2章 第19話:眷族化の対価
正直このオチがやりたかったからレイディアナちゃんを闇堕ちさせたといっていい。
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獣魔領 魔城シュールストレミング
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天井が吹き抜けになったいつもの玉座の間にはいつもの面子、
まおー様、大魔道、ヘレナ、そして警備のデーモンナイト達、
の他に新しいメンバーが一人加えられた。
姫騎士のレイディアナ改めデモナであった。
空にはガーゴイル複数おり、黒曜石で出来たレンガを積んでたりするけども、
気にしたら負けだろう。誰かが破壊してしまったのだから仕方ないのだ。
そして、大魔道は青筋を立ててまおー様に詰め寄るのであった。
その理由は単純、姫騎士を連れ帰って来た事と、
まおー様がお腹に穴を開けて帰ってきたことだ。
「それで、腹に穴を開けて帰ってきたのですか。いい加減まおー様の外出を禁止させましょうか?」
「待て、大魔道。それは困るぞ」
まおー様は大魔道に叱られて焦っている一方、姫騎士はと言えば、
周りに居る漆黒の騎士やまおー様を超える鬼気を放つ大魔道や魔族の娘を前にして、
恐れおののいていた。
それはもう、ただ嵐が過ぎ去るのを待つ子供のように縮こまっていたのだ。
「ねぇ、マオ。それでそこの子って誰なの?」
まおー様にそう追求する魔族の娘の語調が心なしか冷たい気がする。
姫騎士はビクッと震える。
「墓参りついでに騎士王の娘を余の眷族にしたので拾ってきたのだ」
「新しく眷族となりましたデ、デモナと言います。い、以後お見知りおきをくださぃ…」
消え入りそうな声でたどたどしく自己紹介をする姫騎士であった。
数秒後には消し炭にされそうなプレッシャーを姫騎士は感じていたのだ。
「ふぅ~ん? マオって眷族作れたんだ?」
まおー様も何か嫌な汗が流れ始めた。
気がついたら若干大気が震えていたのだ。
これは、膨大な魔力の本流が通るときに引き起こされる現象だ。
これを出来るのは、この場において一人しか居ない。ヘレナだ。
彼女の艶やかな金髪がふわふわと浮いていた。
「ああ、ど、ドラウグルの奴が吸血すると眷族を作れると言っていたものだから余も試してみたの…だ」
徐々にあてられる鬼気が強まってる事を自覚したまおー様は戸惑った。
「変態の真似したってこと?マオったら馬鹿なんじゃないの?変態!すかぽんたん!オルゴーモン!」
「い、いや待て。ヘレナよ。どうしてそう怒っておるのだ」
そこに大魔道が口を挟んだ。
「まおー様…… 分かっていてやったわけではないのですか?」
「いや、何の事だかさっぱり分からん。説明しろ」
「その、屍魔族にとっての吸血とは、求愛行動なのですよ」
「「えっ!?」」
姫騎士とまおー様がシンクロした瞬間であった。
片やわなわなと身体を震わせて顔を真っ赤にし、方や顔が真っ青になっていた。
「それだけではなくてですね。ある意味では生殖行動でもあるんです。その、失礼を承知で聞きますがデモナ殿、まおー様に吸血されていた時はとっても気持ちよかったのでは?」
「そ…その…は…はぃ……」
顔を伏せてプルプルしてる姫騎士は消え入りそうな声で答える。
あの快楽に耽ってだらしない顔をしていた頃を思い出して恥ずかしくなったのだろう。
「本来、吸血というのは、お互いに信頼関係があって初めて行われるのです。何故かといえば、血を媒介に伝染する病だってありますし、眷族化には"お互いに"リスクもあるのです。毎年気持ちいいからと噛み合いっこして中毒になったりする屍魔族だって後を絶ちません。まぁ節操なしに吸血して妻を増やすのはドラウグルくらいでしょうが……」
まおー様は今更自分が取り返しのつかない事をしてしまったのだと理解したのだ。
まおー様はヘレナちゃん一筋なのだが、これは明らかな不貞行為であった。
知らなかったでは済まされない。無知は、罪なのだ。
「ねぇマオ、眷族作るだけなら血でも舐めさせればいいだけじゃないの?何で吸血したの?言って」
「そ、それは……」
以前酒の席でドラウグルという魔族と一緒になった事があるまおー様だが。
ドラウグル曰く、
お前も屍魔族の血が混じってるなら吸血して眷族作れるのでは?から始まり。
ドラウグル曰く、
処女の生き血は旨いらしい。最も、飲んでも全く理解できなかったが。
血は血でしかなく、自分のモノと大差なかった。
「ドラウグルの奴が眷族作るならそれが一番よい…と」
「はぁ……ほんと、マオったら馬鹿ね。信じられない」
「ヘレナ殿…… まおー様の情操教育の不備は私の責任です。どうか許してあげてくださいませんか」
まおー様はのうきんなので、正直子供の作り方だってわかってない。
まおー様は未だにロック鳥が次の世代の子供を運んでくるのを信じているくらいなのだから。
ここまでの50年間、ずっと日課をしたり魔族の国営について勉強したりしているのだから。
正直、その辺の話についてはもっぱらドラウグルとの絡みでしか聞かないのだ。
そして、ドラウグルはヘレナ曰く変態だった。
それは、魔王となるために不要なモノを切り捨てて生きてきた弊害であった。
心底呆れ顔になる魔族の娘であった。
かつてこれ程ヘレナにキツイ語調で怒られた事はまおー様にはない。
「し、知らなかったとはいえ、申し訳ないと思っている。許してくれ。ヘレナ」
しかし、何で自分はヘレナに謝っているのだろうか。
と一瞬疑問が浮かぶまおー様であった。
「うん、もう私が許可するまでは女の子に吸血するのは禁止だからねっ」
「ん?」
まおー様は疑問が浮かぶわけだ。"女の子"と限定する意味が。
「男なら吸血しても構わないのか?」
まおー様はあんまり深く考えずに質問してしまった。
それはヘレナちゃんの意図を聞くため。だが……
「「「え!?」」」「うん」「え!?」
場が一瞬凍りついた。そして、デーモンナイト達がざわ…ざわ…し始める。
大魔道は哀れな者を見る目でまおー様を見つめるのであった。
「まおー様……それは…」
「い、いや、待て、誤解だぞ?余は男色家ではないからな!待て、そんな目で見るな!」
デーモンナイト達の疑心の視線を一身に受け、
眷族を作った事の対価を払う事になったまおー様なのであった。
「私が……求愛?」
一方で姫騎士はもんもんとしているのであった。
ヘレナちゃんが嫉妬した。やったー!
でもまおー様の世間一般の評価がガチホモになってしまった。やだー!
ということでまおー様は吸血はもうしないと心に誓うのであった。
余談ですが、まおー様の認識では
まおー様→ヘレナちゃんは一方的な片思い。
ヘレナちゃん→まおー様はお友達
まおー様→デモナは貧弱一般新人
デモナ→まおー様は仇
くらいだと思ってます。なのでデモナちゃんやヘレナちゃんの反応に違和感があったりするわけですが、あんまり気にしてない。




