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大金星(ジャックポット)で異世界無双? 〜クズ賭博師、チート能力「確率操作」を全て美少女へのセクハラとイカサマに注ぎ込む〜  作者: まつたけひめ


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第70話 街道の刺客

 ラグーサを発ってから十日が過ぎていた。荒野を抜け、緑豊かな丘陵地帯へと差し掛かった一行は、順調に大陸中央への道を進んでいた。道中で見かける景色も、日を追うごとに変化を見せ、旅の進捗を実感させてくれる。


「もうすぐ、山岳地帯の入り口だな」


 地図を確認しながら、シルヴィアが呟いた。彼女の指先が示す先には、遠くに霞む山々の稜線が見えている。


「ここから先は、道もさらに険しくなります。慎重に進みましょう」


 リーゼロッテの言葉に、一同は頷いた。だが、その油断のない空気の中、ミミがふと耳をぴくりと動かした。


「……なんか、変な匂いがするのです」


 その声色には、これまでにない緊張感が滲んでいた。



    



「敵か」


 アキトが低く問いかけると、ミミは険しい表情で頷いた。鼻をひくつかせながら、周囲の気配を慎重に探っている。


「複数……たぶん、五、六人くらいなのです。木々の向こう側に隠れてるのです」


「読まれてたか、やっぱりな」


 ガイウスが腰の剣に手をかけながら、静かに呟いた。ロドリゴの警告通り、焔の輪はすでに動き出していたのだ。周囲の木々を見渡しながら、彼は敵の気配を探るように目を細めた。


「全員、戦闘準備だ」


 アキトの号令に、五人は瞬時に陣形を整えた。荷馬車を背に、それぞれが武器を構える。緊張感が張り詰める中、誰一人として動揺の色は見せなかった。



    



「思ったより早いお出迎えだな」


 木々の陰から姿を現したのは、黒装束に身を包んだ六人の男たちだった。統率の取れた動きから、これまで戦ってきた烏合の衆とは明らかに質が違うことが窺える。足運びも構えも、一分の隙もない洗練されたものだった。


「大陸博打大会の優勝者殿、道中失礼する」


 先頭に立つ男が、抑揚のない声でそう告げた。感情の読めない、まるで機械のような口調だった。


「わざわざ道案内でもしてくれるのか?」


「いいや。ここで、静かに消えてもらうだけだ」


 男の言葉と同時に、黒装束の男たちが一斉に武器を抜いた。統制の取れた動きは、明らかに専門の訓練を受けた者たちのものだった。



    



「来るぞ!」


 シルヴィアの警告とともに、最初の一撃が振り下ろされる。彼女はそれを難なく受け流し、鋭い反撃を繰り出した。剣がぶつかり合う甲高い音が、静かな山道に響き渡る。


「ガイウス、右だ!」


「わかってる!」


 ガイウスが拳で敵の攻撃を弾き返しながら、力強く前に出る。十二年の戦場経験が、この乱戦でも遺憾なく発揮されていた。相手の刃をものともせず、その巨躯で敵を圧倒していく。


 アキトは荷馬車の陰からコインを弾き、敵の一人の目を眩ませる。怯んだ隙をついて、リーゼロッテが鋭くナイフを投げつけた。


「リーゼロッテ、無理すんな!」


「これくらい、慣れています!」


 リーゼロッテの声には、これまでの旅で培われた確かな自信があった。かつては帳簿とにらめっこしていた彼女が、今では立派な戦力の一人として戦場に立っている。



    



 乱戦は続いたが、徐々に形勢はアキトたちに傾いていった。統率の取れた敵とはいえ、数の上では圧倒的に不利な状況を、五人の連携が覆していく。ミミも敵の死角から俊敏に動き回り、隙を作り出す役割を確実にこなしていた。刃と刃がぶつかる音、荒い息遣い、そして時折上がる呻き声が、静かな山道に響き渡っていた。


「くっ……。退くぞ!」


 リーダー格の男が舌打ちしながら叫ぶと、残った刺客たちは一斉に森の奥へと姿を消した。統率の取れた撤退の動きすら、彼らの練度の高さを物語っていた。


「逃がすかよ!」


 アキトが追おうとするが、ガイウスがそれを制した。


「深追いは危険だ。奴らの本拠地に、まんまと誘い込まれるかもしれん」


「……そうだな。悪い、頭に血が上ってた」


 アキトは息を整えながら、周囲を見渡した。幸い、五人とも大きな怪我はなかった。



    



「一人、捕らえておきました」


 リーゼロッテの声に振り返ると、彼女は気を失った刺客の一人を縛り上げていた。逃げ遅れた男を、逃走の混乱の隙に確保していたのだ。手際の良さに、アキトは改めて感心せずにはいられなかった。


「さすがだな」


「情報は貴重ですから」


 リーゼロッテが淡々と答える。だが、その口元にはわずかな達成感が滲んでいた。目覚めた刺客から、アキトたちは焔の輪の末端組織の存在や、灰色の都に関するわずかな手がかりを聞き出すことに成功した。


「お前、何を知ってる。焔の輪の頭目について、何でもいい、話せ」


 アキトが問い詰めると、男は青ざめた顔で首を振った。厳しい尋問の空気に、ダレンの体が小さく震えていた。


「本当に、何も……! 俺たちは、命令を受けて動くだけの下っ端だ。頭目の顔すら見たことがねえ」


「灰色の都は、本当に実在するんだな」


「ああ。……だが、そこに何があるかまでは、俺も知らされてねえ。末端の駒には、詳細は明かされねえんだ」


 男は観念したように、そう吐露した。恐怖に震えながらも、これ以上隠し通せないと悟ったような表情だった。


「じゃあ、命令はどこから来る」


「伝令役の男が、時々接触してくるだけだ。……その男も、また別の誰かから指示を受けてる様子だった」


 男の証言に、リーゼロッテが素早く帳面に書き留めていく。


「幾重にも組織が分かれているようですね。末端が捕らえられても、上層部の正体には辿り着けない仕組みです」


「用心深い連中だな、まったく」


 アキトが苦々しげに呟いた。組織の巧妙さに、改めて事態の根深さを実感させられる。


「そういや、伝令役って言ったよな。そいつの外見とか、何か特徴はねえか」


 アキトが尋ねると、ダレンは記憶を辿るように目を細めた。


「……いつも、灰色のローブを着てた。顔は見えなかったが、声はやけに若かった気がする」


「灰色のローブ、か。……何か関係あるのかもな」


 アキトが顎に手を当てて考え込む。断片的な情報ではあるが、確実に核心へと近づいている手応えがあった。


 リーゼロッテがその情報を素早く書き留めた。些細な手がかりでも、積み重なれば真実への道筋が見えてくる。これまでの旅で、幾度となく実感してきたことだった。


「他に何か、思い出せることは」


 アキトが重ねて尋ねると、ダレンは記憶を絞り出すように、こめかみを押さえながら考え込んだ。


「……そういえば、一度だけ、伝令役の男が誰かと話してるのを聞いたことがある。『計画通りに進めば、灰色の都も、もうじき完成する』と言っていた」


 ダレンが記憶を絞り出すように、途切れ途切れにそう語った。恐怖と疲労で、その声はかすかに震えている。


「完成、だと?」


 アキトが訝しげに眉をひそめた。灰色の都が「完成する」という言葉の意味が、にわかには理解できなかった。何か、新たな企みが進行しているのかもしれない。


「この男、どうします」


 シルヴィアが縛られた刺客を見下ろしながら尋ねた。


「近くの街で、役人に引き渡すのが妥当だろう。殺す趣味はねえし、逃がすわけにもいかねえ」


 アキトの判断に、一同は頷いた。命のやり取りをしながらも、決して非道には走らない――それもまた、この博徒が積み重ねてきた矜持の一つだった。


「た、頼む……! 俺を逃がしてくれたら、もっと詳しい話をする……!」


 男が必死に訴えかけてくる。捕縛された身でありながらも、なりふり構わず交渉を試みるその様子には、切羽詰まった必死さがあった。だが、その怯えた様子には、どこか演技じみたものも感じられた。


「悪いが、その手には乗らねえよ。役人に突き出した方が、お前にとっても安全だろうしな」


 アキトが淡々とそう告げると、男はがっくりと肩を落とした。


「お前、名前は」


 アキトが尋ねると、男はしばし躊躇った後、小さな声で答えた。


「……ダレンだ」


「ダレン、か。お前も、好きで焔の輪に加わったわけじゃねえんだろ」


 アキトの問いかけに、ダレンは俯いたまま黙り込んだ。だが、その沈黙こそが、何よりの答えだった。


「借金のカタに、無理やり働かされてるって奴も多いって聞いたことがある。お前もそうなのか」


 アキトが静かに問いかけると、ダレンは長い沈黙の後、ようやく口を開いた。


「……ああ。もう三年も、抜け出せずにいる」


 ダレンがぽつりと吐露した言葉に、一同の間に複雑な空気が流れた。単純な悪と正義の構図では割り切れない、組織の闇の深さを、改めて突きつけられた思いだった。


「もし、お前が本当に無理やり働かされてるってなら、役人に事情を話しゃあ、多少は考慮してもらえるかもしれねえ。……まあ、それも役人次第だがな」


 アキトが淡々とした口調ながらも、確かな気遣いを込めてそう告げた。


 アキトの言葉に、ダレンは驚いたように顔を上げた。


「なんで、そこまで……」


 ダレンが困惑したように呟いた。敵として対峙していたはずの相手からの意外な気遣いに、戸惑いを隠せない様子だった。


「別に、お前に同情してるわけじゃねえよ。ただ、罪のない奴を無理やり悪事に加担させるようなやり方が、心底気に食わねえだけだ」


 アキトの言葉には、これまでの数々の戦いを通じて培われた、確かな信念が滲んでいた。弱者を踏みにじる者を、彼は何よりも許せない。バルザスや黄金杯商会との戦いで培われた、譲れない一線がそこにはあった。


「……ありがとよ」


 ダレンが小さく呟いた声には、これまでの敵意とは違う、かすかな安堵の色が滲んでいた。捕らわれの身でありながらも、初めて誰かに人間として扱われたような、そんな安堵だった。



    



 その後、一行は近くの宿場町に立ち寄り、捕らえた刺客を役人に引き渡した。事情を説明すると、役人たちも驚いた様子で対応にあたってくれた。


「まさか、こんな山間の街道で、組織立った襲撃が起きるとはな」


 役人の一人がそう呟くのを聞きながら、アキトは複雑な思いを抱いていた。焔の輪の影響力は、確実に大陸全土へと広がっている。この程度の被害では済まない未来が、すぐそこまで迫っているのかもしれない。


「役人殿、この男の扱いは頼みましたよ」


 シルヴィアが刺客を引き渡しながらそう告げると、役人は真剣な面持ちで頷いた。その丁寧な物腰には、元聖騎士団長としての品格が滲んでいた。


「承知した。……こちらでも、厳重に取り調べを行おう。貴殿らの情報、大変助かった」


「こちらこそ、世話になります」


 アキトが一礼すると、役人たちは刺客を連れて足早に去っていった。


「さて、これで一段落だな」


 アキトが伸びをしながら呟くと、リーゼロッテが小さく頷いた。


「ええ。ですが、油断は禁物です。今回のような襲撃が、これから先も続く可能性があります」


「わかってるよ。……にしても、まさかこんな山道で待ち伏せされるとはな」


 アキトが苦笑しながら肩をすくめた。予想はしていたものの、実際に襲われるとなると、やはり緊張感は格別だった。木々のざわめきさえ、しばらくは警戒の対象になりそうだった。


「頼りになるな、相変わらず」


 アキトがしみじみと呟くと、リーゼロッテは小さく肩をすくめた。


「これくらい、当然のことです」


 二人のやり取りに、シルヴィアとガイウスも小さく笑みを浮かべた。緊迫した戦闘の後だからこそ、こうした何気ない日常のやり取りが、何よりも心を落ち着かせてくれる。


「それにしても、あの刺客たち、一体どこから情報を得て俺たちを狙ってきたんだろうな」


 アキトがふと疑問を口にすると、リーゼロッテが思案顔になった。


「おそらく、ラグーサでの一件が、何らかの形で伝わったのでしょう。焔の輪の情報網は、私たちが思っている以上に広範囲に及んでいるのかもしれません」


「厄介な話だな、まったく」


 アキトが顔をしかめると、ガイウスが低い声で言った。


「だからこそ、油断せずに進むしかない。奴らがどれだけ広範囲に目を光らせていようと、俺たちの覚悟が揺らぐことはねえ」


 ガイウスの力強い言葉に、一同は改めて気を引き締めた。



    



 その夜、野営地に静かな緊張感が漂っていた。焚き火の炎が、五人の顔をゆらゆらと照らしている。


「奴らが本気で妨害してくるとなると、これから先の道のりは一層厳しくなるでしょう」


 リーゼロッテの言葉に、アキトは頷いた。焚き火の炎が、彼女の横顔を静かに照らしている。


「わかってる。だが、退く理由にはならねえ。……むしろ、こういう妨害があるってことは、俺たちが核心に近づいてる証拠だ」


 アキトの不敵な笑みに、ガイウスも小さく頷いた。


「その通りだ。この程度の刺客で怯むようなら、最初から博打なんぞ打っちゃいねえだろ」


「ミミも、絶対に負けないのです!」


 ミミの元気な声に、一同の間に温かい空気が流れた。緊迫した戦闘の後だからこそ、彼女の明るさが何よりの救いになっていた。


「今日の戦い、ミミもちゃんと役に立てたのです?」


 ミミが少し不安そうに尋ねると、アキトは優しく頭を撫でた。


「当たり前だろ。お前の鼻がなかったら、不意打ちを食らってたかもしれねえんだからな」


「えへへ、そうなのです!」


 ミミが嬉しそうに尻尾を振ると、シルヴィアも柔らかく微笑んだ。


「アキト、少しいいですか」


 リーゼロッテが静かに近づいてきた。


「どうした」


「……今日の戦いで、少し思うところがありました。もし、これから先もこうした襲撃が続くなら、私たちだけで対処し続けるのは、いずれ限界が来るかもしれません」


「増援でも呼ぶか?」


 アキトが冗談めかして尋ねると、リーゼロッテは真剣な表情のまま首を振った。


「一つの案として、大陸中央に近い街々で、信頼できる協力者を探しておくべきかもしれません。ロドリゴやイザベラのような存在が、道中にも必要になるでしょう」


 リーゼロッテの提案に、アキトは頷いた。


「悪くねえ案だな。……お前がいると、本当に助かるよ」


 アキトが素直な気持ちを口にした。


「今更ですか」


 いつものやり取りに、二人の間に穏やかな空気が流れた。焚き火の炎がぱちりと爆ぜ、静かな夜の時間を優しく彩っていた。夜空に瞬く星々を見上げながら、五人は改めて決意を新たにする。大陸中央への道は、まだ半ばにも満たない。だが、確かな手がかりと、揺るぎない絆を胸に、博徒たちの旅は続いていく。

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