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さくさくと、行きと同じ様にコハヤが歩く音が耳に届く。風もまた、同じように木々を揺らしていた。
まさか、
「受けて貰えると、思わなかったな・・・」
声に出してみても、実感が湧かない。
それどころか、彼女に――紅に会ったという事すら、幻の様で。
現実味が無い人だと思った。何もかもが浮いていて、所謂――浮世離れ、というやつだろうか。
うん。きっとそう。
来て欲しいと言ったけれど、目的が――目的地があるという訳ではない。
なんとなく、跡形も無く消えてしまいそうで。
怖かったから。
結局、何処までいってもコハヤは自分本位で。恐怖が嫌だから。そんな理由で、紅を連れ出そうとしている。
何処か、目的地が必要だと思う。
彼女を、この森から連れ出すのだから。目的も無しに各国を連れ回す訳にもいかない。
目的、か。
目的――何がいいんだろう。少し前までなら、迷いなく魔王討伐を選んでいただろうけど。でも、今は・・・
「あー、駄目だな」
紅がいい返事をくれたというのに。直ぐに意味無く余計な事を考えてしまう。
魔王討伐、なんて。勇者の名を、立場を失ったコハヤが考える事ではない。それは—―
それは、ホンモノの勇者に任せればいいんだ。御役目を果たさないのは、なんだか悪い事の様な気がして。後ろめたかったけれど、それでも。
今は、勇者じゃないから。御役目は、勇者に与えられるものだから。
もう、勇者じゃないんだ。
何の立場も無い、唯のコハヤ・シアマネなんだ。
そう、自覚して――身体が軽くなった気がした。少し、色褪せていた世界も。今はとても、綺麗に見えた。
さわさわと、風が木々を揺らす。
なんとなく、急かされている気がした。
「今行きます」
小さく笑みが零れて、駆け出した。




