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第102話 嫌な予感

私は市長室でハンコを押し続けるという単純作業に忙殺されている。


「食料事情が改善したことで、私の椅子のクッションもかなり良い感じですね」


「どういう原理ですか? それよりも、早く4都市を落とさなくて良いんですか?」


「はい。今は降伏勧告を行っているので、じきに降伏することでしょう」


「降伏勧告だけで降伏するなら苦労しませんよね?」


「考えてみてください。彼らの首都は1週間プラスアルファで攻略されているんですよ。ここ以下の防御力と兵力の4都市に私たち相手に守り切るなど不可能です。それに、ザランドムの食料事情が回復しているのはなぜかという事を考えてください」


「え? それはガダレッラ主力から強奪した食料を提供しているからですよね?」


「都市人口を賄えるレベルの量を一軍隊が持つわけないですよね? 常識的に考えてください」


「じゃあ、どこから食料が……」


「4都市に食糧を供給する農村や4都市の貯蔵庫を襲撃して強奪しているに決まってるじゃないですか。この地道な戦略により、敵は既に干上がっています。この状況で籠城戦ができるのだとしたら、敵は建築材や家財を食べて飢えをしのげる人の形をした未確認生命体と言う事になります。そんなことは万に一つもないでしょう。つまり敵には降伏と言う選択しかありません。ちなみに、抵抗の素振りを見せたら、速攻を仕掛けて、瞬時に陥落させます。その後に都市の住民は一人残らず地面に還します」


「正気ですか?」


「残念ですが、時には非情さを見せねばなりません。これが早期決着の唯一の手なのです」


「師匠の場合は時にはと言うより、常にですけどね」




3日後にはすべての都市が降伏を宣言した。

勝利だ。

ザランドム市民は敗戦ではあるが、平和が訪れることに安堵しているらしかった。


「師匠は嬉しくないんですか?」


「何でそう思いました?」


「嬉しそうじゃないからです」


「それ、答えとしてどうなんですか? まあ、そんなことは良いとして、イラリアはここが誰の領土か覚えてますか?」


「え? ガダレッラ家ですよね?」


「その通りです。ここはガダレッラの所領です。では、ガダレッラ家の当主やその親類はどこに行ったのでしょう。これだけ荒らしまわったのに一向に顔を見せないというのは、あまりにも不自然です」


「確かにそうですね。あれ? でも、師匠、前に……当主は地方で拠点を作ってるって」


「その通りです。私も辺境の要塞化した山城で立て籠もって反撃のチャンスを探しているのかと思いましたが、既にその拠点は燃やされていて、そこにいたという痕跡ごと消されていました。これが外部の仕業なのか、潜伏のための偽装工作なのか……」


「つまり、行方不明ってことですか?」


「はい。あまり嬉しくない状況です。可能であるならば、息の根を止めておきたかった。しかし、ここにいつまでも、時間を掛けるわけにはいきません。撤収します」


「え? 今ですか? まだ、地方には占領できてない地域もありますよね?」


「ありますが、そんな細かいのは、ここを任される行政官が自分で何とかする物です。小者に構う時間はありません。それに、子供の笑い声が聞こえるので、何か良くないことが起こっている気がして……」


「虫の知らせみたいに言うのやめてもらっていいですか?」


「とりあえず早く帰りましょう」


私たちはすぐに準備を整え、帝都に帰還した。




面倒な皇帝への報告ともっと面倒な貴族会議への報告を将軍に任せ、私は教団の帝都支部の自室に帰った。


「ようやく戻れました。帝都は治安も回復し平和そのものですね。気味の悪いほどに」


「どうしました、師匠? いつも以上に毒が強くないですか?」


扉がノックされる。


「どうぞ」


「失礼します」


カーショさんが入ってきた。


「悪い知らせと良い知らせがございます。どちらから」


「両方ともで」


「師匠、それは無理だと思います」


「かしこまりました」


「え? カーショさん、出来るんですか?」


「勇者殿が消息不明になりました」


「酒を樽単位で持ってきてください。祝い酒です」


「え? 噓ですよね? あのルカさんが……」


「イラリア? 何でショックを受けているんですか?」


「逆に師匠は何で受けてないんですか! いくら何でも酷過ぎます!」


「泣くか、怒るかどっちかにしたらどうですか? あと、私が怒られていることについて納得いかないので、説明してください」


「そして、それは悪い知らせと言えます」


カーショさんが話を再開した。


「何故ですか? こんなにめでたい事なのに?」


「とうとう言い切りやがった、この人で無し」


イラリアが何やら言っているが、カーショさんは気にする様子もなく話を進める。


「西の魔王領に北の魔王が進出を再開しました。それにより、あちらの戦況がよろしくないとか。増援要請がこちらに」


カーショさんは私に紙を渡す。

ルーテリアさんとケメルさんからの増援要請だ。


「粘着クリーナになんちゃって魔王、あいつらマジで使えねぇな。グリッロさんが担当していた獣人族の方はどうですか?」


「あちらは制圧完了とのことです」


「やはり、信頼と実績のグリッロさんですね。では、グリッロさんにはなんちゃって魔王の援護に、クリーナには帝都の聖戦士を半分貸します。失敗したら、優しく接すると脅してください」


「かしこまりました」


「師匠? 大丈夫ですか? ただでさえ、不足気味な兵力を半分にして?」


「マズいですが、本命をとられては元も子もありません」


「そして、ここからが最悪の情報です」


「え? ここから? カーショさん? もう十分ですけど?」


「珍しく師匠が動揺している」


「ヴァンニ宰相が行方をくらませました」


「は?」

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