと他人の遺伝子使って変なことをしている人間がイカレてないわけないじゃないですよね?」
「それを買収した師匠が言いますか?」
「で、お願いしていた代物はどうですか?」
私はリガウドさんに話しかける。
「おそらく、見てもらった方が早いかと」
「では、案内をお願いします」
私たちはリガウドさんの後についていく。
いくつかの扉を通過すると、リガウドさんが立ち止まる。
「こちらが培養室です」
目の前には人間がすっぽりと入りそうな水槽が大量に並んでいる。
「待って? 水槽の中に人が……。ん? ルカさんが水没してますよ! でも、よく見たら全員ルカさんの顔……」
「イラリアも気付きましたか。この水槽の中にいるのは最新の魔法工学で複製された勇者さんです」
「タブーって言葉知ってますか? 法とか、以前に倫理的にアウトですよ!」
「まったく分かってないですね。そんな常識に囚われているから、イラリアは敗北主義者と言われるんですよ」
「言われてないし、これは越えてはならない一線だと思います」
「リガウドさん、どれほど生産できましたか?」
「4万体ほどです。残りの6万体も順次完成する予定です」
「地上のエルフの人たちは知ってるんですか?」
「イラリア? これは機密事項ですよ? 教えるわけないじゃないですか」
「他人の地下を使っておいて、よくそんなこと言えますね。と言うか、師匠はルカさんのことが嫌いなのに、ルカさんをこんなに増やしても大丈夫なんですか?」
「使える遺伝子がこれだったんです。本当はイラリアのクローンで軍隊を造る予定だったのですが……」
「おい!」
「教えてもないのに、権利を訴えたり、健康で文化的生活を保障しろ! と言うデモ活動で研究を阻害したため、15体ほどで生産を中止しました」
「その15体はどこに?」
「4体はプラシドさんが買い取りを希望していたので、値段交渉している所ですかね。残りは地下牢で教育しています」
「プラシドさんには売らないでください。末路が可哀そうです。残りの11体は何をしたんですか?」
「放火、窃盗、器物破損、暴行、守秘義務違反、あとは恫喝? あ、殺人もあった気がします」
「それ、本当に私のクローンですか? 師匠のと間違ってませんか?」
「戦闘力の観点から、私のクローンを作ろうとしたのですが、私の遺伝子は数秒ごとにパターンが変化するため、技術的に難しかったそうです」
「師匠は遺伝子までおかしいんですね」
「まで?」
「教祖様、施設のご紹介をしようと思いますが、如何ですか?」
リガウドさんが思い出したかのように申し出る。
「では、お願いします」
私たちはリガウドさんの後について培養室を出る。




