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第104話 宰相の反撃

1週間後、宰相御一行は帝都にまっすぐ向かって来た。

進路上の領主は恐れをなして、彼らが近寄るだけで降伏している。

私は斥侯が集めた情報をカーショさんから受け取り、吟味している。


「カーショさん、燃やす範囲は決まりましたか?」


「はい。ご命令があれば、いつでも実行可能です」


「では、今すぐお願いします。おそらく敵は情報を時間差で流すようにしているはずです。そろそろ、国境に近づいている頃じゃないですか?」


「師匠、何でそんなこと言えるんですか? そんなの分からなくないですか?」


「私には分かりますよ。宰相の焦りが手に取るように分かります。1週間で攻め上がってくるという事は、相当慌ててますよ。この戦力差があれば、もう少し余裕のある行動をとってもおかしくはありません。例えば、周辺地域までついでに征服するとか」


「そうですかね? ヴァンニ宰相は帝都を早く、危険人物から取り返したいんじゃないですか?」


「危険人物? ここにはプラシドさんはいませんよ?」


「プラシドさんも十分危険ですけど、もっと危険な人間が私の目の前にいると思います」


イラリアは私を凝視しているが、気にしないで話を進める。


「ヴァンニ宰相が帝都を奪還したいという思いで事を急いでいる可能性は全くないとは言いませんが、一番ではないでしょうね。私が思うに、この同盟がいつ分解されてもおかしくない、と言うのが急ぐ理由でしょう」


「同盟が?」


「考えてみてください。さっきまで殺し合いをしていたのに急に仲直りしろ、と言われても難しいですよね?」


「確かに……」


「おそらく、敵がいないと、いつ仲間割れするかが分からないんでしょうね。カーショさん、情報工作の方もお願いしますね」


「かしこまりました」


「何するつもりですか?」


「イラリアはバカなんですか? 間違えました。バカです」


「勝手に決めつけないでください」


「想像してください。イラリアは自分の家の畑を燃やされたらどうしますか?」


「放火魔をしばきます」


「概ね、正解です。畑を燃やされた人々は恨みを持つようになります」


「それ正解なんですか?」


「話の腰を折らないでください。イラリアが見知らぬおじさんと不埒な行為をしていたって噂を市中に流しますよ?」


「それは洒落にならないので、やめてください」


「話を戻しますが、私たちがやりましたと宣言しながら燃やしたら、私たちに恨みが集中します。しかしです。ここで宰相御一行の兵士に扮して畑を燃やした場合はどうなりますか?」


「宰相に恨みが集中する?」


「そうです。ちょうど彼らが近づいているので、それらしい理由が十分です。被害者が恨むのに必要なのは対象です。ここに事実であるかどうかは重要ではありません。それらしい理由があって、恨みの対象がいたら、成立します。そして、今回の場合、被害者は一番最初に宰相を疑う事でしょう」


「悪魔以上に悪魔ですね。教祖から鬼畜にジョブチェンジしたらどうですか?」


「今の一言に傷つきかけました。イラリアに寝起きドッキリをしてしまいそうです」


「やめてください」




皇帝直轄領と宰相の影響圏が接し、宰相軍による帝都侵攻作戦が始まろうとしたときに帝国側で多くの火の手が上がり、宰相が計画していた進軍ルート周辺は焼け野原となった。

同時に食料の現地調達と言う手段が封じられた。

これにより、宰相軍は大幅に計画の修正をしなければならなくなった。


「聞きましたか? 宰相はマッテオ・ソルベリとモリス・ガルリージを諫めるのに忙しく、他の業務が全く出来ていないようです。笑えますね」


「笑う要素が見つけられなくて困っています。でも、そんな調子だったら、しばらくは帝都までは攻め込まれなさそうですね」


「それはどうでしょうね。腐っても宰相です。それにマッテオ・ソルベリとモリス・ガルリージは本人も優秀ですがその家臣も優秀です。新たな策を打ってくるでしょう。というか、既に打たれています」


「何されたんですか?」


「一緒にいると空気が悪くなるので、別行動にしましょうと言う事で二手に分かれました」


「二手に分かれた話は良いとして、その推測合ってますか?」


「おそらく間違ってないと思います。あまりの仲の悪さに共同歩調がとれなかったのでしょう。これにより、私たちは少ない兵を分けないといけなくなりました」


「え? いつもの師匠なら、各個撃破だ! とか言って、突撃しそうじゃないですか?」


「イラリアの中で私のイメージはどうなってるんですか? それに各個撃破の場合はそれが可能な主力部隊が必要です。しかし、今の私の駒は貧弱な上に数が少ない帝国軍と申し訳程度の聖戦士です。勝つ見込みが全くありません。なので、帝都以外はすべて捨てて、帝都のみを守備します」


「それは捨てすぎじゃないですか?」


「イラリアは兵力差を埋める方法を知っていますか?」


「そんな方法があるんですか?」


「一点に持ちうる戦力を集中させるんです。そうすることで多少はマシになります。今回の場合、帝都がその作戦の実行に適しています。ただ、この戦術には大きな欠点があります」


「欠点?」


「帝都の食糧事情がどうなっているか知ってますか?」


「知らないです」


「ほぼ100パーセントの食糧を輸入しています。そして、人口が多いため、食料の備蓄が衝撃的なスピードで無くなります。残念なことに家、工場、商館では食料は生産できませんからね」


「え? これで籠城するんですか?」


「ちなみに、聖戦士は2日後には帝国から撤退します」


「え? 何で今なんですか? もっと別のタイミングありましたよね?」


「聖戦士をここで消耗しては、来る反攻作戦の時に戦力が減ってしまいます。あと、帝都で籠城するにしても、食料不足で聖戦士の力が十分に発揮されない恐れがあるので、先に帰すことにしました」


「本当に帝都を捨てるんですね」


「私は嘘を言ったことはありませんよ」


「嘘をつくなら、もっとまともな嘘をついてください」


「あ、言い忘れてましたけど、私は3日後には脱出します」


「え? 待って、私も連れて行ってもらえるんですよね?」


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