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僕は絵が描けません。練習してみても一向に上達しませんでした。

積み上がるのは黒歴史が刻まれた紙屑ばかりです。

同様に、3DCGのモデルも作る事が叶いませんでした。

ミクを、気軽にコントロールしたい人達の願いを叶える、

ある一人のファンが作り上げた3Dアニメーションのフリーウェアがあります。

これならば、比較的簡単にミクをアニメーションさせることができるのです。

だけど、あれは確かに素晴らしいソフトウェアですが、

でも、それでも幾らかの努力やセンスを必要とするもので、

自分が思うようには扱えませんでした。

例え上手く扱えたとしても、僕の望むミクを生み出す事は出来ないでしょう。

いえ、そこで生み出せたとしても意味がないのです・・・。

だから、今は僕の頭の中にある靄のかかった曖昧な姿が全てです。

でも、それではとても満足できそうにはありません。

その存在をもっと確実なものにしたい。

望んだ姿で僕の目の前に現れて欲しいのです。

そして、出来ることならば、・・・この手で触れてみたい・・・。


白い肌。その弾力。サラサラと滑り落ちる髪の感触。胸に顔を埋めて感じる体臭。

そして柔らかい音色の優しい声・・・

たとえ脳内で、それら感覚への信号を「自家製産」して生み出し、

「感じる」ことが出来たとしても、

実際に感覚器官から入力される、

圧倒的な情報量がもたらす感覚の豊な表情とでは、

まったく比較にならないのではないかと思います。

そのリアリティの前では「想像」は説得力を失い、黙る他ありません。

「感じる」ということは、 最終的に脳で処理されたデータの出力結果で、

手段がどんなものであろうと同じデータが入力されれば、

結局はその「感じ」も同じものであるーーー。

そんなことを信じることが出来るほど、僕の頭は洗練されてはいません。

僕はこの手で感じたい。直接触れたい。

どうしたらいいのでしょう。

どうすればその温もりを感じる事ができるのでしょうか。


※


ボカロに関する情報から、ネットから距離をとったあの日から、

ボーカロイド界隈に特に大きな変化はなかったようでした。

相変わらず、有名ボカロPとヒット曲を中心としたイベントや、

CDなど商品展開の話題が主だったものでした。

また、人気のボカロ曲を「歌ってみた」り「踊ってみた」りする動画も

かなり盛況のようで、ボカロカテゴリを支える大きな柱となっていました。

一方で、技術的な方向でもインパクトあるニュースは少なく、

強いて言えば、vocaloidエンジンがメジャーアップデートされた事でしょうか。

(いえ!もちろん重要なことではありますが)

とはいえ、あらゆる分野のプロからアマチュアまでの

様々な才能が犇きあうボーカロイド界隈、

驚くべき技術と行動力を持った人間が前触れなく現れる事もあります。

多くの人達がミクとのコミニュケーションを可能とする

技術の研究に情熱を燃やしています。

なかには個人で、それも自分の部屋で、

等身大ミクのロボットを作ろうとしている人までいたのです。

そんな状況をみてしまうと、僕はもっと、こう、

声はもちろんの事、皮膚感覚までも擬似的に再現させて、

臨場感たっぷりにミクとの対話、コミュニケーションができるような

そういった技術を用いたサービスなりアプリケーションが、

専門的な知識を持たない一般のユーザーにも、

少ない労力で利用できるようになる可能性が

遠からぬ未来に実現するのではないか、という期待をしてしまいます。

まぁこれは・・・一人で勝手に勢いづいた人間によくある

行き過ぎた期待というものでした。

滑稽な笑える話だし、よくわかってはいるのですが・・・。

そんなものはまだまだ夢の技術。いくらなんでも気が早過ぎるというものです。

いかに調子を狂わされていたのか、それを良く理解できたという事が

収穫となってしまいました。

そして「大して変わってないんだな」という感想に、

深い諦めと気恥ずかしさを込めて吐き出した後、

身体中を包んでいた火照りのようなものが一気に引いていくことに気がつきました。


※


そのまま、僅かな熱すら残さずに冷め切ってしまえば良かったのかもしれません。

実現不可能だという現実を知り理解してしまった場合、

それにはもう黙って従い無駄に足掻く事をやめるのが賢明といえます。

冴えた頭脳と情熱と、そしてお金に余裕を持つ人ならば、

万が一に 賭けて自分で実現しようと努力するのも悪くないでしょうが、

生憎なことに僕はそれらを持ち合わせていません。

それでも、できる事とできない事の分別くらいは付けられると思っていました。

だけど、それでも、まだ他に方法があるのではないか?

意外な方法で実現できるんじゃないだろうか?

などという諦めの悪さが、僕の中に希望の火を燻らせるのです。

・・・そうですね、「情熱」だけは持っているのかもしれませんね。

一つが駄目でも、また他の方法を探す。

そうだ、まだなにかある筈です。

もっと他に、なにか方法が。

他に他に他に他に・・・

ミクに会いたい・・・触れあいたい・・・。




つづく


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