花火の誘い
「イーチルちゃーん!夏休みの予定決めよ!」
玲奈ちゃんがスマホのスケジュール画面を開いて、私にもスマホを出すように促す。
2人で行きたい場所と、日程を合わせていると玲奈ちゃんがニヤリと笑みを浮かべる。
「住み込みのイケメンとは、どっか行くの?」
「住み込みの時量さんね。…どっかって。どっかには行くんじゃない?買い出しとか。」
私の答えが不服なのか、玲奈ちゃんは顔を顰めたうえに大袈裟にガクッと頭を傾げる。
「買い出しって。業務じゃないんだから、せめて買い物にしてよ。え?あんなイケメンが住み込んでるのに、なんかイベントフラグないの?」
「時量さんは、二次元キャラじゃないよ…。」
「そうだけど、なんかー、楽しいことーないのー?」
「楽しいこと…」
うーんと、楽しいことを考えてみる。
この間、時間屋に行って50年前の記録を調べてから、時量さんは少しボーッと虚空を見つめていることが増えた。
おじいちゃんに聞いたら仕事の時はそんなことは無いみたいなんだけど。
ごはんを食べている時
「至くん!大地に唐揚げ取られてるわよ!こら!大地!あんたもう大学生なのになんでそんな食べるのよ!」
お風呂に入っている時
「一粒、至くんお風呂長くないか?見てきた方がいいんじゃないか?え?あ、そうか、至くん男の子だったな。お父さんが行くか。至くーん!溺れてないかー!」
客室で勉強している時
「時量さん、本、逆さまだよ。」
「あ、本当ですね。」
そう言ってぐるりと本を回転させてまた、視線は虚空を眺めている。
「何を、考えているんですか?」
「…何を、考えているのでしょうか…」
「なぞなぞだされてます?私。」
「いや、そういうわけでは。」
「この間の記録のことですか?」
結局一緒に50年前の前後の記録を丹念に調べたけど、特に変わった記録はなかったのだ。
私たちの時戻しの原因探しは手掛かりを失った。
「手がかりが無くなったからですか?」
「まぁ、それはそうなんですけど、それよりも。なぜか、違和感があるんですよ。」
「違和感。」
「記録には確かに変わったところは無かった。そもそも時間屋ごと巻き戻ったわけですから、記録は最新の物で、先代もまだ記憶にある記録で特に問題も無かったようなのですが。」
「せ、先代。そうですか。」
「何か、掛け違っているというか。」
「なるほど。」
「…」
「…」
私たちは二人とも黙り込んでしまう。
私はあの日の、神様を名乗る男の人の話を、時量さんに話せないでいた。
あの人が、良い神様なのか悪い神様なのかを抜きにしても、話せば結果として時量さんにヒグレさんが本当は居ないとこを知らせることになる。
さらに、私はなぜ彼が時量さんを足止めしてまで私にだけ伝えたのか、その意味がわからない。
だから結局どうにも判断できず、何も言えずにいた。
何か他の話題が無いかと、うーんと頭をひねると
"なんかー、楽しいことーないのー?"
という昼間の玲奈ちゃんの言葉が頭を過ぎる。
そうか、楽しいこと。
私たちには息抜きが必要かもしれない。
「時量さんは、花火見たことある?」
虚空を見つめていた灰色の目に、徐々に感情の色が戻ってくる。
「花火、ですか?ないですね。」
「花火見に行きませんか?週末に隣町で花火大会があるみたいなんですよ。」
「行きたいんですか?」
「私が行きたいのもありますけど、時量さんもちょっと楽しいことして息抜きしましょうよ。」
「…楽しいこと」
「楽しいですよ!たぶん。私も行ったことないけど。」
「そうなんですか?」
「危ないかなと思ってたので、私のトラブル体質的に。火薬とか使うし…、なんかあった時規模が大きくなりそうで。でも最近は大丈夫…かな?って。」
「なるほど。行きましょう。」
私をしっかりと見て即答してくれて、逆にびっくりする。
「大丈夫ですか?言い出しといてなんだけど、何か起きたら危ないし。」
「時戻し以降、これだけの期間何も起きていないんですから、今は大丈夫ですよ。例え何が起きても私が一緒なら事情もわかっていますし。」
そっか、行けるのか、花火。
じわじわと胸の底が温かくなってくるような感じがして、思わずギュッと目を瞑る。
「楽しみですね!」
「そうですね。」




