不良債権(エラー)の面接と、ダメージのリボ払い
「……一人目の候補者ですが、現在ギルド地下の『隔離病棟(最下層)』に幽閉されています」
【朝倉商事】のオフィスで、社長秘書のしずくが人事ファイルを読み上げる。
「名前は灰原 愁。レベルはわずか12。元々はD級パーティーの盾役でしたが、彼の持つ固有スキル【ダメージの繰り延べ(リボ払い)】が原因で、ギルドから『歩く爆弾(不良債権)』として認定されました」
「リボ払い……? 一体どういうスキルなのよ」
副社長を自称するミレイが怪訝な顔をする。俺も興味を惹かれ、しずくに先を促した。
「いかなる致命傷や高火力の攻撃であっても、そのダメージの着弾を『後日(未来)』へと繰り延べることができる……つまり、一時的に完全な無敵状態になれるスキルです。しかし――」
しずくは表情を曇らせた。
「繰り延べたダメージには『莫大な利息(複利)』
が付きます。そして月に一度の『支払日』が来ると、利息で膨れ上がったダメージが使用者の肉体を一気に襲う仕組みです。彼は数ヶ月前、パーティーを庇ってA級ボスのブレスを『リボ払い』で吸収してしまい……その負債が、もはや個人のHPでは絶対に耐えきれない致死量に達しています」
「なるほど。支払日が来れば本人はミンチになり、周囲にも甚大な爆発被害が出る。だから地下に隔離(塩漬け)されているわけか」
俺はジャケットを羽織り、立ち上がった。
「行こう。そいつの『面接』だ」
◇ ◇ ◇
ギルド地下最下層、特殊隔離房。
分厚い防爆ガラスの向こうで、ボロボロの衣服を着た小柄な青年――灰原が、頭を抱えて震えていた。
「あ、ああっ……もうダメだ……! あと数分で、今月の『支払日』が来る……っ!」
彼の全身から、赤黒い光(蓄積されたダメージの塊)が漏れ出している。
その熱量に、強化ガラスすらヒビが入り始めていた。A級ボスの攻撃を数ヶ月放置した結果、その威力はS級の直撃魔法すら凌駕する大爆発を引き起こそうとしていた。
『――おい、灰原。お前、うちの会社に入らないか?』
俺がマイク越しに声をかけると、灰原は涙目で顔を上げた。
「く、来るな!! 逃げてください! 僕はもうすぐ……一万オーバーのHPダメージが弾けて、死ぬんです!! こんな借金まみれの不良債権、誰も助けられない!!」
「ほう。一万ダメージか」
俺は隔離房の重い電子ロックを、素手で強引に引き剥がした(破壊した)。
「ちょっと朝倉!? なに勝手に入って――」
ミレイの悲鳴を背に受けながら、俺は赤黒い光を吹き出しながら蹲る灰原の前に立ち、その肩にポンと手を置いた。
「ひっ!? ダ、ダメだ! 巻き込まれ――!!」
『ピロリンッ!』
『――【ダメージのリボ払い】の債務不履行を確認。対象者に累積ダメージ 【14,500】を執行します』
灰原の体から、凝縮された超高火力のエネルギーが爆発的に解放された。
隔離房の壁が消し飛び、ミレイとしずくが凄まじい爆風に吹き飛ばされそうになる。
だが。
「……ん? 終わったか?」
俺は、片手で灰原の肩を掴んだまま、欠伸を噛み殺していた。
一万を超えるダメージの奔流を真正面から浴びたというのに、俺の『漆黒のオーダースーツ』には、焦げ跡一つ、シワ一つ付いていない。
「え……?」
灰原が、呆然と俺を見上げた。
俺のスーツは、レベル15万の神の魔石で仕立てた『概念武装』だ。既存のシステムに属するダメージなど、そもそも計算式(経理)にすら計上されない。
「お前の負債、親会社としてうちが肩代わり(吸収)してやったぞ。これで借金はゼロだ」
「ば、馬鹿な……A級ボスの火力の、さらに数十倍の利息が乗ったダメージですよ!? なんで、無傷で……」
「ただの経費処理だ」
俺はへたり込む灰原を見下ろし、口角を上げた。
「お前のスキル、本質は『ダメージの蓄積と遅延』だろう? だったら、俺が【連帯保証人】になってやる。お前はこれからどんな敵の攻撃も『リボ払い』で吸収し続けろ。そして支払日が来たら、その膨れ上がった借金を――敵のモンスターに『債権譲渡(押し付け)』してやればいい」
「……っ!!」
灰原の目が見開かれた。
自分がダメージを負うという前提に縛られていたが、もし「限界までダメージを貯金」し、それを他者に「一括請求」できるとしたら?
そして、万が一自分が処理しきれなくても、後ろにいるこの『絶対無傷の社長』に負債を押し付ければいいのだとしたら。
「……僕が、どんな攻撃も無効化して、最後に超火力を撃ち込める、最強の盾に……?」
「そうだ。システムの仕様の穴を突いた、完全な不正会計の完成だ。S級すら凌駕するぞ」
俺は灰原に向けて、手を差し出した。
「どうだ? うちの第一営業部で、盾役(クレーム処理班)として働かないか」
「……はいっ!! 働かせてください、社長!!」
灰原が涙を流しながら、俺の手を力強く握り返した。
既存のシステムから見捨てられた『歩く爆弾』は、最強の後ろ盾を得たことで、S級すらも遥かに凌駕する【概念反絶の盾(無限リボ払い)】へと生まれ変わったのだ。
「フフッ。これで一人目の採用ですね、社長」
背後で、秘書のしずくがパタンと人事ファイルを閉じた。
【朝倉商事】の記念すべき第一社員の獲得。
だが、ギルドが隠し持つ不良債権は、彼一人ではない。俺たちは間髪入れず、次の「面接」へと向かうのだった。




