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まおー様は絶望の未来を歩む  作者: 粘々寝
新訳1章:異世界転生勇者・タカシ
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新訳1章 第8話:百姓一揆と夜明け

タカシ君覚醒の瞬間。闇に飲まれよ。

ーーーーーーーーーーーーー…

ノース村

ーーーーーーーーーーーーー…


 「出てこいタカシ!」


 朝っぱらから金髪雑魚の耳障りな怒声が響く。当然無視だ。


 「さっさと出てこいタカシ!」


 幾度となく扉を叩き続け、正午にもなるがまだ怒声が続く。当然無視だ。


 「さっさと出てこいよ!タカシ!」


 教会のガラス窓から差し込む光に朱色が混ざる。黄昏時もまだ続く。当然無視。


 「…………」

 

 月明りが薄っすらと差し込む勇者の時間。ようやく怒声が止まった。

 朝から晩まで俺と一緒に騒音を聞き続けたきた仲間、

 神官帽子のおっさんも流石に堪えたと見える。ほぼノイローゼのような状態だ。

 夜になったら死んだように寝入った。


 ……俺の持つ"唯一の味方"がこんなおっさんとはな。

 俺なんて匿っても面倒なだけなんだから、

 追い出しちまえば飯だってロクなもん食えるだろうによ。


 ここからは俺の時間だ。

 今度は保存食辺りをくすねにいこう。

 一度やってしまえば、二度目の勇者行為(りゃくだつ)に対する忌諱(きい)感はなくなる。

 何事も経験が重要ってわけだ。


 俺は教会のかんぬきを外し、外に出る。


 ……全く、本当に暇でどうしようもない奴だ。

 

「待ってたぜ。タカシ。今日という今日はテメェの事を許さねぇ」


 金髪の雑魚が農具を片手に仁王立ちしている。

 明らかな殺意を発するその佇まいは、武器が農具でなければ恐怖したかもしれない。


「それで、朝っぱらから何の用だよ。えぇ?」


「とぼけんじゃねぇよ!ミリィをやりやがったなクソ野郎が!」


「夜に叫ぶんじゃねぇよ一々うるせぇな。で? その農具で今度は百姓一揆でも始める気か」

 

 金髪の雑魚が怒るのは想定内だ。

 現場を上手く片付けなかった俺に落ち度はあるが、どの道こうなる事は避けられない。


「そう見えるか? てめぇをぶっ殺してやるんだよ。魔王の手先が!」


 金髪の雑魚は柄の長いフォークを俺に向ける。いっちょ前に気迫だけはある。

 一応念のため勇者サーチアイで戦闘力を調査する『練習相手にもならない雑魚』だ。

 恐れるに足りん相手と確信する。


「ハッ サイ男相手にビビってション便垂れ流してた奴が俺に勝てるかよ。第一、魔王の手先をぶっ殺したいなら外に居るあのサイ男の方に行けよ。また腹パンしてもらえるだろうぜ」


「やってみねぇとわかんねぇだろうが!」


 そのセリフをサイ男の前で言えればカッコいいな。

 だが悲しいかな。俺も、コイツも、弱者相手にイキる雑魚狩り専門だ。

 そして、俺は強く、コイツは弱い。


 金髪の雑魚はフォークを俺に向けて突き刺そうとしてくる。

 もはや殺人に躊躇もないとは恐れ入る。

 

 だが、遅い。呆れる程に遅い。技術も、速さも、力も、何もかも足りない。

 魔獣を惨殺し続けてきた俺に対し、

 その程度の実力で挑む事の浅はかさを思い知るがいい。


「クズが」

「ぐあっ」


 フォークを躱し、足払いをかけて転ばしてやり、胴体を軽く踏みつけてやる。

 僅かに呻く金髪の雑魚を見下ろし、制圧しているという実感が沸き立つ。

 これまでに散々コケにされてきた事で溜まっていたうっ憤が晴れていく。


 俺は今、とても充実している。


「その程度か? そんなんじゃ俺は愚か、狼にすら食われちまうぞ。ション便垂らし」

「あああああああ!」


 蹴りを入れてやる、勿論本気で蹴れば殺してしまうから適度に加減する。

 ゴロゴロと転がる金髪の雑魚に追撃の蹴りをくれてやる。

 くの字に折れ曲がった身体は痛々しく見えるだろう。


 今の俺はサイ男とやってる事は大差ない。コイツから見れば俺は魔王の手先。

 だが、俺から言わせればコイツこそが魔王の手先にしか見えない。

 俺をこのクソみたいな生活に追い込み、集団リンチを煽り、

 リスキルを受け続ける原因の一端となったのは間違いなくコイツだ。


 だから、精一杯いたぶってやろうじゃないか。

 折角一人でノコノコ現れたんだしな。


「おらおら、最初の威勢はどうした ええ?」

「ぐあ、くそっが、あああ」


 金髪の雑魚はじたばたもがき、砂を巻き上げた。

 咄嗟に目を手で庇ってしまう。


「ぐっ目つぶしか、な!?」

「死にやがれ!強姦魔が!」

 

 油断した隙に膝に鯖折りを決められて、地面に仰向けで倒されて殴られる。

 クソが、雑魚相手に一発もらうとはな。


「どけよ」「ゲホッ」


 すぐに腹をけり上げて吹っ飛ばしてやる。

 土ぼこりを軽く払ってる間に金髪の雑魚はよろよろと立ち上がる。

 まだ戦意が切れてない。思ってた以上に根性だけは、ある。


「余裕……かましやがってよ……」


 金髪の雑魚は明らかに満身創痍、

 いい加減面倒になってきたなと思い始めてきた辺りで教会、背後から気配を感じた。


「二人とも、もうおやめくだされ!」

「あ?おっさん、起きちまったのか。すぐ終わるから寝てろよ」


 俺は、金髪の雑魚を放っておき、ついおっさんの方を振り向いてしまった。


「いえ、そういう問題ではありません……! 危ない!」


「ん?」

「死ねやおらあああ」

「あ……?」


 俺の腹からフォークが突き出ていた。一瞬何が起こったか理解が遅れた。

 理解した時、頭の中が真っ白になった。


「よし、これでミリィのかた」


 気がつけば、全力の裏拳を金髪雑魚の脳天に叩き込んでいた。

 脳を破裂させ、血をまき散らしながら崩れ落ちる肉塊がそこに残っていた。

 そして、俺はレベルが上がった事を知覚する。


 人間を殺してもレベルが上がるんだな。と。

 

「ああ…… なんという…… なんという愚かな事を……」

「…ってぇ『ヒール』」


 腹に刺さったフォークを引き抜き、回復魔法を唱える。

 いい加減何度も殺されると痛みにも多少慣れる。いや、慣れない。

 腹を抉られる感覚に対する覚悟が出来てきているだけだ。

 サイ男様様ってわけだ。クソが


 遅れて我に返り、真理に触れる。

 俺はついに殺人鬼を殺人してしまった。


 だが、殺人という行為自体に対しては、思っていた以上に何も感じていない。

 こいつはモンスターと同じだ。それ以上でも、それ以下でもない。

 散々俺を間接的にぶっ殺してきたんだ。ぶっ殺される覚悟くらいはあるだろう。


 ……俺を見て崩れ落ちる神官帽子のおっさん。

 何故か、それを見て胸が痛んだ。

 どうやら、俺は、"たった一人の味方"にすら見損なわれたようだ。


 殺人をするな。というのは、自身の行為に対する良心の呵責よりも、

 信用していた他者に見咎られる方がくるもんだな。今さら知った話だが。


「おっさん……」

「勇者タカシよ。彼は確かに貴方を刺しました。それでも、許さなくてはいけなかった」

「そんなの、無理にきまってんだろ。痛ぇ思いしてどうして許せるんだよ。おかしいだろ」


 俺の生きてた頃の法律では正当防衛は許されていた。はずだろ?

 これは過剰防衛じゃない、殺意だって向こうのが上だろうが。

 何故俺だけが攻撃を受け続けなくてはいけない。


「勇者タカシよ。勇者は苦しくても人々を救うために戦わなくてはいけません」

「こいつは人間じゃねぇよ。ただの人殺し、モンスターだ。」


 人に石を投げつけておきながら、罵声を浴びせかけておきながら、

 それでも許して献身しろだと? そんな人間なんて居るわけない。

 そんなの、理解できるもんじゃない。


「勇者タカシよ。貴方はそれでも耐えなければいけなかった」


「……なぁ、おっさん。それが勇者って奴なのか」


「そうです。貴方の正義は失われてしまった。もはや、ライノスウォーロードを退けたとしても村の者達は貴方を許しはしないでしょう。どうして、もう少し待てなかったのですか」


 ……おっさんには黙っていた話だが、

 強姦に強盗をしていて何を今さらって話だ。

 それに、今さら村の連中を許す気にもなれない。


「おっさんよ。そんな都合の良い人間なんて世の中に居るわけねぇだろ」

「貴方はそうなる事を望んだのではないですか?」


 ああ、精々セカンドライフついでに魔王を倒してやるか程度に考えていた。

 俺の手にした能力は明らかに強い。

 普通にやっていれば負ける要素なんて全くなかった。


 脳内のスキルシートの端にあるグレーアウトされた『スキル』の一覧を覗く。


 痛みを完全に無効化する。無条件で好意を植え付ける。

 あらゆる武器を自在に操る。星を落とす。雷を落とす。

 死者を蘇らせ、傷や病を完全に癒す魔法。時間停止魔法。

 俺の知る"現代兵器"等を製造し、操作する。

 美少女精霊を召喚する。好きな場所に転移する魔法。

 ……まだ他にも色々ある。


 大抵のあらゆる事象を自由自在に操る事ができる。

 物理だけでも気が狂うレベルであり得ない動きができるようになる。


 レベルを上げさえすればな。

 

 レベルや金なんて雑魚魔獣でも狩って、

 素材売ってりゃ幾らでも稼げると思っていた。

 適当に戦えそうな女探してラブロマンスにしけこもうなんて事も考えてた。


 ……あのサイ野郎が降ってくるまではな。


「こうなるなら最初っから勇者になるだなんて言わねぇよ!」

「……貴方は、可哀想な方だ。勇者になるべきではなかった。」


 そう言い放ったおっさんは俺に哀れなモノを見るかのような表情を見せる。

 不愉快な視線、ああ、どいつもこいつも、

 どうしてこうも、人を苛立たせるんだろうか。


「……そうかよ。"あんたら"はいいよな? 人に文句ばっかり言って許されるんだから」


 俺は何もかも失った。平凡で楽しい生活も。金も。

 好きな女も。童貞も。正義も。おっさんも。

 俺を村八分に追い込んだ憎かった奴の一人は殺しちまった。

 全然すっきりしねぇが。


 もう、この村に残るのは俺の敵だけだ。だから……


「俺は許してやる気は一切ないがな!」


 腰に下げた刃こぼれした剣を抜き、目の前のモンスターに突き刺す。


「……おお、神よ。どうか哀れな迷える子羊に救いの御手を与え給え……」


 生暖かい血がぼろい剣を伝う。抱擁するかのように崩れ落ちるおっさん。

 俺はおっさんを刺した。あっさり殺した。

 二度目の殺人だからだろうか、一回目の時よりも楽に感じる。

 むしろ、乾いた笑いがこみ上げてくる。


「ひはっはははははははっ面白くねぇのに笑いが止まんねぇよ」


 最初っからこうしてしまえば楽だった。

 そうすれば、俺を野次る相手がいなくなる。

 経験値も稼げる。食料だって奪える。一石三鳥じゃないか。

 ああ、無駄な事を考えなくてよくなる。素晴らしい。


 塩気のある水が口の中に入る。不味い事この上ない。


「終わらせてやるよ。何もかも」


 俺は俺のために戦う。


 ライノスウォーロードを倒せる援軍とやらが来るかもしれないなら、

 それこそ、今のこの状況は不味い。

 そいつらの向ける槍の矛先が俺になる。


 なんたってこの村には小うるさい蠅共がワラワラ居るんだからな。

 嘘をつくなら最初に大きい嘘を一度ついた方が綻びは少ない。

 悪いモンスターに村を滅ぼして貰った方が都合がよいだろう?


 だから、

 「モンスター共は皆殺しだ!」

 全て、等しく、平等に経験値にしてやる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…


 この村の夜明けは二度とやって来ない。

 

 なぜならば、皆俺が経験値にしてしまったからだ。

 レベルは2も上がってこれで9レベルだ。

 ついでにもう一回お愉しみにしてやった。やるべきことは全てやった。


 残る相手は……


「よう、俺好みの中々イイ顔するようになったンじゃねぇか? その服も中々似合ってンぜ? ゲッハハハハッ」


 俺の門出を祝うには持ったいない程上等なシルクの服は、

 すっかり紅く染まっていた。


「そうかよ。サイ男。それと魔王か、俺から何もかも奪ったてめぇらは何が何でも絶対ぶっ殺してやる。てめぇを構成する何もかもを奪い尽くして、泣いてわめいても助けが来ない絶望の底に沈めてからゆっくりと殺してやるよ」


「ゲッハハハハッ今のお前、うちの甘っちょろい総大将よりも魔王らしいぜ? だがな、イキるンならもうちっと力つけてからにするンだな。死にな」


「ああ、知ってるよ。だから次に会った時、殺してやるよ」


 一閃、それで勝負は終わった。それくらい隔絶とした実力差がある。

 

「楽しみにしてるぜ? ゲッハハハハッ」


 サイ男の嗤い声を最期に意識が途切れる。

 次の目覚めは違う場所になる。何故だか確信があった。

ジェノサイドモヒカン系勇者として生きる事を決めたタカシ君の今後の活躍(外伝)に期待。

旧訳よりちょっぴりタカシ君の頭が良くなって同情の余地が……ないです。

※一応主人公です。


後2話くらいで新訳が書き終わる予定。

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ネタバレありだけど設定気になったらこっち見てね

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