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反逆のリヴァースドール 空っぽのナナリー  作者: ニャンジロー
第三章 フォルトワースの悪魔
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3-18 奢りと誤算

~前回までのあらすじ~

探索からドモン達が帰還した。

だがその中にレイン、ナナリー、カリンの姿はなかった。

一方遺跡の裏口では、カーディフの腹心であるリーズ達のギガンティアが

ジャスパーを抹殺する為に待ち受けていた。

単騎で帰還して来たジャスパーに労いの言葉をかけるリーズ。

だがリーズの思惑を知るジャスパーは、彼女を挑発するような言葉を投げかける。

ジャスパーの発言に驚いたリーズだったが、心を落ち着かせると彼の乗る

グランサムを見つめながら静かに口を開いた。


「ジャスパー… もう一度聞いておく。

 目標はどうなった」


「ちゃんと報告したろ? 下層に落下したと。

 嘘は付いちゃいないぜ。

 …その後どうなったかは、また別の話だがな」


飄々とした返答がリーズを苛つかせる。

リーズはこのジャスパーという男があまり好きではなかった。

だからこそ今、こう思った。


ああ、始末する対象がこんな男で良かった。

心が痛まずに済む、と。


彼女はぞっとするような冷徹な声で返答する。


「貴様… 見逃したな?」


「正確には違うな。

 見逃してもらったのは俺達の方だよ」


その瞬間、リーズはヒメノカリスが手に持っているハンドガンをジャスパーの

グランサムに向け、即座に発砲した。

ジャスパーはそれを読んでいたのか、素早く反応して銃撃を躱す。


「この裏切り者が!」


リーズは自分達の行為を棚に上げて叫ぶ。

それと同時に両脇のオルレアが銃を構え、ジャスパーへ向けた。


その時だった。

ジャスパー機の後ろに倒れていたグランサムの胸が吹き飛び、そこから光の柱が

立ち上る。


突然起こった現象にテンプルナイト達はつられて光の方を見てしまう。

光の中からは白く、蒼い翼をもった機体、フリージアが現れた。

その手のひらから数人の人影が機体に飛び込むのが見えた。


「何だ! 何だあれは!」


リーズは狼狽する。

そして部下のテンプルナイト達もそれは同じだった。

彼らとて、エル・ギガンティアの出現を見るのは初めてだったのだ。


フリージアは翼を広げると空中へ飛び上がる。

リーズ達はいきなり現れた機体を目で追う。

だが、それが致命的な隙になった。


突然、ライフルの銃声が響き渡る。

同時にヒメノカリスの右側にいたフィラッハの乗るオルレアの首が吹き飛ぶ。

ジャスパーのグランサムがいつの間にか右手でライフルを構えていた。

彼が暗殺任務で使っていた狙撃用のライフルだった。

リーズ達から見えないよう、背中側に隠し持っていたのだ。


体勢を崩したオルレアに向かってジャスパーは次々と弾丸を打ち込む。

その弾丸は正確無比に関節を打ち抜き、フィラッハ機は崩れ落ちる様に倒れた。


「貴様!」


リーズは慌ててジャスパー機に向かってハンドガンを打ち込む。

ジャスパーは盾を構えつつスラスターを吹かしてジグザグに動きながら後退し、

それらを素早く躱す。


「リーズ様! お任せを!」


もう一機のオルレアに乗るヴェルスが叫び、ショットガンでグランサムを狙う。

その時、グランサムが飛び退いた場所に残されていた何かが炸裂した。

手投げ用の閃光爆弾だった。

辺りが光に包まれ、リーズ達は目標を一瞬見失う。

それでもヴェルスはすぐさまグランサムを追撃しようとショットガンを構える。


その時、突如として上空に飛び上がったフリージアが急降下して来た。

グランサムに気を取られていたヴェルスはフリージアへの反応が遅れてしまう。

彼は慌ててショットガンを盾にして機体を守る。


フリージアの斬撃がショットガンを真っ二つに切り裂く。

全力で後退しながら銃を捨て、剣を抜くヴェルス。

だが着地したフリージアに素早く斬り込まれ、防戦を余儀なくされる。

死角を突く様な斬撃で押し込まれ、リーズ機からどんどん離れていく。


リーズはヴェルスを援護しようとフリージアの背中にハンドガンを向ける。

引き金を引く直前に彼女はモニターの警告に驚き、機体を飛び退かせる。

いつの間にかジャスパーのグランサムが距離を詰めて来ていたのだ。

その手は既にライフルから剣に持ち替えられていた。

グランサムの斬撃が迫る。

リーズ機は躱しきれず、ハンドガンを切り裂かれ盾を構えながら後退する。


「駄目ですぜ。よそ見なんかしちゃあ」


通信パネルからジャスパーの小馬鹿にしたような声が響く。

リーズは神経を逆なでされ、肩を震わせる。


「貴様、分かっているのか。これは反逆だぞ!」


「反逆されるのが分かっていたような装備で待ち構えられてもねえ。

 今更正論をかまされても返答に困りますぜ。

 せめてもう少し隠す努力をするべきだったのでは? リーズ様」


リーズは返す言葉に詰まる。

正直、ジャスパーを舐めていたのは確かだ。

火器で制すればすぐに事は済む程度に思っていたのだ。

だが一瞬でフィラッハは倒され、火器も全て失ってしまった。

優位な状態はもう無い。

こうなれば自力で奴を切り捨てるしか道はなかった。


煽られたリーズは剣を抜き放ち、ジャスパーに向かって切りかかる。

ジャスパーはそれを剣で難なく受け止める。

リーズは攻勢を強め剣撃を繰り返すが、ジャスパーは軽々とそれらを受け流して

しまう。

リーズはこれでも自分の剣には自信があった。

だが、それを軽々と捌くジャスパーの技量を目の当たりにし戸惑いを隠せない。

何よりも自分達の行動が全て見透かされている様な現状に焦りを感じていた。


「貴様… いつから気づいていた?」


「最初からですよ」


「何…」


「…気づいても居なかったのか。呆れたぜ。

 こんな奴ら相手に白旗上げようと思ってた自分が情けなくなるよ」


「何だと!」


「あんたもカーディフも相手を見ていなすぎだ。

 自分を中心に世界が回っていると思っているんじゃないか。

 カリン・シャルルは、自分を狙った黒幕が誰かすぐに当てて来たぞ。

 ちっとは見習ったらどうだ」


「調子に乗るな! 用済みの分際で!

 切り捨てられるような男が偉そうな口を利くな!」


どんどんと語彙力が下がって行くリーズにジャスパーは苦笑いすると片手間に

パネルを操作して通信を切り替える。


「アシュランド。そっちはどうだ?

 気にせず行ってくれて構わないぞ」


「大した自信だな。

 だが大丈夫だ。こいつを倒してからそうさせてもらう」


レインはそう言うと、目の前のヴェルスのオルレアに向けて攻勢を強める。

その打ち込みの速さにヴェルスは対応出来ていなかった。

レインの剣を捌ききれず、盾は傷つき、剣先が機体を掠めあちこちに傷を作って

行く。


冷静にヴェルスを追い詰めていくレイン。

彼の座るシートの後ろにはナナリーとカリンの姿があった。

二人はシートの裏の荷台に腰かけ、シートにしがみ付いて彼の戦いを見ていた。


(凄いな、この人。

 テンプルナイトだって鍛錬は積んでいるはずなのに…)


カリンは的確に相手を追い詰めていくレインの技量に感心する。


ヴェルスが苦し紛れに放った突きに、レインはシールドの角度を合わせて相手の

剣を滑らせ払いのける。

剣の軌道が変えられ、オルレアの胴体が無防備になる。

ヴェルスは慌てて左の盾を引き上げ、体を守ろうとする。

レインはその動きを読んでいたかの様に踏み込み、引き揚げられた盾の下を通る

様に横薙ぎを繰り出した。

その斬撃はオルレアの左膝を切り裂き、機体はバランスを崩す。

同時にレインはフリージアのスラスターを吹かし、オルレアに体当たりする。

衝撃を受け後ろに吹き飛ばされるヴェルスのオルレア。

体勢を立て直そうとして機体の重心が足に掛かると、斬り割かれた膝が鈍い音を

立てて折れ曲がり、機体は地面に倒れ込んだ。


ヴェルスは慌てて機体を立て直そうとするが、片足を損傷した機体は手を付いて

上半身を起こすのがやっとだった。

手が使えない状態のオルレアに対し、フリージアの容赦のない突きが炸裂する。

頭部と両肩を素早く貫き、相手の戦闘力を奪っていく。

ヴェルス機が動けなくなったのを確認すると、レインはジャスパーに通信を送る。


「では、先に行かせてもらう。

 無事を祈る、クロッカス・ジャスパー」


「ああ、そっちもな。

 …姫様も迷惑をかけた。すまないな」


最後まで呼び名を変えないジャスパーに対し、カリンは苦笑いをする。


「だから、姫様は止めて下さい。

 …無事を祈ってます。皆さん」


人の良いカリンの返しにジャスパーはほほ笑むと付け加える様に言った。


「…それと、ナナリー嬢」


「はい」


「ありがとうな。

 再会できたら、何か美味い物を奢らせてくれ」


優しい声で聞こえて来たジャスパーの言葉。

それに合わせる様にラパスとスクレの声も聞こえて来た。


「この恩は… 忘れない」


「あっしもまた会える日を楽しみにしてます。

 お元気で!」


ナナリーは少し暖かい気持ちになり、元気に答えた。


「はい! 皆さんまた!」


ナナリーは嬉しそうに笑う。

隣に居たカリンもその笑顔を見てほほ笑む。

二人のその姿をちらりと見たレインはフリージアを飛び上がらせる。


「ま、待て!」


飛翔するフリージアを見て慌てるリーズ。

その瞬間、グランサムの突きがヒメノカリスの右肩に直撃する。

咄嗟に身を躱した為、肩アーマーが吹き飛んだだけで済んだが、リーズは慌てて

機体の体勢を整える。

そんなリーズに対し、ジャスパーは余裕そうな口調で声を掛ける。


「だから、よそ見しちゃダメだって言ってるだろう」


「くっ… まぐれ当たりでいい気になるな!」


強がるリーズではあったが、額から汗が滴る。

正直、彼女はジャスパーを時代遅れの老いぼれだと思っていた。

彼は剣の指南をする時も指示ばかりで機体を操作する事は少なかった。

実際に剣を振るうのは部下のラパスやスクレであり、この男は指揮能力を買われて

教団へ来たのだと思い込んでいた。

だが実際に機体で剣を交えた今、受けた印象はまるで違った。


恐らく自分は、一対一ではこの男に勝てない。


用済みになった男達を始末すればそれで終わりの任務だと思っていた。

だが、実際は違った。

相手はこちらの思惑にとっくに気づいて準備をして来たのだ。

でなければ共闘して来たギガンティアの説明が付かない。

あれが、例のサルベージャーのエル・ギガンティアだったのだろう。

まさがそれがジャスパーと手を組んで牙を剥いてくるなど思いもしなかったのだ。


どのような経緯があったのかは知らない。

だが、実際に敵同士であったはずのシャルル達とジャスパーは何故か手を組み、

自分達は裏をかかれる事になったのだ。


あのサルベージャーが地上に戻ってしまえば、事が公になる可能性がある。

そうなれば任務は完全に失敗だ。

カーディフに会わせる顔がない。

それどころか、このままでは自分は…


リーズの背中に冷たい感覚が走る。

そもそもリーズ達は鍛錬は積んで来たが、実戦は数える程しかなかった。

ギガンティア同士による命のやり取りの経験が少ない。

その経験の差が、この戦いの力の差に表れていた。


ゆっくりとジャスパーのグランサムが近づいてくる。


「さて、長居は無用だ。そろそろ終わりにしようか」


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