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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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空間圧縮の魔導書

「……ああぁぁ、俺のツーパンツスーツが……」


ひび割れた祭壇の中心で、右袖が弾け飛んだジャケットを見つめながら、俺は膝から崩れ落ちていた。


『幻影書庫』の最深部を守護していたレベル3500の隠しボス、【忘却の霊神】は完全に消滅した。だが、空間ごと殴りつけるという荒業の代償として、俺の社会人としての防御力はゼロになってしまった。


「あ、朝倉さん、元気出してください……! ほら、クロちゃんが何か見つけてきましたよ!」


『キュッ!』


しずくに励まされながら顔を上げると、妖狐のクロが瓦礫の中から一冊の古い本を咥えて持ってきた。

漆黒の装丁に、禍々しい銀色の文字が刻印された分厚い書物。


「本……魔導書か?」


俺は破れた袖を気にしつつ、その本を受け取った。


システムウィンドウを呼び出し、【鑑定】のスキルを発動させる。


【アイテム:神代の魔導書(古代空間魔術理論)】

【魔法名:『絶対空間圧縮アブソリュート・コンプレス』】

【用途:超質量、または概念的危険物を絶対隔離するための防壁・保管魔法】

【習得条件:魔力量100,000以上(※人類の限界値を大幅に逸脱)】


「絶対空間圧縮……?」


俺がウィンドウの文字を読み上げると、しずくが目を丸くした。


「そ、それって、魔法の歴史の教科書に載ってた伝説の結界魔法ですよ! 大昔の賢者が、国を滅ぼすようなバケモノを『空間の箱』に閉じ込めて封印したっていう……」


「なんだ、攻撃魔法じゃないのか。ただの箱詰め魔法ね」


俺は少しがっかりした。

てっきり「炎の隕石を落とす」とか「光の剣を出す」みたいな、物理無効の敵をぶっ飛ばせる派手な攻撃魔法だと思ったのに。


「でも、すごいですよ! 習得条件の『魔力10万』なんて、日本のS級探索者全員の魔力を合わせても全然届かない数字です。完全に神話の――」


しずくが興奮気味に語る横で、俺は魔導書を見つめながら、ふとある事に気がついた。


「……待てよ」

俺は脳内で、サラリーマンとしての論理ロジックを組み立て始めた。


「雨宮さん。この『絶対空間圧縮』ってのは、要するに『対象と外界の間に、絶対に干渉できない空間の断層バリアを作る』ってことだよな?」


「え? は、はい。空間を圧縮して壁にするので、内側からも外側からも物理・魔法を問わず絶対に触れられなくなりますが……」


「それだ」

俺はポンッと手を打った。


「その『絶対に触れられない空間の壁』を、極限まで圧縮して、厚さ数ミリの『手袋グローブ』や『ブーツ』の形にして、俺の両手両足に纏わせたらどうなる?」


「……え?」


しずくがポカンと口を開ける。


「つまり、俺の拳の表面を『空間の断層』で薄くコーティングするんだ。そのまま敵を殴れば、俺の肉体じゃなく『圧縮された空間そのものの質量』がぶつかることになる。空間で殴るんだから、さっきの幽霊みたいな『物理無効』の敵にも確実に当たるだろ?」


「ええっ!? 結界魔法を、殴るためのメリケンサックみたいに使うってことですか!?」


「そうだ。しかも、俺の拳と敵の間には『絶対に干渉できない空間の壁』がある。ってことは……どんなに汚いモンスターを全力でぶん殴っても、返り血を一滴も浴びないし、服が擦れて破けることもない!」


俺は立ち上がり、大声で宣言した。


「これなら、スーツが絶対に汚れないし、クリーニング代も浮く! 究極の『手袋』だ!」


「発想がせこいのか規格外なのか全然わかりません!!」


しずくが頭を抱えてツッコミを入れたが、俺の耳には入っていなかった。

これこそ、俺が求めていた「スーツで戦うための最強のソリューション」だ。

俺は迷わず、漆黒の魔導書に向かって、体内で持て余している神竜の魔力エンジンを全開にして注ぎ込んだ。


『――条件クリア。マスターの魔力容量(測定不能)を確認』


『魔術理論【絶対空間圧縮】をインストールします』


その瞬間、分厚い魔導書が眩い光の粒子となって砕け散り、俺の両手へと吸い込まれていった。


知識と術式が、脳と体に直接刻み込まれていく。


「よし、インストール完了だ。早速試してみようぜ」


俺が両手を軽く握り込むと、シュゥゥゥンッ……という低い振動音と共に、俺の両手と両足の表面に『黒いもや』のようなものが薄く纏わりついた。


よく見ると、ただの靄ではない。光すらも歪曲して飲み込む、極限まで圧縮された「空間の断層」が、オーダーメイドの革手袋のようにピタリと俺の手足を覆っているのだ。


「おおっ、軽い! なのに、とんでもない密度を感じるぞ」


俺が黒い空間のグローブを嵌めた手でシャドーボクシングをすると、シュッ! と振るたびに、周囲の空気が悲鳴を上げて切り裂かれた。


「あ、朝倉さん……! 喜んでるところ申し訳ないんですが、アレ……!」


しずくの切羽詰まった声に顔を上げると、崩壊した祭壇の奥から、無数の青白いスライムのようなものが湧き出していた。


【エネミー:忘却の残滓レッサー・スペクター

【レベル:800】

【特性:物理攻撃無効、スライム(分裂・霊体系)】


どうやら、さっき俺が空間ごと砕いた『忘却の霊神』の残骸(魔力)が分裂し、大量のレッサーモンスターとなって復活したらしい。


その数、ざっと五十体。もちろん、全てが物理攻撃をすり抜ける厄介な特性を持っている。


『ピギィィィィッ!!』


スライムの群れが、津波のように俺たちに向かって押し寄せてきた。


「ちょうどいい。新しい『手袋』の感触を試すには、最高のサンドバッグだ」


俺は破れた右袖を気にすることなく、空間の断層を纏った拳を構え、ニヤリと笑ってスライムの津波へと飛び込んでいった。


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