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和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?  作者: 鬼怒藍落


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第26話:百鬼空亡

「……だい、じょうぶ?」

 

 相変わらず静かな湖に落とされて邂逅一番そんな風に心配されながらも顔を覗かれた。鼻を燻る線香のような香り、炎の中に護摩を焚いたような匂いを感じつつも、俺は直前のことを思い出す。


「なんで、俺はこの世界に?」


 だけど、どうしようか?

 思い出そうにも記憶に靄がかかったような、それどころか思い出すのを拒否しているのか頭痛がする。俺は、何をしていた? それこそ臨死一歩手前。

 なんか体が妙に軽いし、そういえばここに来る前に河原に石が詰まれた景色が見えたような……。


「大変だったよ、持ってかれちゃうところだった」

「なに、が?」

「貴方は気にしないで、なんとかしたから」

「…………?」


 いまいち空が何を言ってるか掴めないが、助けてくれたのだろうか?

 それなら感謝しなきゃいけない気がするが……少しぼーっとしてしまうし、ちょっと話すのが難しい。

 ただ、いつまでも彼女の膝の上にいるわけにはいかないので声をかけながらなんとか立ち上がる。

 彼女から離れれば名残惜しそうな顔をされてしまい、悪いかな? とも思ったけど、そんな事より気になることが一つ。


「なぁ、空……大丈夫か?」

「私は、だいじょうぶ、だよ?」

「……ほんとか?」


 いつも通りで表情の変化が乏しい彼女。

 相変わらず何を考えているかとか分かり難いが、どういうわけかちょっとだけ違うように見える。少ししょんぼり? いや、何か悩んでいるというか元気がない。


「話しにくいなら、悪いんだが……なにかあっただろ?」

「貴方は、やっぱりすごい……ね。私のこと気付けるんだ」 


 嬉しさ半分、悲しさ少々。

 なんかずっと彼女が魂の中にいるおかげか、空の感情が共鳴しているというかそういうのが伝わってくる。様子を見るに空は気づいてないっぽいけど、これも変化というやつなのだろうか?


「まだお試し期間? ってやつだろうけど、助けてくれるお前がそんな顔をするのはなんか嫌だからさ、話してくれないか?」

「話す気はあった、でも心の準備欲しかったな」

「重いのか?」

「……よく、分からないけど。私がしゃべれるのはあったことだけ」


 そういえば、彼女の情緒はまだそこまで育ってない。

 だから今の質問は無粋であったし、いらない言葉だっただろう。

 思えば、俺は彼女のことを裏ボス候補で最恐のキャラという事しか知らない。その背景と正体は原作時点で判明しているが、それで知った気になっちゃいけないから。


「この場所はね、私が生まれた場所なの」

「高千穂がか?」

「場所の名前は、分からないけど……岩の後ろで私は生まれたんだ」


 そこで思い出すのは、百鬼空亡という少女の始まり。

 とある神から派生して生まれた存在の事だ。

 きっとこれから俺が聞くのは、読者でありこの世界の観測者であった頃では知ることのできない、禍津神の一端。なにより、黒陽と呼ばれ百鬼夜行の神として妖怪に崇められた天照大御神の別側面の物語。


「はじまりは、岩の後ろ。気づけば、私はそこにいた。暗くて寒いそこで生まれた小さな黒い火の玉が私」


 俺が知っている彼女の生まれたきっかけは、天岩戸隠れという神話の出来事。

 日本が祀る現在主神である天照大御神、そんな女神がこの高千穂の地で引きこもったのが発端。彼女が引きこもった長い時の間、溜まった穢れとアマテラス自身の負の感情、それが悪魔合体して生まれたのが空だ。


「何もわからないままで、外に出たら恨まれた。いるだけで穢れを引き寄せ全てを犯すと、世界を殺すと呪われた――ただ私は生きたかったんだ、外に出て初めて見た蒼い空が綺麗で、手を伸ばしたことを覚えてる」


 太陽の女神がいなくなり、極夜に閉ざされた日本。

 その時代に生まれた呪いや、恨みに怨念。作物が育たなかったことで生まれた餓死者や戦争。そして奪い合いで亡くなった死者の魂が寄せ集まって、元となった女神の負の側面から生まれた彼女は――決して世界から愛されることがなかった。

 漫画で表現されていたのは、そんなこと。

 肩書はすべての魔や妖怪に愛された、穢れの女神。

 それこそ存在するだけで、世界を地獄に変える特異点。その本性は無垢であり、純白透明の廃棄孔。そんな謂れの存在で、何も知らぬまま妖に祀られた女神なのだ。


「気づいた時には遅かったんだ、私が寝る前だけど……その時は、みんなが死んでたの。私が大きくなって、私の前には妖怪の群れが出来ていた」


 この世界、あやかしがたりの世界でも描かれている百鬼夜行図。

 あれが生まれたのは元の世界では不明だが、この世界では明確に平安時代に描かれたとされている。それから合わせるなら、この話は平安時代頃の出来事だろう。


「私を崇める妖怪たち、でも私の元は太陽だから死にながらね、みんなは歩くの」


 太陽とは本来だが、陽の気と属性の塊。妖怪を魔をあらゆる不浄を浄化するモノ。だからこそ、空の力が増せば信者である妖怪ですら殺すのだろう。

 妖怪たちは、自分たちの世界を実現するために欲に従い生きたとされる。

 犯して奪って殺して喰らう。そして人間と対立し、何よりも戦いの中で殺しながら死んで、少しでも残れば黒陽に自らを焼べて世界を穢れで満たす。


「私は死ねないから、ずっと空の上でみんなを見るんだ。見守って、焼いて、その魂が枯れるまで、使ってもっと大きくなる」


 この世界のラスボス。

 そいつの目的も、彼女を使ったものだった。

 彼女にすべてを捧げて焼べる。そしてすべてを飲み込んで、百鬼空亡が心から笑える世界を作るというモノだった。

 この世界のラスボスは……というか記憶に嫌すぎるが焼き付いて離れない、激キショストーカーは、百鬼空亡という存在に一目惚れした後ではっちゃけて、世界を滅ぼすために五行を敵に回したそんな男なのだ。


「私を救うって言った人がいたけどね、その人も死んじゃったの」


 あ、会ってるんだ。とは思ったが、そこは口に出せないようにして……続く彼女の言葉を待つ。


「それが私、貴方の中にいる化け物の話だよ」

「……とりあえずさ、ちょっとごめんな」


 色々聞いた、改めて整理して彼女のことを知ることができた。

 なんかついでにラスボスの目的と性格も思い出したけど、そんなことはどうでいい。彼女に俺は一言謝って、死ぬほど力を緩めて――でこぴんをした。


「……いひゃい」

「おう嚙み締めろ空」

「なんで?」

「そりゃあ、今の聞いた感想」

「やっぱり嫌だった?」

「それは全然、だって空のこと知れたし。ただな、今のお前の顔が嫌だったからだ」


 あーほんと、この世界は優しくねぇ。

 確かにさ、格は十分だ。設定の説得力にそれほどまでに濃い背景。それにラスボスを立たせるような過去。でもさ、こうして今までの事を語る彼女の表情を見て、俺は心底ムカついた。


「いいか空、俺はお前の過去は知ったけどよ。俺の知ってるお前はただの女の子だぞ? 一緒にいて笑ってくれて、俺を守ってくれた友達? ……でいいんだよな? まぁとにかくだ、過去は過去、今は今だから気にすんな」

「……いっぱい色々言ったけど、私は危険なんだよ?」

「知らん知らん、というかそんなことわかってるわ。初めて見たときどんだけびっくりしたと思ってんだよ。あれか? お試し期間中なのに空から離れるのか?」

「離れたく、ない……よ。でもこの場所に来て色々思い出して、貴方の傍には奏のほうがいいかなっ……て。貴方でも死ぬかもしれないって」


 今思い出したけど、俺……あの料理食べて死にかけたのか。

 もしかしてそれで不安になったのか? どんだけやべぇんだよあの料理。そういえば食べた瞬間にすごい陽の気が溢れた気がするが、それで死にかけた?


「まぁ、なんだ。少なくとも俺ら友達なんだろ、なら迷惑かけてくれよ。今さら離れれたら寂しいわ」


 きっかけになった茜さんには文句を言うとはいえ、まぁ来た時にしょげてた彼女の本音とかを知れたから一応の感謝を。だけど後で料理指導を何とかしてもらうとはいえ……まぁ今は空だ。


「ねぇ教えて、なんで貴方は欲しい言葉を全部くれるの? どうして怖がらないの? ……私は、空亡なんだよ?」

「だってお前は空だろ? 俺の中に宿った嫉妬深いしめっちゃ重いけど優しい女神」


 だから俺は、笑って言った。

 とてもくだらないかもしれないし、伝わるかもわからない。 

 だけど、周りくどいことは苦手で……ぶっちゃけることしかできないから。


「正直さ、多分これから生きるの大変だしきっと君を俺は頼ると思う。だけど、それだけじゃ嫌だから、一歩目としてこう言うぞ。なぁ空、俺と友達になろうぜ?」


 今度は俺から、彼女に言葉を送った。

 あの時は一方的に、それこそ契約代わりになったけど。

 俺の意思で、ちゃんと言葉でそう伝えるんだ。


「……えへ、へ。そうなんだ――じゃあ、よろしくね?」

「おう!」


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