第一話 出会い
高校2年の春。春の訪れを拒むかのような、鋭く冷たい風が吹き抜ける朝だった。
視界のすべてを凌駕する圧倒的な質量の桜の下で、無機質な表情を浮かべていた。
「...母さん……?」
そのとき、僕の口からそんな言葉が漏れた
――だけど、すぐに分かった。
母であるはずがなかった。そこにいたのは、見慣れない制服を着た一人の少女だった。
彼女はこちらに気づいていないのか、ただまっすぐに青空を見ていた。
――まあいい。僕は彼女を意識の外へ追いやり、いつものベンチに座って音楽を聴いていた。
しばらく経って、こちらに気づいたのか、何かを気にしている様子だった。
彼女がこちらに向かってきた。速い。
「あの!...ここってどこか分かりますか...?」
意外なことを言われ思わず固まってしまったが、待たせていることに気づき口を開いた。
「河桜町だよ。」
前から人と話すのが苦手だ。それゆえ、それしか言えなかった。
彼女は少し首をかしげながら口を開いた
「...六塙町ってどこかわかりますか...?」
六塙町はここから南へ3kmほど歩いたところにある町で六塙高校という高校
いわゆるお嬢様学校がある有名な町だ。
「ここから南に3kmくらい行ったところだよ。...何かあったのか?」
「...スマホの充電が切れて、地図が...開けない...」
「親とかは、いないのか?公衆電話とかで呼んで迎えに来てもらったり。」
「頼れる人は近くには...」
聞いてはいけなかっただろうか。
帰ろうとする素振りを見せたらうつむいた顔で泣きそうな顔をされた。
…どうしようか迷ったが助けることにした。なぜかと聞かれたら答えられない。
「近くの駅までなら、連れていくけど...」
「そんな..申し訳ないです。」
「..そう。分かったよ。」
行こうとしたら、また泣きそうな顔をされた。
...面倒くさい。
「...僕の家、駅の向こうだから...」
「本当ですか?それならついて行ってもいいですか?」
僕がうなずいたら少し微笑んで、僕が歩きだしたら
とぼとぼ後ろをついてきた
…しばらく歩いたところで向こうから話しかけてきた
「どうして、あの神社にいたんですか?」
「毎朝、走ってて、休憩している所だよ。
あの神社は気に入ってるから、毎日通ってるよ。」
「そうなんですね...」
「「 …。」」
彼女が気まずい雰囲気をさらに悪化させた。
「...ご家族とは仲はいいんですか...?」
「母親は小学校の時に死んじゃって、
4個下の妹と弟がいるよ。父親は..まあそんなよ。」
「……! ごめんなさい。聞いてしまって。」
「全然いいよ。気にしないで。」
そんな会話をしている間に駅に着いてしまった。
「...このお礼はまたさせてください!
...あ、そうだ聞いてなかった!名前は?なんていうんですか?」
「速水 櫻。さくらって書いてさくって読むよ。」
「私は高藤 紅葉です。...それじゃ、失礼します。」
そのまま駅の改札に入っていった。
「遅刻だな。これは。」
そのまま来た道を走って、家に戻って荷物を取って学校へ走った。
朝礼中だった。息切れしながら教室に入った。
「すいません...。遅れました...。」
「君が遅刻なんて珍しいですね。」
そのまま、自分の席に座った。
僕は陰キャだ。周りからはあまりいい目は向けられてない。
朝礼が終わった後、拓海が話しかけてきた。
拓海は小学校からの幼馴染だ。
「お前、何かあったか。」
「何かって、変か?」
「お前が遅刻するなんて、初めてじゃないのか?
それに、今日はいつもの堅い顔が少しマシに見えた」
「今日は...ちょっと遠くに走りすぎただけだ」
「毎日走っててストイックだよな。お前。まあ無理するなよ。
母親がいなくなってから、ずっと頑張ってるからたまには休めよ。
そうだな...彼女とか作ったらいいんじゃないか?
悩みとかを話せる人がいたら楽になるぜ!」
「そういうのはいいかな。心配かけて悪かったな。」
「そうか、まあいつでも頼れよ!」
鐘がなり授業が始まった。
その日は何事もなく一日が終わった。




