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森とは違う、岩場の無い道。
両手で鞄を持ち、転ばぬよう注意しながら歩く。
隣のコハヤは慣れたように歩いている。彼一人きりならば、もっと速いのだろうけど。
紅が居るからか。此方に合わせて歩いているのは明白。
先程から弧乃咲は、楽しそうに周囲を見ている。
「紅さん」
視線を上げる。
コハヤは、片手を差し出していた。
なんだろう。
意図が解らず、首を傾げる。
「鞄、持ちますよ」
コハヤは微笑んだ。
「何故でしょうか」
この鞄は、紅の荷物だ。コハヤが持つ必要は、無い筈。
「僕は特に荷物有りませんし。手が空いているのに紅さんに持たせるのは、ちょっと・・・」
困ったように眉を下げた。
コハヤは背に剣を、腰元にポーチを付けているだけ。それ以外の荷物は見当たらない。
「紅、甘えちゃいなよ~。勝手に中見る勇気無いだろうし」
そういうもの、なのだろうか。
コハヤと弧乃咲が言うのなら、そうした方が良い・・・と思う。
鞄を差し出すと、コハヤはひょいと持ち上げた。
「ふふ、お預かりします」
片手で鞄を持ち、笑みを浮かべた。
「有難うございます」
それでいいのだろうか。正解が分からない。
揃って歩き出した。
「紅さんさ」
「はい」
「歩き難くない?」
紅が着物だからだろう。
「特には」
慣れていますからと紅は言う。
「森を歩き回ってたからねえ。ここら辺はでこぼこしてないし~」
弧乃咲が紅の前を浮く。
コハヤには、聞こえないと思うのだが。
確かに此処は平坦な道であるし、森の方が歩き難く感じた。
「そっか」
「はい」
「ねえ」
「何でしょう」
コハヤは、沈黙が苦手なのだろうか。
「手を、繋いでもいいですか・・・?」
躊躇いつつ、紅の顔を窺う。コハヤの表情は、緊張しているように受け取れた。
「理由を」
――お伺いしても。
「ん-、・・・僕が」
――不安だから、かな。
「まさかの紅を子供扱い!?勇気あんね~」
けらけらと弧乃咲が笑う。
少し考えた後、紅はコハヤとの距離を詰めた。
開いている方の手に、そっと指を絡める。
「えっ・・・?」
コハヤの足が止まり、釣られて紅も足を止めた。
どうしたのだろう。
「何か」
視線を上げると、目を見開いているコハヤと目が合った。
「いいんですか」
「だから」
――こうしました。
了承したから手を取ったというのに。他に意味があるのだろうか。
「紅さん」
黄緑の瞳が、紅を射抜く。
「有難う」
へにゃりと眉を下げてコハヤが笑う。
「いえ」
足下に視線を落とす。
「っはー、若いねえ・・・」
けっ、と石を蹴る様な素振を見せた。
石なんて無いから、空気を蹴っていたけれど。
ふよふよと、紅の周囲を飛びながら言う。コハヤが苦手なのではなかったのか。
否、紅が居るからか。
弧乃咲と共に森を出る。それに当たり、強く結び直した縁。
今までよりも強く感じる、弧乃咲との繋がり。
森を出るなんて、紅にしては冒険である。だからこそ。
今までどうでもよかった世界を見れるのが、今は――楽しみだった。実感はあまりないけれど、きっと。これが期待。
片手を胸に当てて、目を細めた。
振り返ると、離れた所に森が見えた。
足を止め、一礼する。
「紅さん?」
足を止めた紅に、不思議そうなコハヤの声が届く。
「いえ」
小さくかぶりを振る。
何でもありませんと告げて、楽しそうな弧乃咲を横目にコハヤに駆け寄った。
――形の無い縁が、そこにある。




