16話 約束の地へ
ヤザン砦攻防戦大勝利の勢いそのままに街道を南下、敗走するレパス王国の敗残兵を根こそぎ討ちながら進み、ブエナビ村をユーカリ村の獣人と共に急襲した。
森林に潜んでいて取りこぼした奴もいるだろうが、前線基地と化しているブエナビを落とせば、本国に帰還できる者はいなくなるだろう。
今はその戦いを終え、そのままブエナビ村を離脱して街道を南下している最中だ。
俺の隣に『敵は皆殺し』方針に文句をいいたそうな奴が苦い顔をしている。
「もう、充分だったんじゃないの」
「お前が最初に示した目的は獣人のガキが安心して暮らせる環境なんだろ? 敵に余力を残すのは、末長く闘いたいって言ってるのと同じだ」
「うん……」
赤頭は甘い、そして目先だけだ、健闘を称え合うのはスポーツだけにしてろ、闘うと決めたら全て奪う覚悟で望め。
平和の敵は総じて、勝てば気分が大きくなり、情けで禍根を残す、歴史に学べよ。
親父の敵に回ったやつは二度と目の前に現れることはなかった。
負ければ消滅だ、強いやつは潰すと決めたやつを存在していた痕跡ごと消してしまう。
それは悲しいほど正しいんだ。
ちなみにレパス軍の捕虜は一人もいない、白旗を上げた奴がいなかったわけではないが捕虜は一人もいない。
そりゃそうだろ、ブエナビ村に女子供の奴隷はいたが男は一人も残っていなかった、レパス王国側もそういう戦いをしている。
つまりお互いがそういう争いをしているってことだ、別にこの世界が異常なわけではない。
日本でもほんの七〇年前にそんな事例はいくらでもある。
例えば硫黄島で日本軍は二万人のうち一九五〇〇が戦死している。
五〇〇人しか生き残りがいなかったと思っている奴はいないよな? ここで起こっている事もそういうことだ。
赤頭は納得していないご様子だが、奇麗事ってのは狡賢いやつの食い物にしかならん。
ちなみに我がゲジ男隊はブエナビ村でさらに二〇名近くその数を増やしている、総勢三〇人。
とはいえ、キャタピラポッドはゲジ男を含め合計五匹いるがその内四台は先生の管轄だ。
猫科の獣人が猛烈に増えた、ブエナビ村を開放したのはいいが、男がいない村に未来はない。
我がゲジ男隊に大人の獣人が四人、子供の獣人は合計二十人付いてくることになった、全て女だ、男は一人残らず殺されている。
ブエナビ村はレパス軍の略奪などで集落としての機能を喪失するほどの荒廃っぷり、獣人たちの手に奪還されたはいいが再建は困難、てか不可能な状態だった。住人は全て女だ。
ユーリカ村の獣人とは種族も違い共存は難しいらしい、そこで赤い頭の馬鹿がまた余計なことを言った。
「もし行くところがないなら、私たちと一緒にきてもいいわよ」
「赤帝が本来の力を取り戻せたら、あなたたちも平和に暮らせる国が作れるはずよ。あたしたちはその為に旅をしているの!」
「みんなの事を迷惑だなんて思わないわ」
たくさん無計画なことを言っていた、相談もなく。
俺は当然連れて行くのに反対の立場だ、足手まといなことはもちろん、俺はハッキリいって人見知りだ、誰一人接点のない大人数とか耐え切れない……そもそもコイツは国を作る気なのかよ、初めて知ったわ!
「小さい子がいるのに見捨てることはできない」
「小さい子がいるのに見捨てることはできない」
カリスティルと先生は全く同じ言葉を吐いた、が、意味するところは全く違うんだろう。
俺は獣人たちを連れて行く事に最後まで反対し抵抗した、だが多数決という数の暴力に屈した。着いてきている獣人はカリスティルを信頼し、俺のことが嫌いになった。
まぁいつもの流れだ。
そんなわけで荷台に赤頭を呼び出してグチグチ嫌味を言っている。
俺の隔離小屋じゃない理由は、元から積荷で狭くなっていたのに、ブエナビ村のレパス軍本陣で略奪を心行くまで働いて、荷物が満載になり、入室が困難になっているからだ。
食料、水などは獣人の乗るキャタピラポッドに移され、純粋にゲジ男の荷台は全て居住スペースとなった、略奪した積荷で俺の寝るところがないけどな。
まぁ無計画な赤頭に説教して憂さ晴らししよう。
「無責任なことを獣人相手に言っていたな」
「そうかしら」
「そうだよ、いつまでこの旅が続くかわからんのに、こんな大所帯どうやって食わす気だよ」
「あと二ヶ月くらいもてばいいはずよ」
「なんだそれ、意味わからん」
「目的地って竜脈の根源でしょ、後二ヶ月くらいで着くって聞いたわよ!」
え?
「……聞いてない」
「うそ、目的地くらい知っておきなさいよ!」
「いや、ずっと赤帝が手綱を握っているから……いずれ着くかな~って……」
「あたしのことを馬鹿だとか考え無しとか言っていたけど、あんたも人のこと言えないんじゃない!」
まさかの事態だ。
馬鹿の分際でカリスティルに説教されるのは業腹なので、その場を逃げるように退散。
手綱を握る赤帝にカリスティルの言っていたことが本当か確かめようと駆け寄――ろうとしたが赤帝の隣にパウリカが座っている。
いつ仲良くなった?
パウリカは俺の姿を視界に納めると、ぷいっとソッポを向いた。
なんだこれは……
「おい、これはどういうことだ、説明しようぜ俺に」
赤帝の隣に腰掛けながら尋ねる。
「貴様に説明すべきことは特にないはずだが」
「いや! あるだろ! 竜脈の根源って後二ヵ月で着くらしいな、俺は聞いてないぞ」
「貴様は我に何も聞かぬからな」
「いやいや、そこは自発的に教えろよ『え? 知らないの』状態はこれで何回目だよ」
「貴様は常に一人じゃからな、機会がなかったのだよ」
「くっ――酷い事言うな、俺は人の話を良く聞くほうだぞ、近所でも評判だ」
「うそだよ! 君は僕の話を全く聞いてくれなかったじゃないか!」
パウリカが男同士の話に割って入ってきた、空気読めよ。
「お前が勝手に脱ぎ始めるから話にならなかったんだろ!」
「なっ!」
パウリカは目を見開くとプルプルと振るえ……その姿を白い虎に変えた、巨大なホワイトタイガー。
重さの概念がないのかゲジ男はビクともせずに直進を続ける。
体長三メートルの猛虎、うん、これは、怖い。
グルグルと唸り声を上げるパウリカに身の危険を感じた俺は猫科動物のように素早く後方に飛び下がり、
「なにムキになってんだよ、バ~カ」
雑魚臭モロ出しの捨て台詞を吐いて足早にその場を去り、荷物が満載の隔離小屋に入ることもできず、身の置き場がないので荷台と荷台の隙間に体を滑り込ませると、コンパクトな体育座りをし夜明けを待つことにした。
居場所がない俺にヨモギが声をかけてくれたのはそれから五時間後のことだった……
次から終章です。
今までより長い章になるかもしれませんが『俺たちの戦いはこれからだ』end以外の結末を迎えれそうで嬉しいです。




