偶然
(ジームと明日菜の戦いがクライマックスに突入する頃、同時刻)
さて、とりあえず一撃は入れられたけど、飛び蹴りぐらいで倒せる相手なら苦労はないね。大変なのはむしろこっからだ。
「その通りなり。我、武器を所望す」
ついにミューチェも武器を持つのか。どうしよう、さっきと同じ作戦で上手くいくのかな。
いや、まずなによりどんな武器なんだ!
「召喚魔法──マジックソード」
ソード……刀!?そうか、あえて僕と同じ武器にすることで、単純な実力の差で勝負する気なんだ。
「否。この刀は汝が思っているような凡庸なものにあらず。そうこの刀こそ、火を灯し、汝の刀を灰と化し、我を勝利へと誘う」
なに!?確かになんかバチバチ聞こえる。そんなすごい刀だったのか!
「そうその名をマジックソードファイア──ん?バチバチ?うおぉっ!すげぇやべぇなにこれ、全然燃えてねぇ。てかむしろなんかめっちゃ雷帯びて、なにこれ異常現象!?超予想……外………………!!見ろ。これが必殺、サンダーソード!!」
おいっ!!
「ふっ、計画通り」
嘘をつけ嘘を。そんな新世界の神みたいな台詞で誤魔化されないぞ!!
「タートル、創成魔力千五百です」
あの武器、魔力千五百か。僕の武器が残り二千ぐらいだったから、雷の力を加味すれば性能としては同じぐらいかな。
あの武器から出す雷魔法は必ず千五百の威力内になっているから、もう攻撃によるアナウンスは流れない。一回一回で威力はバラバラだろうけど、どっちみち全部避けなきゃいけないことに変わりはない。
あんな、相手自身使い慣れてない武器に負けるわけにはいかない!!
「サンダーソードが遇物なれど、その威力変わることなし!」
──ドドドドッ
うおっ。と思ったけど危ない危ない。あの刀、至近距離に相手がいなくても、纏っている雷を放電できたのか。
避けた先で大きな爆発音。たぶん後ろにあった自動販売機に当たったんだ。ここは駅。その手のものが山ほどあるからね。
それにしても、確かにあの武器なめてちゃいけないみたいだ。
それどころか、あの威力は本当に本当に本当に本当にやばいよ。
「そんなにサファリパーク並みに連呼しなくとも、ライオンじゃあるまいし」
あっ、ほんとだ。歌えちゃう!ってやかましいわ!
「我、ノリツッコミは所望しておらん」
うん、僕も初めてやったよ。
おっと、そんなことよりあいつをどうするかだ。一応さっきと同じ作戦でいこうかな。
でもあの雷、音と気配だけで近距離で避けるのは骨が折れそうだよなー。
「然なり。雷神閃の電光石火な離れ業を避けるすべ汝にあらず」
人が作戦考えてる間に何勝手にかっこいいネーミングつけてんの!?
サンダーソードから雷神閃ってちょっと本気で改名してんじゃん。
「あなかま給え。汝の戯言など、聞くに堪えぬ」
またよくわかんないこと言ってるなー。
でもよし、やっぱりとりあえず同じ作戦でいこう!さっきも上手くいったし、あれだけバチバチ聞こえていれば、攻撃の方向も位置も分かる。大丈夫だ。
うん、これに決めた。
「何をサトシみたいなことを言っている」
言ってないよ!ただこれに決めたって……あっ、言ってるかも。
「俺はこいつと旅に出る、ドゥビドゥバァって言っていただろう」
いや、それは言ってない。絶対。てか連れていくモンスターどんな鳴き声だよ。
「どうでもよい。それより我、そろそろ戦闘を所望す」
どうでもいいって、自分が言ったくせに。
でもそうだね、僕もそろそろ、決着をつけようと思ってた。
あの刀、バチバチいってるし、たぶん太刀を受けるだけで感電するんだろうなぁ。
なんとか放電も落雷も感電も掻い潜ってこっちの一撃を決めなくちゃいけない。しかも相手は心を読める。
……はぁ。無理ゲーだなー。
──テクテクテク
ん?足音?
「少年!諦めたら、そこで試合終了じゃぞ!!」
──テクテクテク
……えっ、誰!?
「このピンチにお助けキャラを呼び寄せるとは……やはり不思議な魅力のある輩なり」
えぇっ!?今のお助けキャラなの!?ただの通りすがりのじいさんでしょ!
というかもうちょっとマシな感じのお助けキャラいないの!?姿見えてないけど!
──テクテクテク
「真実はいつも一つ!なんじゃぞ」
──テクテクテク
……いやいやいや、じじぃ名言が言いたいだけじゃん!
僕はバスケがしたいわけでも名探偵になりたいわけでもないんだよ!!
「お助けキャラなら、なんか技とか教えてよ!」
──テクテクテク
「ならば、みんなの元気を分けてもらうのじゃ」
いやいやいや、そんな日本一有名な技使えないよ。
「腕を伸ばすのもありじゃ」
「ツートップだよ。有名な技のツートップだよ。ありじゃないよ。全然なしだよ」
いくら作者がやけくそになって書いてるこの作品でもさすがになしだよ!
「合言葉はゴムゴムの元気玉じゃ。頑張るのじゃぞ」
──テクテクテク
話聞けよ!!まずちゃんと会話しようよ。言葉のキャッチボール。こっちが野球ボールを投げているのに、勝手にフリスビーを投げ返さないでください。
「何勝手に命名してんだよ。名前くっつけていなくなるなよ!」
…………………
いや、出てこいよ!!
「よかったな。アドバイスをもらえて」
どこがだよ!!終始困ってただけだよ!?ボケキャラの僕が最後までツッコミまくりだよ!
「では、いざ参らん」
うわっ、来るよどうしよう。
でも大丈夫。ミューチェは僕の姿が見えない。どこにいるか分からないはず。
「先の会話で見当はついておる」
ですよねー。
くそっ。やるしかない。
「──シュラ・バルサンダ!!」
刀を下から上に突き上げる気配。そして真上から、雷の音。
来る!上から、落雷か。三発、ほぼ同時。落ちてくる前に、攻める!!
「我の術中に嵌ったな──サンダガーラ!!」
落雷は囮か!本命はこっちの放電型。真っ直ぐ僕に向かって飛んでくる電撃。
ダメだ……当たる……
──バチッバチバチバチッ!!
……あっぶなーい。あれ?でも今僕直撃しなかった?
…….あっ!そういえば聞いたことがある。金属は雷を身体に溜めず流してくれるから、金属を持っていた方が助かることがあるって。
そっか、刀が雷を引き付けてくれて奇跡的に無傷で助かったのかぁ。
「ふっ、だが、この刀は誰のかなー」
違う。メイのじゃない。
「うむ。だろうな」
えーん。意図的にふざけてみても何の解決にもならないよー。
そうだ。攻撃を食らっちゃった衝撃で思わず投げちゃったんだ。
唯一の武器まで奪われて、本当に絶対絶命だよ。
「どうした?またあのお助けキャラのアドバイスでも聞いてみるごんすか?」
嫌だよ。もう会いたくないよ。また語尾が変わってるし。
それにしてもそうだよ。あのキャラが出てきてから調子が狂ったんだ。
真実は一つだの諦めたら終了だの言ってた……けど……
ん?一つ……?
……………………!!
そうだよ!!もしかしたら!!
(ほう。我の弱所に気づいたか?)
いけるかもしれない。なんだ、ちゃんとヒントくれてたんじゃないか!さっすがお助けキャラ!
(合言葉はゴムゴムの元気玉じゃ!)
……いや、やっぱ偶然かな。
でもとりあえず、あいつを倒す目処はたった!!
だけど……弱点に気づいても、あいつに近づけなきゃ意味がない。
さっきは偶然うまく行ったけど、もう刀は持ってないし、あの雷を防ぐ魔法を僕は使えない。
どうすれば……ってあれ?いやでも、そろそらかな?