これからの道
森の奥、反対の場所では今もエルフが奴隷で遊んでいた。おもちゃで遊ぶことは理解できる。受け入れるかは別として。
我は先を急ぐ、ミューズの妹を助ける為に。
「ご主人様、こちらです。足元にお気を付けを」
「うむ、それにしてもミューズよ。必死だな、妹が大事か?」
「…そうですね。彼女は私が魔眼で奴隷になると知ってエルフに直談判に行き、私と同じ身分になりました。猪突猛進ですが、それでも大事な妹なんです」
あの時のミューズはとても良い殺気を放ち、森を歩く。
それにしてもエルフも馬鹿なことをするものだ。魔眼持ちを奴隷にするのは、金貨をドブに捨てるようなものだぞ?それとも気づいてなかったのか…後者な気がするな。
魔眼とは、己の魔力がと多すぎた時に目に現れる異常体質だ。一番の特徴は見ただけで魔法が発動する事だろう。我のように魔力を操れない者は魔法が一番の武器となる。そして詠唱を必要としない魔法を使えることは、次元が変わるほどのアドバンテージがある。
「ミューズ、お前は魔眼を持っていたな。どのような物だ? 我の剣が見えた所から予想すると、【魔力の形】を写す魔眼か?」
「…流石ですね。ほとんど正解でしょう。私のこの目は【虹の魔眼】と呼ばれるもので、その者を目に移すと魔力の色、魔法の種類、今どこに魔力を集めているか等が目に移ります」
この時は少し驚いたな。ますますエルフの考えが理解できない。何故ならその魔眼は我が知っている中でも最上級、本来であれば国が大事にする程の国宝だ。
だからこそ妙だ、なぜ本当にミューズは奴隷になったのだ?
「ミューズよ。貴様の話、いつわりとは思わん。だが、その魔眼だけが奴隷に落ちた原因では無いのだろう? エルフもそこまで馬鹿ではないはずだ」
「………」
「何も言わないか…まぁ良い、答えくなったら言うが良い。その時こそ、貴様がエルフと決別する時だ」
「ありがとうございます」とミューズは前を向き、振り返ることは無く、奥へと進んでいった。
十分後ぐらいだろうか? 妹が見つかったのは────
「見つけました…妹を離しなさい! 私の宝物に汚い手で触るな!」
「…お前は、こいつの姉だったか? 奴隷が逃げだすとはもはや生かす価値もないな」
ふむ、エルフが持っているあの首輪に繋がれて四つん這いになっていん女がミューズの妹だろう。だが、姉妹というか双子に近いな。容姿がそっくりだ。
そして──────
「お姉ちゃん逃げて! 私の事はいいから! 早く!」
「奴隷が喋るな!」
────こんな状況でも片方の心配をするところも、そっくりだ。さてどうするミューズ。このまま去るか?
「もう一度だけ言います。妹を解放して国に帰りなさい、そうすれば命だけはとりません」
「薄汚い奴隷が我々に指図だと? やはり生かす価値がない、殺してやるぞ。覚悟しろ!」
「……そうですか、であれば仕方ありません。己の思考を恨みなさい」
…だそうだ。エルフ、お前たちは失敗したな、己のプライドの為に命を捨てるとは。とてもじゃないが、愚かすぎて何も言えんな。さて俺も戦うとするか────
「お待ちください、ご主人様。ここはミューズ一人におまかせ下さい。妹一人も助けられないエルフがご主人様に仕える資格などありません」
「ほう…だがどうする? 相手は万全装備のエルフ三人。貴様一人ではキツいのでは無いか?」
「遺憾ですがそうでしょう。なのでご主人様、貴方の技を借りる事をお許し下さい」
技を借りる? 何を言って────待て、ミューズの手にあるのは我が使った魔力の剣。体外に出ても霧散しないように我と同じ方法で。
我は一度も魔力の剣の出し方を教えていない。つまりミューズは【見ただけでそれを理解し覚えた】のだ。類まれなる学習能力だ。文字通り才能の塊だな。
そしてやはり敵のエルフには魔力の剣が見えていない。所詮は長耳か。
「何か、言い残すことはありますか? 妹を奴隷にして楽しかったですか? その涙の跡を見ても何も感じないんですか? 蹴られ殴られる痛みを一度でも想像しましたか!?」
「…何を言い出すかと思えば、奴隷の気持ちなど分かってたまるか、分からないから奴隷と貴族なのだ。お互いの気持ちは分からない───だからこそ、こうして上にいる者と下に這い蹲る者が出る」
…的を得ている意見だ。例えば肉。豚や牛、何でも言い、我らがそれらを殺せるのはその感触を知らないからだ。
肉になる事を知らない、もしも立場が逆で、人間が肉となっていれば豚は平気で殺害スイッチを押すだろう。
だがそれはそれ、これはこれだ。
どちらが殺されるか。そんな物、猿でもわかる。
「…そうですか、ではさようなら。最後まで気づきませんでしたね─────」
「何の話だ。それよりも、今更おくったか? であへばこちらからいくぞ、我の……(ドサッ)」
「────最後まで…心臓を抜き取られていることに」
エルフはもう死んでいる。我から見ても曲芸だな。魔力の剣をさらに形を変えスプーンのような形状に変えてサッと心臓だけをえぐり出した。
エルフが気づかなかったのも無理はない。ミューズは優しく氷を扱うかのように素早く抜き取った。
これは恐らく───
「どうしたミューズよ? 最後にエルフ達に同情でも湧いたか? 一番の痛みのない方法で殺すとは」
「……いえ、ご主人様の服を血で汚さない為の処置です。汚れてませんか?」
「フッ、そういう事にしておいてやろう。さて早くいけ、貴様の妹が待っているぞ?」
ハッとミューズは妹の所に駆け寄った。まるで子を見つけた母のように、ハッピーエンドに終わるかと思ったが、現実はそうはいかずミューズの顔は変わっていなかった。
「どうしたミューズ? 妹と再会できたのだ喜ぶところではないか?」
「……手遅れでした」
「───何だと?」
見た所、妹は酷く衰弱している。何故だ? 先程まで元気にこちらに注意をしていたのに、今ではその欠けらも無い。
「ミューズ、これは一体────」
「エルフの奴隷は本来禁止されている行為です。なので要心深い奴はこうやって主人がが死んだ時、奴隷も死ぬ呪いをかけておくんです。…判断が甘かった。結局私は何も救えなかった…ごめん、ごめんね」
…なんだこれは? なぜこうなった? どうも世界はどうにかしてミューズの心を折りたいらしい。
生き別れの双子が再開するだけなのに、これ程の試練か。神は随分と暇らしい。
「泣か…ないで、お姉ちゃん」
「イア? もう喋らないで、私に貴方と会話する資格なんてない。なんでこうなっちゃったんだろう? ……最後ぐらい貴方の笑顔が…見たかった」
「…私は幸せ…だったよ。最後まで…迷惑かけて…ごめんね」
これが運命か、犠牲を払って結局助けられたのはミューズ一人───そんな結末を我が望むとでも? 世界が殺そうとするのなら我は生かそう、そうやって世界に抗おうじゃないか。
「ミューズよ、どけ」
「ご主人様? 何を────」
安心せよ、取って食う訳じゃない。ただ少しだけ、世界に苦虫を噛み潰したような顔をさせたいだけだ。
「イアと言ったか? 我は新しいミューズの主人である」
「…そうですか…姉をよろしく…お願いします。私の…自慢のお姉ちゃん…ですから」
「悪いがそれは出来ん。我は目的を潰されるのが何よりも嫌いだ。我はミューズにお前を助けると誓った。であれば救うぞ。あとはお前次第だ。生きたいか? まだ姉と一緒に暮らしたいか?」
「…」
何も答えなかった。それは話す力を行動のエネルギーにしたから、イアは我の手を掴み目で訴える「生きたい!」と。
「良かろう、貴様の生き汚さに免じて、我の服を汚したことを不問としてやろう。さぁ生きるが良い!」
その後我は、イアの体から魔法陣を取り除く。なに、簡単な作業だ。体に魔力を流し込んで、悪さをしている魔方陣を破壊する。
……これだな。さてとバキッとやるか!!
「お姉ちゃん。久しぶり…」
「あぁ、良かった……やっと会えた」
その後の展開など語る必要はあるまい。誰しもが見るハッピーエンドだ。良かった良かった。
「という事があったな」
「懐かしいねお姉ちゃん」
「そうね……本当に懐かしい」
我ら三人は今もこの世界で苦しんでいる奴隷達を救うために努力している。影で努力をして、少しづつ同士を集め世界に挑戦をする。
勇者と魔王を打ち倒し真の勇者になるべく、戦い続けるのだ。
初めて完結させた作品かもしれない
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そうすると魔王のやる気が上がります。