2章 第24話:人の敵
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獣魔領 魔城シュールストレミング
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玉座の間には先代魔王の娘へレナを除いたいつもの面子が揃っていた。
まおー様と大魔道がセットになっている時というのは、
大体面倒事が起きているのだ。
本日は姫騎士デモナもちゃっかり玉座の間の警備に参加していたりする。末席だが。
「ガーゴイルの偵察結果によると、サウスイースト近郊で勢力を築いているユーミン遊牧民国がトイナ騎士国に対して戦争を仕掛けたようですな」
姫騎士は警備の任も忘れ「なっ!?」と思わず声を出した。
すぐに横のデーモンナイトに小突かれて我に返った。
「毎度の如く人間共も懲りんな。奪う事と殺す事にかけては奴らより上手い者はおらぬ」
「全くですな。あそこの遊牧民共は150年前も同じ事しておりましたからなぁ。まおー様はご存知ないかもしれませんが」
「いや、記録では把握している。当時の騎士国の姫騎士を剥いて磔にした連中であろう? 激昂したライノスウォーロードが滅ぼしたのではなかったのか」
「国を置いて逃げ出しただけですな。あの連中は奪って殺すだけで自分では農耕を一切しませんからな。奴らの統治下の国なんて単なる公開処刑場か陵辱会場でしかありません。アレから鳴りを潜めていたと思いましたが」
ギリギリと歯軋りの音が末席のデーモンナイトから聞こえてくる。
静かな場なので結構目立つ、そして横のデーモンナイトに小突かれていた。
が、止める気はないようだ。
横のデーモンナイトが困った素振りを見せるのであった。
「いずれにせよ、奴らが騎士国をどうかき回した所で我々にとっては大した問題ではない。まぁ、ライノスウォーロードの奴には後で怒られるかもしれんがな」
「捨ておきますか」
「うむ」
ついに、業を煮やした末席のデーモンナイトが横のデーモンナイトの制止を振り切り、
まおー様に目掛けて歩き出すのであった。
「ま、待ってくれ!」
「何だ、デモナか。先ほどから五月蝿いぞ」
「デーモンナイト風情が、まおー様の御前で無礼であるぞ」
姫騎士デモナは大魔道の叱責に怯みもせず、
歩みも止めず、まおー様の目の前まで近寄ろうとする。
だが、護衛のデーモンナイト二名が槍と斧を交差させて姫騎士の行く手阻んだのであった。
「これでは、双方から略奪される騎士国の民はどうなってしまうのだ。お願いだ魔王。どうか助けてやって欲しい」
姫騎士の懇願に対し、大魔道はあからさまに不快感をあらわにし、
まおー様は侮蔑の目で見据えるのであった。
「……デモナよ。貴様何か勘違いしておらぬか? 余は魔王。人間の敵だぞ?」
「そこの二人、この不届き者をさっさと叩き伏せろ」
「ま、待って…あぅっ」
姫騎士デモナはポールアクスの柄で思いっきり叩きつけられて地に伏せさせられた。
もう一人のデーモンナイトは戸惑いながらもスピアの柄を乗せるのであった。
伏せた姿勢で姫騎士は奥歯を噛み締めながらまおー様を見上げる。
「貴様の言いたい事は分からんでもない。が、やりたいのならば貴様が勝手に一人でやれ。それ以上に言う事は何もない。摘み出せ」
ポールアクスを持ったデーモンナイトは姫騎士の首根っこを掴んで立たせ、
そのまま後ろに引き摺って歩き出す。
「放せ、放してくれ!」「黙れ」「あうっ」
ポールアクスを持ったデーモンナイトは、
尚も抵抗を続ける姫騎士に一撃いれて黙らせて玉座の間から引き摺りだすのであった。
「クウガ、デモナが望むならお主がヒポクリフで騎士国近辺まで送迎してやれ。それ以降の事はお主の判断で好きにしろ」
「はっ!」
命令を快諾したクウガと呼ばれたスピアを持ったデーモンナイトは、
玉座の間から出て行くのであった。
「まおー様、処刑しなくてよかったのですか?」
「それをやると色々と恨まれるだろうからな。全く…… 面倒なのを拾ってしまったものだ」
まおー様は姫騎士の意志を認める事はできない。
まおー様は正義の味方ではないし、何の利益もない国に助太刀する理由もない。
略奪対象の人間共が少々生き難くなることなど、全くどうでもいいのだ。
助太刀する事で払う犠牲の数、背後から矢をかけられる危険性を考慮するならば、
姫騎士の頼みなんて全く聞くに値しないのだ。
「大魔道よ。デーモンナイトの一人や二人、毎年魔獣に食われてたりするだろう?」
「そうですな。よくある話です」
「偶々装備品が魔獣の腹に収まってしまう事も稀によくあるだろう?」
「そうですな。よくある話です…… まおー様…甘いと思いますぞ」
「まぁ、どうせ使わんモノだ。餞別ついでにくれてやれ」
「はぁ……」
言葉の意味を理解した大魔道は手筈を整えるのであった。
実の所、まおー様は単に1デーモンナイトの恋路を応援しただけだったりする。
別に帰ってこなけりゃそれでよい。その後なんて知った事ではない。
それくらいの話なのだった。
案の定暴走するデモナちゃん。魔城の風物詩である。
任務放棄はおーさま的にはふつーに極刑モノだよね。コレ
でもまおー様はツンデレなので……ついでにクウガ君の恋路を応援するのであった。
実の所、魔族の自由な恋愛推進派。本人自身、身分に不相応な恋のために走ってるからね。




