新訳1章 第9話:断頭台
旧訳分を完全に埋め直した。やったー!
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獣魔城 シュールストレミング
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まおー様は手に持っていた報告書を大魔導に返し、深い溜息をついた。
それは、諦観ともとれる程の投げやりな表情であった。
報告書の内容は、
ノース村の住人を皆殺しにした勇者タカシを殺害後、消息不明となった。
という内容である。
それは、勇者の住む村を焼き討ちした時と同様の結果となった事を意味する。
「結局、こうなったか。元より期待はしておらなんだが、思っていたよりも綻ぶのが早かったな。なぁ? 大魔導よ」
「全く、これではどちらが魔王なのやら…… 」
大魔導はまおー様の問いかけに対して首を竦めて見せる。
「ククッそれは嫌味か?」
「いえ、全く、滅相もございませんとも。ええ。それで今後はどう致しましょう」
「引き続きライノスウォーロードに追わせておけ、どの道、あやつに勇者の経験値稼ぎを妨害させ続け、時間稼ぎしてもらう他に手はない」
「御意に」
まおー様は深く深呼吸し、目を開ける
「いよいよ余も覚悟を決める時が来たようだな。ククッそうだな。いっそ神王国共の所に単身で攻め入ってみるのも一興、西の果てを狂人共の血で染め上げてやろうではないか」
それは遠まわしな単なる自殺宣言であった。
まおー様が単騎で乗り込んでも瞬殺されるのがオチなのだ。
「それはなりませんぞ」
「何故だ、大魔導よ。勇者を滅する事さえできれば、あと50年は魔族の平和が築かれる。歴代魔王はどうあれ、余は所詮置物でしかない」
前回の勇者の消滅から50年の月日が流れる事で、再び勇者が出現した。
勇者の出現する周期は正確に定まっておらず、条件も現時点で知る者はいない。
「初代魔王サルヴァの血筋が途絶え、獣魔城を受け継ぐ者が居なくなってしまいます。そうなれば獣魔族の中で内乱も起こりえるでしょう。それはどうなさるおつもりで?」
まおー様は一応魔王の系譜であるため、世襲で獣魔城を受け継いでいる。
良くも悪くも世襲で権力を継承することで内乱は抑えられるのだ。
加えて、まおー様は獣魔族の中では最も力のある存在でもある。誰も文句は付けられない。
あくまで獣魔族の中での話であるが。
「……勇者を討ち取った褒美としてライノスウォーロードにくれてやれ。大魔導の権限ならばそれも可能だろう。手遅れにならんうちに早々に事は進めるべきだ」
手遅れ、それはつまり、
ライノスウォーロードが勇者に討ち取られるまでがタイムリミットなのだ。
まおー様を除く獣魔族の中では最高峰の戦闘力を持ち、
尚且つ長い人生経験を得ている存在は彼の他におらず、
彼が勇者に討ち取られるという事態に陥ってしまえば事態の収拾がつかなくなるのだ。
「全く、どうしてこうも、まおー様は悲観が過ぎますぞ。勇者が全世界を敵に回す程の悪行を重ねればあるいは……」
「その先にあるのは地獄だぞ? 大魔導よ。不死身の化物が人魔問わず虐殺の限りを尽くすという事態になりかねん。アレは不死身抜きでもその気になれば一人で全世界の魔族と人間を相手できる存在だ」
「魔勇者王ゆうたの事ですかな?」
「そうだ、それだけは避けねばならぬ」
魔王歴に記された魔勇者王ゆうたの列伝は惨憺たるものである。
歴代でも最強クラスの魔王・魔竜王アジダハーカを城ごと一撃で葬り去り、
ガーデランド内全ての国を支配し、反抗する国に星を落として灰燼と化し、
全国から女を集めて洗脳し、人魔混合世界ハーレムを作り出したと言われる。
彼の整えた恐怖の法の影響下では、
男は皆奴隷階級となって死ぬまで重労働を強いられ、彼に尽くす事になる。
彼の残した攻撃の傷跡は竜魔城跡地であるシーチキン湖に今も残っている。
そして、彼を滅するために使用された勇者の作り出した"兵器"による傷跡も、
南帝国旧市街地にある魔王殿跡地に残っている。
化物同士の戦いが一度おこれば、地形が変わり、
その周囲を死の大地へと変えてしまう。
それは、ムキムキの筋肉しか取り柄のないまおー様にはもはやどうしようもない領域なのである。
「それではヘレナ殿の事はよろしいのですかな? ドラウグルの件も一応は検討しましたが、まおー様が滅んだ場合、次の候補は間違いなく彼女になりますぞ。通例では最も力のある魔族が魔王となるのですからな」
「そこは何とかできないのか」
「魔王なぞ、誰もやりたがらないですからな。ですからまおー様がなったのではないですか? アレだって大分異例なのですよ」
屍魔卿ドラウグルも竜魔暴君グウェイルも、
上級魔族としての単純な戦闘力はまおー様より高い。
力こそ全てが魔族の法であるのに、
魔族の中で最も弱い種族である獣魔のまおー様が魔王となれる一番の理由、
それは、勇者によって滅ぼされる事が確定するという貧乏くじを引かされる事の他にあらず。
「……そうだな。魔王の席とは、いわば断頭台に登るようなもの。勇者という断罪者に首を刎ねられるのを待つだけの座よ。余は、ヘレナをそのような席に座らせたくはなかった」
まおー様は目を伏せる。無邪気で屈託のない笑顔で笑う魔族の娘のことを回想する。
本来、自分の代わりにこの席に座る定めであった者。
たまたま戦闘能力が一番高いだけの魔族の娘のことを。
「歴史から見て、女の魔王の最期は悲惨だぞ? 大魔導よ」
まおー様はまおー様になってから歴史の勉強をしていた。
ガーデランド歴、魔王歴に関しては50年という歳月をかけて一通り学んだ。
「歴代魔王で言えば、屍麗姫アエーシェがそうでしたな。一撃で首を刎ねられて死ねるのならまだしも、公衆の面前で全裸に剥かれて慰み者にされた後、部位は切断され、柱に磔にされて石を毎日のように投げられるたのでしたか。まぁ、人間共は人間同士で戦争する際でも同じような事をやっております。一番最近の事例ですと、150年前の騎士国の姫騎士がそうでしたか」
歴史とはそれ即ち戦争の歴史、人の争い、魔族の争い。
醜悪で邪悪で凄惨な戦いの歴史。
血を血で洗い流し、次なる戦いに備えて汗を流し続け、
他者の涙を流す事でしか己の渇きを潤す事ができない者達によって作り出される軌跡。
「ふっ… あやつは戦いよりもアホっぽく笑ってる方が似合っておる」
「こほん、全く、やるせませんな。ヘレナ殿の事を想うでしたら"次"のために少しでも情報と盤面を揃えるべきですぞ」
「……そうだな。引き続き勇者の調査を頼むぞ。大魔導よ」
「御意に」
それを知っているからこそ、まおー様は断頭台に登る事をやめない。
でもこれやったらやったで今度は2章を焼き直したい衝動に駆られる。
焼き直した事で1章冒頭の主張とかブレちゃうし。




